海外拠点の中国「秘密警察」、日本含め世界で何箇所?── NYで初の逮捕者
中国系アメリカ人の男が、中国の警察拠点をアメリカ、ニューヨークで設立、運営していたとし、17日逮捕された。
逮捕、起訴されたのは、市内在住の50代と60代の米国籍を持つ中国系の男2人だ。
民主活動家などの在米中国人を監視するため、2人は昨年2月よりチャイナタウンにあるビルの3階で、中国の福建省福州市の「警察署」を無許可で開設、運営していたとされる。この拠点は昨年よりF.B.I.(連邦捜査局)の捜査対象となっており、被告はそれに気づき、秋ごろ閉鎖していた。
このビルは6階建てのオフィスビルで、中華系の飲食店やホテルが集まる歓楽街に位置し、辺りは観光客も多く行き交う。
アメリカ国内では、ニューヨークやロサンゼルスをはじめとする数箇所に、中国共産党が違法運営に関与している「警察拠点」があるのは周知されているが、ニューヨークタイムズによるとこのような秘密警察に関連した逮捕、刑事告発は初のケースだ。
2人の被告は、中国政府との共謀による米国在住者への脅迫、証拠隠滅、捜査妨害の容疑で同日起訴されたが、出廷後は釈放されている。
慈善団体を隠れ蓑として活動
この秘密警察はどうやら慈善団体を隠れ蓑として活動していたようだ。
「福建省福州市出身者の交流の場」をミッションに掲げ2013年に立ち上げられた慈善活動の非営利団体、アメリカ・チャングル・アソシエーションNY(America ChangLe Association NY Inc.)が警察拠点になったのは、昨年頭と見られる。実態を知らず、昨年のパーティーにはエリック・アダムス市長も参加していた。その後内部告発により実態が明るみに出て、F.B.I.の捜査対象となっていた。
また、米司法省は2人の被告の起訴同日、中国で活動する人民警察官40人についても、国境を越えた弾圧や嫌がらせで起訴したと発表した。ただしアメリカと中国の間には犯罪人引き渡し条約が締結されていないため、身柄は拘束できていない。
中国の秘密警察署、世界で何箇所?日本は?
前述のニューヨークタイムズなど各紙によると、世界中にある中国の警察業務拠点数は、中国の抑圧を監視するスペインの人権団体、セーフガード・ディフェンダーズ(Safeguard Defenders)が調査している。それによると、ニューヨーク市内には今回閉鎖された場所以外にも別に拠点があるという。また全米にはロサンゼルス、サンフランシスコ、ヒューストンなど少なくとも6都市に広がっている。
世界中では、少なくとも53ヵ国で確認されている。同人権団体は昨年9月、世界中に点在する54拠点の存在を初めて明らかにし、その後さらに48拠点の存在も確認した。例えばトロントに3箇所、パリに2箇所、ロンドンに2箇所、さらにスペイン、イタリア、クロアチア、セルビア、ルーマニアなどといった具合だ。単純計算で世界中に少なくとも102拠点が確認されていることになるが、チャイナタウンがない国はないとも言われている通り、実際にはもっと多そうだ。
中国当局によるこれらの警察拠点は、「外国の市民権を持つ20万人以上の中国系の人々を中国に強制的に帰国させたことに関与した」とされ、「国際法と領土主権の侵害」との非難が国際社会から出ている。アイルランド、カナダ、オランダの当局は、自国にある秘密警察に対して運営停止を求めているという。
日本国内は、FNNプライムオンラインによると、東京の秋葉原と福岡に同様の拠点の存在が確認されており、ほかにも東京の銀座、名古屋、大阪での存在も推察されている。しかし日本では「犯罪事実がなければ検挙できず、慈善組織を隠れ蓑にする手口に打ち手はない」という。よって日本にはない「スパイ防止法の検討がされるべき」と報じられた。
世界に先駆けニューヨークで初の逮捕、刑事告発があったことで、中国が国境を越えてまでも人々を取り締まろうとする横暴なやり方をめぐる世界的な論争は、今後活発化していくことだろう。
(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止