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夫と離れて島暮らしに出た人気イラストレーターに密着!奄美の心癒される時間を感じてもらえれば

水上賢治映画ライター
「夫とちょっと離れて島暮らし」の國武綾監督 筆者撮影

 奄美地方で公開が始まると、異例の連日満員御礼!その反響から、東京を皮切りに全国公開が始まったドキュメンタリー映画「夫とちょっと離れて島暮らし」。

 奄美群島の加計呂麻島に期間限定移住していたイラストレーターのちゃずの島暮らし生活をみつめた本作は、いろいろな視点から語れる1作といっていいかもしれない。

 それこそ島暮らしに憧れている人にとっては、その生活のひとつの指針になるかもしれないし、夫とちょっと離れて暮らすという観点から、夫婦関係の在り方について考える人もいるかもしれない。

 もちろんInstagramのフォロワーが10万人を超す人気イラストレーターのちゃずが、島でどんな生活を送っていたかに興味を抱く人もいることだろう。

 夫と離れて島暮らしをはじめた、ちゃずの何に心惹かれ、彼女との日々から何を感じたのか? 

 手掛けた國武綾監督に訊くインタビューの第四回(第一回第二回第三回)へ入る。(全四回)

昨年2021年の2月に、奄美大島へ移住!

 最終回となる第四回は、劇場公開を迎えての心境についての話を。

 実は、國武監督は本作の撮影を終えた後になる、昨年2021年の2月に、奄美大島へ移住している。

 移住に際しては、本作での経験がやはり大きかったという。

「前にも少しお話ししたように奄美を訪れた際に魅せられて、いつか『移住したいね』と夫と話はしていました。

 つまり撮影をする前から、移住の話は出ていました。

 でも、ちゃずさんの撮影をもって、移住する気持ちが固まったというか。

 現在住んでいる奄美大島のエリアは、ちゃずさんが暮らした西阿室集落と雰囲気は異なるんですけど、奄美地方に流れる空気や時間は共通していて。

 短い期間ではありましたけど、ちゃずさんの期間限定移住に密着することで、わたし自身もどこか奄美を体験移住できたところがありました。

 その体験を通して、『ああ、ほんとうに奄美に住みたいな』と心から思ったんですよね。

 ですから、この映画の撮影をもって、移住に踏み出せたところはあると思います。

 あと、撮影を通して出会った、マムさんをはじめとする集落のみなさんがほんとうに魅力的な方ばかりで。

 いまもお付き合いが続いている。

 ほんとうにありがたいぐらい、撮影で突然来たに過ぎないわたしのことを迎え入れてくださった。

 そういう心の温かい方々と出会えたから、より移住したい気持ちが高まった気がします」

奄美にいると人間の力ではどうにもならないことが起きる

いい意味で諦めがつくように気持ちが変わりました

 ただ、活動の拠点を東京から、いきなり見ず知らずの土地に移すというのはなかなか勇気のいること。

 不安はなかったのだろうか?

「不安がないことはなかったです。

 ただ、現段階は『良かった』というのが偽らざる気持ちです。

 映画の中でのちゃずさんがそうですけど、むしろ島で暮らすことによっていろいろなインスピレーションを得ることができて。

 思ってもみない体験に巻き込まれることも多くて、創作の意欲がすごく高まる。それをいま実感しています。

 あと、奄美は『再生の島』とも呼ばれていて、なにか心をリセットしてくれる場所なんですよね。

 心を新たにして、なにか健全な気持ちで新たなことに臨める。そういう場所で。

 わたしにとっては実際にそういう場になりました。

 あと、ちょっと話はそれるかもしれないんですけど、奄美にきて細かいことにくよくよしなくなったというか。

 いい意味で諦めがつくように気持ちが変わりました。

 というのも、奄美にいると人間の力ではどうにもならないことが起きるんです。

 たとえば、予定していたフェリーが強風のため欠航で乗れないとか、台風で飛行機が飛ばなくなってしまったとか。

 思わぬ足止めをくってしまうんですけど、もう自然の力には敵わないから、もう受け入れるしかない。

 そうした経験を何度かしたとき、わたしは自分の領分がはっきりわかったというか。

 自分の精一杯はここで、それ以上のことは無理をしないで受け入れるところは受け入れる。

 そう気持ちを切り替えることで自分らしくいられるようになってすごく楽になりました」

「夫とちょっと離れて島暮らし」より
「夫とちょっと離れて島暮らし」より

わたしもおそらくちゃずさんも感じた

奄美に流れる穏やかな時間や人々の温かさを伝えたい

 撮影の日々は自身の心が癒される時間だったかもしれないと振り返り、そのことを作品に反映させたところがあるという。

「ほんとうに幸せな日々だったなと。

 ちゃずさんの移住生活を撮影させていただいたわけですけど、途中からわたしも島の移住者となって一緒に暮らしているぐらいの気持ちでした。

 前にお話しした通り、撮影自体は初めてのことだらけで大変だったんですけど、ちゃずさんと西阿室集落のみなさんと過ごす時間というのは心地良くて、ほんとうに心を癒されました。

 もしかしたら、このわたしが心を癒されていく過程を映画で伝えられたらというのが、作品をまとめるにあたってもっとも意識したことかもしれません。

 おそらくわたしのように都会の喧騒や生活にどこかなじめなくて、心が疲れ果ててしまっている人はけっこう多いんじゃないかと思うんです。

 そうしたみなさんに、わたしもおそらくちゃずさんも感じた奄美に流れる穏やかな時間や人々の温かさに触れていただき、ちょっと心の休息をしてもらえたらなと、作品作りにおいて考えたところがありました」

 こうして生まれた作品は、まず奄美地方で公開され連日満席の大反響を呼んだ。

「最初に、西阿室集落で試写会を開いたんです。

 マムさんが提案してくださって、浜辺の近くの港の芝生広場で野外上映会を開きました。

 コロナ禍ということもあってオープンスペースでやるのがいいのではないかということで始まったんですけど、西阿室集落の青年団のみなさんの協力のもと、スクリーンが設置されて、当時は集落の半分以上の方が集まってくださいました。

 これはもう感無量でしたね。

 そこからスタートして次に奄美大島の名瀬で試写を予定していたんですけど、コロナ禍で当初予定していたホールが閉館してしまったんです。

 もう途方に暮れたんですけど、これも奄美の海洋展示館の方が『うちのシアタールームを使っていいですよ』と助け船を出してくださって無事開くことができました。

 その後、奄美大島唯一の映画館『ブックス十番館シネマパニック』で先行上映を経て、奄美市に新しくできた奄美市市民交流センターの大ホールでの上映。

 ロケ地である加計呂麻島の諸鈍にある加計呂麻島展示体験交流館や、古仁屋のきゅら島交流館での上映と、ほんとうに奄美のみなさんのおかげで上映が続いて多くの方が足を運んでくださいました。

 感想の中では『奄美を舞台にした映画はあったけど、「島(の暮らし)をそのまま切り取ってくれた」のがうれしい』という声を多数の方からいただいたのがなによりうれしかったです。

 『こういう映画を作ってくれてありがとう。この映画をよろしくお願いします』という言葉もいただけて、監督としてひと安心しました。

 あと、意外なことに、奄美のみなさんも加計呂麻の風景をみて懐かしい気持ちになるというか。

 『昔の奄美はこうだったよな』という気持ちになって、昔のことをいろいろ思い出すみたいなんです。

 奄美も名瀬など(生活が便利な)街になっているところがあるので、加計呂麻島にはまだ昔ながらの奄美の風景が残ってるみたいで、それで懐かしい気持ちになると。

 そう思っていただける作品になったことも個人的にはすごくうれしかったです。

 ほんとうに奄美のみなさんの力によって完成して、劇場公開という船出を迎えられた作品で。

 いまはちゃずさんと奄美のみなさんに感謝の気持ちでいっぱいです。

 奄美のみなさんの想いを胸に、頑張ってひとりでも多くの方に作品を届けられればと思っています」

「夫とちょっと離れて島暮らし」より
「夫とちょっと離れて島暮らし」より

「夫とちょっと離れて島暮らし」

監督:國武綾

プロデューサー:中川究矢

出演:ちゃず、マム、ヘイ兄、加計呂麻島 西阿室集落のみなさん、

けんちゃん ほか

大阪 シアターセブンにて3/11(金)まで上映、

3/19(土)〜25(金)まで追加上映決定!

石垣島 しらほサンゴ村にて3/12(土)〜13(日)上映

名古屋 シネマスコーレにて4/30(土)上映

鹿児島 ガーデンズシネマにて5/6(金)〜8日(日)上映

新潟シネ・ウインドにて4月以降公開予定

場面写真はすべて(C)「夫とちょっと離れて島暮らし」製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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