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お風呂とトイレ以外は撮影OK!俳優業からちょっと離れて人気イラストレーターの島暮らしに密着

水上賢治映画ライター
「夫とちょっと離れて島暮らし」を完成させた國武綾監督  筆者撮影

 奄美地方で公開が始まると、異例の連日満員御礼!その反響を得て、現在東京での公開が始まったドキュメンタリー映画「夫とちょっと離れて島暮らし」。

 奄美群島の加計呂麻島に期間限定移住していたイラストレーターのちゃずの島暮らし生活をみつめた本作は、いろいろな視点から語れる1作といっていいかもしれない。

 それこそ島暮らしに憧れている人にとっては、その生活のひとつの指針になるかもしれないし、夫とちょっと離れて暮らすという観点から、夫婦関係の在り方について考える人もいるかもしれない。

 もちろんInstagramのフォロワーが10万人を超す人気イラストレーターのちゃずが、島でどんな生活を送っていたかに興味を抱く人もいることだろう。

 夫と離れて島暮らしをはじめた、ちゃずの何に心惹かれ、彼女との日々から何を感じたのか? 手掛けた國武綾監督に訊くインタビューの第二回へ入る。(全四回)

断られたどうしようと不安がなかったかといったら嘘になる

 前回(第一回)は、「島暮らしが残り2カ月」というちゃずの投稿でいてもたってもいられずに現地へ飛んだところで終わった。

 そこから現地での撮影取材交渉となったわけだが、事前に伝えてはいるもののほぼ直談判だったという。

「事前に少しやりとりはしていて、ちゃずさんの加計呂麻島での生活のマネージメントをされているマムさん、ヘイ兄さんから『大丈夫ですよ』とはいわれていたんです。

 でも、実際に会ってみないとわからないじゃないですか。

 わたしはもうちゃずさんにお会いして、もうどうにかして撮影させてほしい気持ちでいっぱい。

 でも、ちゃずさんがわたしを受け入れてくれるかはわからない。このときが初対面ですから。

 だから、断られたどうしようと不安がなかったかといったら嘘になる。

 あと、前にも話した通り、都会生活のストレスと仕事に悩んでいる時期だったので、こんな状態のわたしを果たして受け入れてくれるのかと、自分にも自信がありませんでした」

お風呂とトイレ以外だったら(撮影して)いいですよ

 そんな状態だったが、とにかくその想いをちゃずにぶつけたという。

「実際にお会いしたら、島での体験が綴られたInstagramでの漫画、著書『イラストレーターちゃずの 夫とちょっと離れて島暮らし』を読むだけではわからなかったちゃずさんの魅力に触れたというか。

 まずそのかわいらしさにやられ、絵のすばらしさからすごい芸術家なんだ納得させられ、ほんとうに魅了されて、瞬時に『撮りたい』と思いました。

 それで、隣に視線を移すと、ちゃずさんが手伝いもしている島で唯一のお食事処『もっか』のご主人のヘイ兄さんとマムさんがいる。

 二人はちゃずさんの友人で、創作活動を支えてもいる。このお二人がいて、ちゃずさんは島での創作活動が展開できているんだなと感じるところがありました。

 そのことにも興味がわいて、『ぜひ撮らせてください』とお願いしました。するとちゃずさんが『お風呂とトイレ以外だったら(撮影して)いいですよ』とおっしゃってくれた。

 ほんとうにうれしかったです。

 ただ、実際は、こんな冷静に考えられていないくて(苦笑)。

 もう緊張しちゃって、自分でも何を言っているのかわからないぐらいだったんです。

 ほとんど挙動不審で、ちゃずさんともまともに目を合わせられないぐらいだったんですよ。

 というのも、前も話した通り、わたし自身はどうにかして撮影はしたいものの、パーソナルな気持ちは落ち込み気味で。

 あまりにちゃずさんもマムさんもヘイ兄さんも活き活きしているので、なんかまぶしすぎて直視できなかったんですよね(笑)。

 その生命力というか出ているパワーに圧倒されて、ちょっと怖かった。

だから、実はほとんどの説明は隣にいた夫の中川(究矢)がしてくれたんですよ(苦笑)。

 あとから聞いたことですけど、ちゃずさんは『冗舌に説明されるよりも、たどたどしい感じなのが信用できてよかったです』とおっしゃってくれました。

 また、わたしはまったく覚えていないんですけど、マムさんが『この映画を通して、何を伝えたいんですか?』と質問してくださったようなんです。

 それに対してわたしは『次までに考えておきます』と答えたようで、ほんとうに恥ずかしいし断られても仕方ないんですけど、マムさんは、それで『好きになった!』と思ってくれたようです」

「夫とちょっと離れて島暮らし」を完成させた國武綾監督  筆者撮影
「夫とちょっと離れて島暮らし」を完成させた國武綾監督  筆者撮影

集落の人たちがみんな自然体なんです

 ほかにも、『撮影をしたい』と思った理由が加計呂麻島に訪れた瞬間にあったという。

「奄美大島の古仁屋から船に乗って加計呂麻島の『スリ浜』という浜に降り立って遊んだことはあったんですけど、ちゃずさんが暮らす集落を訪れるのは初めてでした。

 ちゃずさんが暮らす西阿室集落は、港から車で10分ぐらいいった山を越えたところにあるんですけど、ほんとうに絵本のような世界に迷い込んだようでした。

 入り口に大きなガジュマルの木があって、すばらしい自然に囲まれている。そして、その場にはなぜか懐かしい空気が流れている。

 こんな美しい自然がまだ残っている場所があるんだと思いました。

 どこをきりとっても絵になるというか。今回の映画でも紹介しきれないぐらい美しい風景が広がっている。

 夕日がきれいに沈むことで有名なんですけど、ほんとうににわかに信じられないぐらい美しい。

 それから、集落の人たちがみんな自然体なんです。

 『人ってこんなに自然体でいられるものだっけ?』と思うぐらい、自然体でいる。

 都会の生活では、どこかしら自分を隠して生きているところがあるじゃないですか。

 それこそ道を歩くときも、なにかしら周りから影響を受けて、自分の思うようには歩いていない。

 それに対して、西阿室集落のみなさんは自然体ってこういうことだよなっていう姿で。『人ってこういうふうに自然にいていいんだよな』と、気づかされた。

 そして、集落のみなさんのコミュニケーションというものが、そういう自然体でいられるものでした。

 とにかく人も場所も、初めていったのになぜか安心できる。昔、わたしはここにいたんじゃないかという懐かしさを感じさせる。

 この西阿室集落という場所と人々も『撮りたい』と思いました」

(※第三回へ続く)

「夫とちょっと離れて島暮らし」より
「夫とちょっと離れて島暮らし」より

「夫とちょっと離れて島暮らし」

監督:國武綾

プロデューサー:中川究矢

出演:ちゃず、マム、ヘイ兄、加計呂麻島 西阿室集落のみなさん、

けんちゃん ほか

2022年1月7日(金)まで新宿 K’s cinemaにて公開中

場面写真はすべて(C)「夫とちょっと離れて島暮らし」製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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