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島暮らし密着取材は、おいしいごはんが心の救い?わたしの思いを汲んでくれた島のみなさんに感謝!

水上賢治映画ライター
「夫とちょっと離れて島暮らし」の國武綾監督 筆者撮影

 奄美地方で公開が始まると、異例の連日満員御礼!その反響を得て、東京を皮切りに全国公開が始まったドキュメンタリー映画「夫とちょっと離れて島暮らし」。

 奄美群島の加計呂麻島に期間限定移住していたイラストレーターのちゃずの島暮らし生活をみつめた本作は、いろいろな視点から語れる1作といっていいかもしれない。

 それこそ島暮らしに憧れている人にとっては、その生活のひとつの指針になるかもしれないし、夫とちょっと離れて暮らすという観点から、夫婦関係の在り方について考える人もいるかもしれない。

 もちろんInstagramのフォロワーが10万人を超す人気イラストレーターのちゃずが、島でどんな生活を送っていたかに興味を抱く人もいることだろう。

 夫と離れて島暮らしを始めた、ちゃずの何に心惹かれ、彼女との日々から何を感じたのか? 

 手掛けた國武綾監督に訊くインタビューの第三回(第一回第二回)へ入る。(全四回)

 前回(第二回)は、ちゃずに撮影を申し込み、取材に入るまでの過程を訊いた。

朝7時に集落の放送があって、その音で必ず起きちゃう(笑)

 今回は、いよいよ島での密着取材について訊く。

 「トイレとお風呂以外はOK」と告げられたわけだが、実際の撮影はだいたいどのような1日を送っていたのだろうか?

「島にある宿に泊まって、起床は7時。

 朝7時に集落の放送があって、音楽が流れてくるんです。その音で必ず起きちゃう(笑)。

 その放送で起こされて、もしくは7時より前に起きて、前回お話しした通りに、加計呂麻島の美しい自然も作品に収めたい気持ちがあったので、風景を撮りに行っていました。

 で、ちゃずさんが活動を始めるのはだいたい8時前ぐらいからで。撮影可能のときは、ちゃずさんの家に行って、日中の活動を撮らせてもらって、最終的には『もっか』で撮影を終えるみたいな感じでした。

 基本的には、ちゃずさんのスケジュールに合わせてほとんど1日ご一緒させていただいて。

 その隙間の時間に集落の風景を撮っていました」

『お食事処もっか』でのおいしい食事が撮影の活力に!

 1日の撮影を終えると、毎日、「お食事処もっか」に寄っていたという。

「1番印象に残っているのは、『もっか』でのごはんかも(笑)。

 『お食事処もっか』で食事を食べることが多かったのですが、それがもうめちゃくちゃ楽しみでした。

 西阿室集落で唯一のお食事処で、ほんとうに突然取材にやってきた身のわたしとしては助けられました。ほんとうにおいしいんですよ。

 自分で撮影するとか、なにもかも初めてで1日くたくたになるまで撮影して。

 その後、なにが楽しみで心の救いになるかといったら、おいしい食事しかない!

 『もっか』のおいしいごはんがあったから、撮影を頑張れたかもしれません。

 あと、『もっか』は居酒屋でもあるんで、集落の方と一緒にお酒を呑んだりとか。ちゃずさんと一緒に呑むこともありました。

 で、気づけば23時ぐらいになっていることがままありました(笑)。

 それで宿に帰るんですけど、今回、監督に初めて挑んで知ったんですけど、ここで終わりじゃない。

 俳優はそのままお風呂にでも入って寝れますけど、監督は撮影した素材をデータに取り込んだり、映像をチェックしたりしなければならないんですよね。

 最初はちょっと甘えがあって、本作プロデューサーであり、唯一の現場スタッフでもある夫の中川がやってくれると思った。そうしたら、『全部やりなさい』と言われて……。

 データチェック作業をしつつ、『カメラのレンズもちゃんと拭いて!』と中川に怒られながら翌日の準備もしたりしていると、とっくに午前0時を回っていて。

 その後、ようやく就寝すると、朝7時に音楽が流れて目覚める。こんなルーティーンで毎日を過ごしていました」

「夫とちょっと離れて島暮らし」より
「夫とちょっと離れて島暮らし」より

マムさんを筆頭にした西阿室集落のみなさんで作り上げた映画と思っています

 こうして、イラストレーター、ちゃずの残りの島生活を記録し始めた國武監督。ただ、密着して取材し続けていただけでは作品は完成しない。

 とくにドキュメンタリー映画に関しては、撮影取材をどこで終わらせるのか、ひじょうに悩むとよく作り手から聞く。

 実際、國武監督もそこで悩んだ上、コロナ禍の影響も絡み、なかなか終わりを見出せない状況になってしまったという。

「なんとなく『撮影を始めたらずっと撮り続けたくなっちゃうものだろうな』と思っていたんです。

 で、今回の主題歌の坂口(恭平)さんからも『終わりの時期を決めといたほうがいいよ』と助言をいただいていました。

 それで、2020年2月にちゃずさんがあと2カ月で島を離れると言われて、そこで加計呂麻島にとんで撮影を始めたんですけど、その6月ぐらいにちゃずさんが東京で個展を開催する予定があって。

 いったん、そこまでをメドに考えていたんです。

 そうしたら、コロナ禍になって6月の東京での個展が中止になってしまった。

 それから、2月に7日間、3月に10日間の撮影をしたものの、それ以後、コロナ禍で、東京から撮影に行くことが不可能になってしまいました。

 で、どうしようと思い悩んでいたんですけど、少ししたら、マムさんが筆頭人で西阿室集落のみなさんが撮った動画が届いたんです。

 インサート用の映像に使う10秒ほどの動画をくださいみたいなことをお願いしてたんですけど、それにしてはけっこうな量の映像データが届きまして。

 どんな映像かなと思って見たら、ちゃずさんが船に乗って島を出るまでの過程が収められていた。

 その映像を見たら、『ああ、この動画をもって映画を完成させよう』と素直に思えたんです。

 最初は、わたしが、ちゃずさんが島を離れるところを撮りたいと思っていました。

 けど、コロナ禍でそれが許される状況にはなかった。で、どうしようと、終わりが見えなくなってしまった。

 そのわたしの思いを汲んでくれたようにマムさんをはじめとした西阿室集落のみなさんがカメラを手にとってくださって、ちゃずさんが島を離れる時間を映像に収めてくださった。

 後でマムさんに訊いたら『綾さんが撮りたかっただろうなと思ったから、カメラ回したよ』と。もう感激しました。

 そういうわたしの思いを汲んで撮ってくださった映像だったからか、自分が撮れなかった悔しさなんか感じず、素直に感動して『これで映画が完成できる』と思えたんです。

 だから、わたしが監督となっていますけど、この作品は、マムさんを筆頭にした西阿室集落のみなさんで作り上げた映画だと思っています。

 マムさんをはじめ西阿室集落のみなさんの支えがあったから完成することができた。

 また、みなさんの支えがあったからこそみなさんの思いも詰まった作品になったかなと思っています。

 ほんとうに加計呂麻島の西阿室集落のみなさんには、もちろんちゃずさんにも感謝です」

(※第四回に続く)

「夫とちょっと離れて島暮らし」より
「夫とちょっと離れて島暮らし」より

「夫とちょっと離れて島暮らし」

監督:國武綾

プロデューサー:中川究矢

出演:ちゃず、マム、ヘイ兄、加計呂麻島 西阿室集落のみなさん、

けんちゃん ほか

大阪 シアターセブンにて3/11(金)まで上映

石垣島 しらほサンゴ村にて3/12(土)〜13(日)上映

名古屋 シネマスコーレにて4月以降公開予定

場面写真はすべて(C)「夫とちょっと離れて島暮らし」製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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