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シリア政府との通商を再開したいアル=カーイダ、そして阻止するトルコ

青山弘之東京外国語大学 教授
シリア人権監視団、2020年4月27日

貿易のアンバランス

シリアのアル=カーイダと目されるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)の通行所局長を務めるというサイード・アフマドなる人物は4月27日、反体制系サイトのドゥラル・シャーミーヤの取材に応じ、「解放区」の貿易のアンバランスを是正したいと述べた。

「解放区」とは、シリア政府の支配を脱した反体制派の支配地のこと。イドリブ県を中心とする北西部はシャーム解放機構が軍事・治安権限を掌握、アレッポ県北部、ラッカ県北部、ハサカ県北部はトルコが実質占領している。

アフマド氏はこのように述べている。

「解放区」(イドリブ県)に輸入される商品の割合は3年前には、政府支配地域からが65%、トルコからが35%だった…。

だが、新たな政治状況、そして「解放区」の通行所(の運営)が統合されたことで、政府支配地域からが5%、トルコからが95%になった。

解放区はその一方で輸入よりも50%も多く、余剰の生産物を輸出している。輸出先は90%が政府支配地域、5%がトルコだ。

通行所設置の試みと住民の抵抗

こうしたなか、シャーム解放機構は4月27日、イドリブ県北部のマアーッラト・ナアサーン村とアレッポ県西部のミーズナール村を結ぶ街道沿線で、土塁や地雷を撤去し、通商用の通行所を設置する準備を開始した。

言うまでもなく、政府支配地域との貿易バランスを是正し、同地から商品を輸入するのが狙い。

しかし、現地では、マアーッラト・ナアサーン村の住民らが、新型コロナウィルス感染症の拡大を招くなどとして、通行所の設置に反対するデモを行った。

なお、シャーム解放機構は4月18日に、政府支配下のサラーキブ市に通じる通商用の通行所を設置することを決定し、準備を始めたが、住民の反発を受け、決定を撤回していた。

そしてトルコの介入

事態が緊迫化したのを受けて、トルコ軍部隊がキトヤーン村の分岐路に展開し、マアーッラト・ナアサーン村に近い政府支配地域に至る街道を封鎖、シャーム解放機構による通行路設置を阻止した。

トルコ軍はまた、マアーッラト・ナアサーン村、シャラフ村にも展開し、大型車輌の通行を禁止した。

LiveuaMap、2020年4月27日
LiveuaMap、2020年4月27日

住民に協力を呼びかけるビラを散布

トルコ軍は一方で、無人航空機(ドローン)を使ってイドリブ県内各所にビラを散布し、住民に安全と安定を確保するために協力するよう呼びかけた。

ビラ散布は、ロシア・トルコ軍によるM4高速道路(アレッポ市とラタキア市を結ぶ道路)での合同パトロールの実施に反対し、「尊厳の座り込み」と銘打って、ナイラブ村近郊で抗議行動を行っていたシャーム解放機構メンバーやその支持者を4月26日に強制排除したのを受けたものと思われる(「トルコは「聞き分けのない」シリア反体制派への締め付けを強める」を参照)。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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