無防備な小中学生のSNS利用に危機感 元国税調査官の現役東大生芸人、子どもマネー教育から警鐘
元東京国税局調査官という異色の経歴を持つお笑い芸人のさんきゅう倉田は、ファイナンシャルプランナー3級を有し、昨年4月には東京大学に入学した現役東大生芸人だ。
芸人としての話術やコミュニケーションスキルを活かし、自身の得意な分野で社会的な活動にも身を置く倉田はいま、子ども向けの金融リテラシー向上に取り組んでいる。その背景には、日常的なスマホでのネットやSNS利用における、さまざまなリスクに無防備な子どもたちへの危機感がある。
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現役東大生芸人、学業を優先して仕事を調整
ーー東大の現役学生であり、芸人としても活動されています。いまどういう生活を送っていますか?
大学には週末も含めて週7日、毎日通っていて、学業がメインの生活です。そのなかで、講義を優先して時間を調整しながら、仕事をしています。
ーー東大生になったことは、仕事へどう影響していますか?
学び自体が楽しいこともありますけど、その学びが仕事にも活かせると思っています。東大生になってから、金融や経済、税金に関する講演や監修など新しい仕事がたくさん増えました。
それまでにも、税金に関係する団体での講演の仕事はありましたけど、いまは大学受験に関する話をするようになったり、銀行や金融機関から呼ばれるようになったり、仕事の場が広がりました。
ーー東大生ブランドの影響力は大きいですか?
一定の学力や知識が担保されることが信頼につながり、依頼しやすくなるのではないでしょうか。東大では行動経済学と税法を学んでいますが、それを活かせる新しい仕事を増やしたいですし、既存の仕事のなかでも活かしていきたいと思っています。
社会的に必要性が高まる子どもへのマネー教育
ーーそうしたなか、小中学生に向けた金融リテラシー向上に取り組んでいます。いまそこに向き合う必要性や時代性をどう考えましたか?
子どもたちも日常的にスマホを使う生活をしていますが、ネットやSNSにはさまざまな危険があり、そのひとつがお金の関係です。芸人仲間でも、お金のリテラシーが低いために投資詐欺などに引っかかっている人がいます。
なぜ騙されてしまうのかと考えたときに、お金にまつわる教育が学校でまったくないことがひとつの要因だと気づきました。だから、大多数の子どもたちは金融リテラシーが低いまま決して善意だけではないネットの膨大な情報に触れ、儲かる話を聞かされると簡単に信じてしまう。
働いていれば、お金を稼ぐことの大変さを身を持って理解していますから、楽して儲かる話なんてないことがわかります。でも、ちゃんと働いた経験がない芸人や、そういうことを教わっていない子どもたちは、怪しい話をチャンスだと思ってしまう。そういう子どもたちを大人は守らないといけない。
なので僕は、子どもたちに知っておいてほしいお金のことを教えるマネー教室を小学校でやったり、お金と税金の仕組みや働くことの大切さを学べるボードゲームを作って小学校に寄付したりしています。
10年ほど1人で取り組んできましたが、昨年から家庭科の教科書にお金の分野ができたり、税理士会や金融庁がマネー教育の方針を打ち出したり、ここ数年でとくにニーズが高まっているのを感じます。
いまは投資やマルチなどの被害情報がSNSですぐに広まるので、社会的に詐欺被害が目立ちやすくなっていることも背景にあると思います。
芸人だから子どもたちに伝えられること
ーー小学生向けの書籍『小学生のくらしと税金&社会保険』(主婦と生活社)を監修されましたが、意識したことを教えてください。
子どもたちが身の回りの「社会」を学び、探求していくシリーズになりますが、本書では「税金と社会保険」をテーマにしています。子どもたちの日常生活のなかでどう関係があるのかを具体的にわかりやすく伝えることを意識しました。
いますぐには関係ない子も、中学、高校とわりと早い段階で実際に関わってくることなので、まずは内容をなんとなく把握してもらえればと思います。お金の勉強は、ゆっくり時間をかけてやるもの。小学生のうちから触れておくことは、必ず将来のプラスになります。
ーージブラルタ生命と吉本興業の金融リテラシー教育の取り組みのなかでは、全国の中学校に配布される中学生向け教材を監修されました。
個人での発信には限界がありますので、企業がそこにお金をかけて取り組むのは、社会的意義の高いすばらしいことだと思います。
今回僕は、子どもたちにとってどういう情報が必要で、どういう順序で載せることで興味を持ってもらえるかを主に考えました。これまでの子ども向け教室でリアクションがよかった話だったり、リボ払いでの債務超過やSNS詐欺など実際に若い年代が騙されやすい事例や失敗談などの案を出しています。
ーー芸人ならではの話術や空気を読む力、コミュニケーション力といったスキルが活かされているわけですね。
そうですね。いろいろなエピソードを1人のキャラクターの人生にして載せているので、小話とかネタをしている芸人っぽさが多少あります(笑)。
こういった教育からセミナーやコンテストなどにつながっていけば、数十年後の日本がよりよくなっていると思います。
ーー書籍や教材に触れた子どもたちに感じてほしいこと、生活に活かしてほしいことは?
いろいろな失敗事例を、他人事ではなく、自分の身に実際に起こることだと認識してほしい。僕の話を「月を指すゆび」だと思ってほしいんです。そのゆびを見るのではなく、月をしっかりと見ること。失敗や詐欺の話を読んで、それに気をつけるのではなく、そこから類推して自分の身の回りに起こることを想像して、どう行動すればいいか考えてほしい。詐欺も日々アップデートしていますから、あらゆる詐欺に対応できるようになってほしいです。
金融スペシャリスト・東大生芸人の社会的役割
ーー倉田さんは、芸人のスキルを持ちながら、東大で経済を学ぶ金融のスペシャリストです。そんな特異なポジションにいるご自身の社会的役割はどう考えますか?
コツコツと小学校でのマネー教室をやったりしてきていますが、いち芸人であり、いち庶民です。自分が社会に大きな影響を与えられる人間とは思っていません。社会における役割までは考えていないですね。
ーー倉田さんの生き方そのものが、子どもたちに夢や希望を与えることもあると思います。
そうであればうれしいです。でも、僕自身は夢を持ったことがないんです。夢って叶えられない感じがしませんか? 僕には夢はないけど、目標は常にあります。何かになりたい、何かをしたいと思ったら、それを目標にして、目指せばいいだけ。そして、達成したらまた次の目標を持つ。その繰り返しです。
ーー東大卒業後、新たな目標を持って、芸人以外の道を目指していることもありえますか?
可能性としてはありますね。ただ、自分の将来は自分だけでは決められないこともあります。一方、決められないけど、選ぶことはできる。基本的には受け身なんですよね。なので、どうなっているかわかりません(笑)。
ーーそんな倉田さんの歩んできた道を踏まえて、いまの子どもたちへ伝えたいことは?
とにかく本をたくさん読むこと。本から学べることはたくさんあって。圧倒的に知識がある18〜19歳の東大生と一緒に学んでいて、すごく思います。子どもの頃からたくさん読んでおくことは、知識も語彙も増えるから効率がいい。無理して読むのではなくて、興味のある本からでいい。そこから好きや興味がどんどん広がって、いろいろな本を読むようになると思います。そのなかの1冊に僕が監修したお金の本や教材があるとうれしいです(笑)。
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