鬼越トマホークが貫くコンプラ時代のヒールの道「毒舌は日本のお笑い文化。でもバランスは意識する」
数年前に「誰も傷つけない笑い」がもてはやされた時期があった。それから時代は進み、一時期の流れは過ぎ去った一方、コンプライアンスはより厳しくなり、使う言葉も厳しく制限される。お笑い界にとっては息が詰まるような世の中になった。しかし、そんな時代と逆行するように、毒舌のケンカ芸でヒールの道を突き進むのが、強面コンビの鬼越トマホーク(坂井良多、金ちゃん)だ。
腫れ物みたいな扱いを受けることもある
2020年前後から、トゲや毒のない「誰も傷つけない笑い」がトレンドになり、お笑いのひとつの流れになった。一方、そんな風潮どこ吹く風とまったく気にかけず、わが道を突き進む芸人も少なくなかった。
そんな芸人の代表的な存在が、劇場やYouTubeだけでなくメディアでも変わらず売れっ子の鬼越トマホークだ。当時もいまも、絡む相手に毒を吐くケンカ芸で人気を得ている。彼らのリスクを厭わないその言動の根底には、“毒のある笑い”への思いがある。
坂井「世界的に見たら、チャップリンの時代からお笑いは風刺で社会と戦ってきました。日本の大御所とされている芸人さんでも、わりと毒が効いている方が多い。ビートたけしさん、ダウンタウンさん、爆笑問題さん、有吉弘行さんもみんな最初はそう。
昔の芸人さんは総毒舌(笑)。だからといって僕らがそのレベルにあるわけではないんですけど、そういうお笑いはなくならないし、僕らはそれをやっていきたい。日本のお笑いの根底には、みんなが笑えるような風刺を含む毒舌があると思います」
金ちゃん「僕らが小さい頃から見てきたテレビはもっと毒があってブラックで、それがおもしろかった。でも、いまはそういう時代ではなくなった。“人を傷つけない笑い”がもてはやされてから、僕らは腫れ物みたいな扱いを受けることもあります。でも、それをおもしろいと思っているから貫き通したい。
僕らは宮迫博之さんとか元カラテカの入江慎也さんとか、スキャンダルを起こした人をいじります。でも本人からは、名前を出してくれてありがとうって感謝されるんです。怖いのは忘れられることだから。いちばん愛がないのは、その人たちを遠ざけること。スキャンダルをいじるのはリスクがありますけど、僕らがその人たちに関心がある限り、いじり続けたい気持ちはあります」
コンプラ全盛のいまこそケンカ芸に適した時代
そんな気概を貫く芸人にとって、コンプライアンスが厳しく言われる時代は生きにくくないのか。コンプラ社会への思いを聞いた。
金ちゃん「2018〜2019年くらいはまだギリギリゆるかった。テレビでも悪口とかきついことが言えたので。僕らはそこでヤバいヤツってインパクトで世の中に出てきたから、むしろ時代というかタイミングがよくて目立つことができた。
そこからいまは確かにコンプラがより厳しくなっているんですけど、それがあるからこそ僕らは逆に存在感を出せる側面もある。なんだコイツらって思われるケンカ芸には適した時代でもあるという見方もできます(笑)」
坂井「どんな時代になっても、毒のある笑いが淘汰されることはない。すべてが柔らかい笑いになったら、『そんな笑いはつまらない』と思われる時代がどこかで来る」
金ちゃん「世の中にはヒールが必要。僕らはヒールで、ヒーローに負ければいいって思っています」
好感度も大事だからバランスは取る
テレビをはじめメディアが健全一辺倒に向かっていくなかで、ヒールの道を貫く2人の言葉からは、“毒のあるお笑い文化”を守っていく使命を背負う覚悟を感じさせる。
金ちゃん「いや、使い分けです(笑)。ニコニコしてるだけで入ってくる実入りのいい仕事もありますから、好感度も大事。毒を吐く場と、そうでない場はきちんと線引きしています。
最近、丸くなったとも言われるんですけど、毒は忘れずに権力に対しては噛みついていく。基本はそれをやってウケるかどうか。ただ、バランスは取ります(笑)」
仕事で重視するスタッフとの信頼関係
第三者を巻き込んで笑いを取る彼らのケンカ芸は、バラエティに限らず幅広い現場で重宝される一方、消費され尽くすのも速そうに思える。本人たちもそれは自覚しており、自己プロデュースの意識をしっかりと持っている。
金ちゃん「ひとつの台本にケンカ芸が10回くらい組み込まれている現場がありました。相手は替えても、何回もやっていけば弱くなるし、味もしなくなる。そもそも相手がビッグであればあるほどウケますが、誰も知らない人にいきなりやってもウケない。
この人の企画はおもしろくしてくれるっていう信頼できるスタッフさんは、だいたい決まってきます。逆に、それ以外の新規の仕事の7〜8割くらいは、そんな感じで企画性が弱い。1回目は受けますが、それを経験したら次は断ったりもしています」
坂井「依頼はすべて受けるのが美学、断るなんてありえない、という若手時代もありましたが、いまはその逆張りをしていて。しっかり自己プロデュースしながらやっています。
ただ、信頼できる人からの依頼だったら、ちょっと無理なこととか、もしかしたらケガするかもしれないっていう企画でもやります。この時代でもそういう関係性はあります」
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