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結婚資金に加え生活資金も必要な結婚・出産・子育て 現実と向き合う夫婦の働き方の選択とは

足立泰美甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」
(写真:アフロ)

世帯収入だけでは見えてこない世帯主と配偶者の賃金収入の実態

内閣府「男女共同参画白書」によれば、2人以上世帯のうち勤労者世帯の1か月間の勤め先収入は、かつての2000年の世帯収入と比較した場合に、2022年では増加傾向にあることが報告されている。だが、その内訳をみると、世帯主の収入は減少している。増え続けているのは、世帯主の収入に占める配偶者の収入の割合だ。これは何を意味しているのだろうか。図1には男性と女性の平均給与の推移を示している。男性の平均給与は、1990年代をピークに、減少傾向にあることが見て取れる。なかでも、30歳代後半から50歳代前半の男性の平均給与の減少が大きい。一方で、女性の平均給与は、増え続けている。そこには、以前と同じ収入を維持するには、世帯主の収入だけでは難しい現実がうかがわれる。

図1 男女別年代別平均給与の推移

出典)内閣府「男女共同参画白書 令和5年版」データをもとに作成
出典)内閣府「男女共同参画白書 令和5年版」データをもとに作成

結婚・出産・子育て。そこには、働き続けるという条件が前提となる選択

内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査 」では、「子どもができてもずっと職業を続ける方がよい」と回答する割合が、かつての2000年調査に比べて、2019年調査では、男女ともに、20歳代、30歳代、40歳代で共通して上昇している。しかも、その傾向は、世代が高いほど高まっている。例えば、20歳代の男性であれば、26.8%(2000年)であったのが43.8%(2019年)に、女性であれば30.3%(2000年)から57.7%(2019年)にまで上昇している。それを上回って推移するのが40歳代だ。40歳代の男性であれば35.5%(2000年)から57.0%(2019年)に、女性になると40.2%(2000年)から73.7%(2019年)にまで高まっている。

M字カーブ そこに秘められたL字カーブが示す別の現実

女性の就業率は、かねてから現在に至るまで、M字カーブを描いている。内閣府「男女共同参画白書」では、2002年、2012年、2022年時点での女性の働き方は、25~34歳、35~44歳、45~54歳のどの年齢階級においても、女性の就業率は上昇していることを報告している。女性の年齢階級別労働力人口比率は、結婚や出産を契機に仕事を辞めることから、25~29歳及び30~34歳を底とするM字カーブを描いていた。平成14(2002)年よりも平成24(2012)年で、さらに、平成24(2012)年よりも令和4(2022)年で、そのM字カーブの底が浅くなり、台形に近づきつつある。

だが、雇用形態別にみると、また異なる様相が見えてくる。図2で示されるように、正規雇用と非正規雇用で区分した場合、女性の年齢階級別の正規雇用比率は25~29歳の60.0%をピークに、それ以降は、年齢の上昇とともに低下し、L字カーブを描く。出産を契機に働き方を変え、場合によっては、一旦退職し、子供が大きくなったら非正規雇用として再就職するケースが多いのだろう。それを裏付けるかのように、非正規雇用の年齢階級別の推移では、25~29歳以降は上昇の一途を辿っている。そこには、女性の就業率は高まっているものの、依然として、出産や子育てを機に、以前は働くか、働かないかの二択であった。今は、世帯主の収入が減少するなかで働く選択しかないものの、その働き方で悩む。正規を選ぶべきか、非正規を選択するべきか。

図2 雇用形態別年齢別推移(女性)

出典)内閣府「男女共同参画白書 令和5年版」データをもとに作成
出典)内閣府「男女共同参画白書 令和5年版」データをもとに作成

なぜ、非正規雇用を選択するのだろうか

総務省「社会生活基本調査」では、共働きの女性の家事関連時間を調査しており、391分(2021年)であると報告している。その傾向は、2006年では336分であったのが、2011年は366分、2016年には365分と増え続けている。この数値は何を意味しているのだろうか。私たちは、誰しもが1日24時間と限られた時間のなかで過ごしている。仮に、9時~17時の定時で仕事をするとしても、24時間のうちの6時間程度が家事関連時間、8時間を仕事の時間と費やし、往復の通勤時間が1時間(総務省「社会生活基本調査」で片道31分)で、睡眠時間が8時間(総務省「社会生活基本調査」で7.54時間)であった場合に、残り1時間しか自由な時間がない。だが仕事をしていれば、突発的な残業や子どもの発熱もあるであろう。1日の時間から見えてくる現実は、働きながら一人で子育てするには限界がある。そして、この生活が365日続く。仕事と大きく違うのは、家事や子育てには、休みがない。

問われる雇用政策 L字カーブの是正と女性の就業継続率の向上を目指した提案

週休3日制度やフレックス制度によって、柔軟な働き方が促されてきているだろう。だが、家事・子育てを一人で全てするには、やはり限りがある。確かに女性が育児と仕事を両立しやすい環境が整いつつあるものの、そこには、女性だけでなく、男性の子育てへの参加も重要であろう。その一つの方法として、男性の休業取得の促進が要となる。だが、それだけでは、充分ではないだろう。子育てをしながらも長期的にキャリアが積める手立ても重要である。正規雇用を支援するための助成金制度、例えば、キャリアアップ助成金なども考えうるのではなかろうか。

甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」

専門:財政学「共創」を目指しサービスという受益の裏にある財政負担. それをどう捉えるのか. 現場に赴き, 公的個票データを用い実証的に検証していく【略歴】大阪大学 博士「医学」博士「国際公共政策」内閣府「政府税制調査会」国土交通省「都道府県構想策定マニュアル検討委員会」総務省「公営企業の経営健全化等に関す​る調査研究会」大阪府「高齢者保健福祉計画推進審議会」委員を多数歴任【著書】『保健・医療・介護における財源と給付の経済学』『税と社会保障負担の経済分析』『雇用と結婚・出産・子育て支援 の経済学』『Tax and Social Security Policy Analysis in Japan』

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