台風の計画運休を検証 鉄道は人的被害を出さなかった
列島に大きな被害を与えた台風19号。鉄道も例外ではなかった。北陸新幹線の長野新幹線車両センターの水没による車両の被害や、各地で起こった土砂崩れや路盤の流出など、物的には大きな損失があった。
しかし、利用者や鉄道で働く人たちにはケガなどの被害はなかった。もちろん、堤防の決壊が73箇所、死者が75名という大災害ではあっても、鉄道乗車中の被災や、鉄道で働く人たちへの被害はなかった。
前回の台風15号で見られたような空港アクセス鉄道での混乱もなく、事前の準備も奏功してか、計画運休による混乱は見られなかった。
鉄道各社による事前の告知の充実
台風19号が発生し、大規模になることが報じられて以来、各鉄道会社は「どう計画運休をするか」を計画し、発表し続けた。早くて9日、遅くても10日には、台風接近による運休が告知され、10日にはほとんどの社で計画運休を行うことが知らされた。もっとも判断が難しかったのは京成電鉄であり、成田空港に飛行機が着陸するかどうかで判断が決まるため、「計画運休」ということをなかなか言い出せなかった。しかし、国土交通省が成田空港への飛行機の着陸をさせないという方針を示すと、京成も運休ということになった。
計画運休は、テレビや新聞、インターネットの報道だけではなく、鉄道会社が利用者向けに提供しているスマホアプリや、ホームページでもさかんに告知した。
11日には「翌日の計画運休」を多くの鉄道会社のアプリやホームページが大きく伝え始め、「12日にはよほどのことがないかぎり乗るな!」というメッセージを発していた。
当日は午前中から昼ごろにかけてさかんに運転を終えるという告知を出し、小田急電鉄に至ってはアプリの「列車走行位置」の機能を使用できなくさせ、必要のある人以外は乗るなという意味さえ感じ取れた。台風によって帰れない、動けないということを避けるためだ。
12日には午前中から風雨が強く、東京都調布市にある筆者の自宅周辺でも午後は風や雨が轟音となっており、防災関連の速報が何度も出る状態だった。そんな中で、鉄道は運行を終えていた。
夜になり、台風が近づく。深夜から明け方にかけて東北地方へと向かった。
物的被害の大きさ、人的被害のなさ
台風19号が過ぎ去ると、鉄道施設や車両への被害は大きいということがわかった。しかし、鉄道が全面的に止まっていたのだから鉄道利用者の被害は起こらず、鉄道で働く人たちの被害もなかった。
異常気象時に無理に鉄道を動かし、鉄道関連で大きな事故がある、ということはかつてはあった。台風の中で青函連絡船を動かし多くの人命を失った1954年の洞爺丸事故など、厳しい気象条件の中での運行が事故につながったという例がある。
また大きな台風などの際に無理して鉄道を動かすと、いざ運休になって会社からの帰宅ができない、という事態にもなる。
そうなると駅に多くの人が滞留する。今回の計画運休は、そのような被害を出さなかった。
経験を積み重ねてきた計画運休
国土交通省では、2018年9月の台風での計画運休について同年10月10日に検討会議を行い、検証した。その結果、「(1)利用者の安全確保等の観点から計画運休は必要と考えること、(2)運転再開にあたっては基本的に全線にわたり安全確認する必要があること、(3)利用者への情報提供は多様な手段で多言語で行うこと」という中間とりまとめを発表した。
ことしの7月には「(1)利用者等が適切な行動を選択できるよう、具体的な情報を適切なタイミングで提供すること、(2)情報提供のタイムラインをあらかじめ作成しておくこと、(3)平素から沿線自治体との情報提供・連絡体制の確立に努めること、(4)状況によっては振替輸送が行われない場合もあること」を追加し、先日の台風15号での一部鉄道の混乱を受けて検討会議を実施し、空港アクセス鉄道事業者の利用者への誘導や情報提供、運行再開時の列車設定の工夫、細かな情報提供などを取りまとめとして更新した。
こういった計画運休の積み重ねによるノウハウの蓄積にくわえ、当日が土日とあってか、多くの人が家に閉じこもっていても問題がないような状態であることもあり、計画運休と列車の再開は混乱もなく終えることができた。
計画運休の過去の問題点などを積み重ねた上で行われた今回の計画運休は、肯定的に評価すべきものと考える。