電車、部分廃止が危惧される「とさでん交通」 検討過程で明るみに出た委員の理解不足
高知市内を中心に路面電車が走るとさでん交通軌道線。「高知市地域交通公共交通ありかた検討会」で、電車利用者のバス転換を想定した資料が発表されたことや、昨今のとさでん交通の資金繰りの悪化から軌道や架線の更新のための費用も満足にねん出できていない実情から、南国市やいの町に続く末端区間での廃線が危惧されている。
「高知市地域交通公共交通ありかた検討会」では、利用者の減少や運転手不足などの課題を抱える公共交通の在り方について2022年から議論を進めており、2023年7月28日にその報告書を高知市長に提出。
市長に提出された報告書では、富山市LRT(次世代路面電車システム)関連3事業や岐阜市形BRT(バス高速輸送システム)など、国内各地の鉄道やバスの取り組み事例に触れたうえで、今後に向けた具体策として「電車からLRT、BRTへの転換」「電車からバスへの転換」などが考えられると結論付けられた。
しかし、その検討過程において「実態と乖離しているものがある」と筆者の元に情報提供が寄せられた。
電車利用者の100%または81.4%のバス利用転換を想定!?
第2回会議における交通体系・費用分担の検討内容において、鉄道からバスに転換した際の現実とかけ離れた計算内容が示されていたことは、2023年7月29日付記事(電車利用者100%のバス利用転換を想定!? 高知市検討会が発表した驚きの提案内容)でも指摘したとおりだが、改めてその内容を振り返ると、検討会では「路面電車から路線バスへ転換した場合には、電車の乗客の100%または81.4%のバス利用転換で、「黒字」または「収支均衡」になることが示された。
しかし、鉄道を廃止しバスやBRTに転換した場合、その瞬間からバスの利用者は鉄道時代の半分以下に落ち込むことが通例で、この事実については2023年4月18日に行われた参議院の国土交通委員会でも明らかにされた。2023年6月29日付記事(国会で明らかになったバス転換路線「利用者激減」の実態)
こうした傾向については、路面電車でも同様で、岐阜市など路面電車を廃止した都市の転換バス利用者は30~50%程度に落ち込むのが通常で、電車利用者の100%または81.4%がバスに転換するという発想自体がありえない。
なお、この資料では路面電車とバスが競合する区間においてバスから電車に利用者が転換するケースについては想定がされていなかった。
BRTの不都合な真実には触れられず
また、報告書では路線バス・BRTを活かした取り組みとして、そのトップに岐阜市型BRTの事例が紹介されており、「路面電車廃止により道路空間に余裕が出来たことから、段階的なバス専用レーン整備やPTPSの導入路線再編等により速達性、定時制、輸送力を大幅に向上」と記載されていた。しかし、この岐阜市型BRTの利用者が路面電車時代の半分程度に落ち込んでいること。路面電車の廃止前後で、市内中心部の柳瀬商店街の入込客数が1992年と比較して30%にまで落ち込んでいること。中心市街地の人口も20%以上減少し、岐阜市が計画する中心市街地計画面積が170haから155haに減少し、まちの活力が失われたことについては触れられていない。
一方で、富山市ではLRT整備に力を入れた結果、富山ライトレールでは利用者数が開業前のJR富山港線と比較して平日約2.1倍、休日約3.4倍と大幅に増加。日中の高齢者の利用が増加し、家に引きこもりがちだった高齢者のライフスタイルを変化させ、結果、医療費の抑制にもつなげることができた。さらに、中心市街地の歩行者数増加による空き店舗の減少や地価上昇という効果も表しており、岐阜市とは対照的な状況となっている。
根拠なく富山市LRTを批判する委員の発言
こうした現状の中で、検討会の議事概要には、明らかに公共交通機関に対する理解の足りない委員の発言が散見された。例えば、2023年4月27日に開催された第3回の議事概要には、交通体系についての委員意見として以下のようなものがあった。
これらの発言内容から読み取れることは、LRTや公共交通に対する専門知識がなく、まちづくり全体の視点から如何に地域を活性化させるのかという視点に欠き、目先のコストダウンの議論に終始する委員の存在だ。
筆者への情報提供者は、「富山のLRTを根拠なく批判するのはいかがなものか。こんな品のない人を委員にしたことを問題提起するべき」と苦言を呈していた。
高知においても専門知識を欠いた拙速な議論により、とさでん交通軌道線の部分廃止がこのまま進められてしまうことが危惧される。
(了)