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脱・店舗ビジネスの常識、Yogiboとコナズ珈琲に学ぶ「体験」を重視する逆転の発想

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:コナズ珈琲 公式インスタグラム)

国内外のブランド企業などのトップマーケターが集結するカンファレンス「マーケティングアジェンダ東京2023」において、ビーズソファのヨギボーを販売するYogiboと、ハワイアンカフェのコナズ珈琲を運営するKONA’Sという、全く異なる業態のお二人のお話に思わぬ共通点があったので、ご紹介したいと思います。

「商品を売らなくていい」店舗

モデレーターのJTB執行役員 風口悦子氏(左)と、Yogibo取締役/CFO 小猿雄一氏(右) (出典:アジェンダノート)
モデレーターのJTB執行役員 風口悦子氏(左)と、Yogibo取締役/CFO 小猿雄一氏(右) (出典:アジェンダノート)

「店舗」と言えば、できる限り効率よく運営して、売上の最大化を目指すのが常識。そんなふうに考えている人は、少なくないでしょう。ただ、インターネットやSNSの普及もあり、実はそうした従来の店舗運営の常識に逆行する成功事例が増えてきているのをご存知でしょうか?

今回の「マーケティングアジェンダ東京2023」では、そうした変化を象徴する2つのセッションを聞くことができました。

ひとつ目は、Yogibo取締役/CFOの小猿雄一氏をスピーカーに迎え、JTB執行役員の風口悦子氏がモデレーターを務めたセッションです。「快適すぎて動けなくなる魔法のソファ」として大ヒットしている「Yogibo(ヨギボー)」の事例です。

Yogibo 取締役/CFO小猿 雄一 氏 (出典:アジェンダノート)
Yogibo 取締役/CFO小猿 雄一 氏 (出典:アジェンダノート)

Yogiboはもともと、「電脳卸」というアフィリエイトサービスを提供していたウェブシャーク社が、米国Yogiboの販売代理事業を成功させたことで、米国本社を買収するに至った経緯があります。

そのため、この会社の特徴は根っからの「IT企業」である点です。社内にはSEやアナリストが多数いることから、需要予測システムを自ら開発したり、広告効果をすべて数値化して各施策がどれだけ成果に貢献しているかを可視化したりしています。

そんなYogiboが重視しているのは、「Yogibo Store」というリアルの店舗です。もともとIT企業なので、一見するとECを重視しているように思われがちですが、実際のところ、ECの売上比率は維持しつつ、その一方で、買収によってハイペースで店舗を増やし、今では国内店舗数が100を超えています。

さらにYogibo Storeの特徴は、独自の接客マニュアル「Yogism(ヨギズム)」を通じて、店員に「商品を売らなくてもいい」という指示が徹底して伝えられている点です。通常の家具の店舗が、当然ながら「販売」を目的に運営されていることを考えると、かなり常識外れのアプローチに聞こえるかもしれません。

マーケティングアジェンダ東京2023の会場内に設置されたYogiboラウンジでネットワーキングしながらくつろぐ参加者たち(出典:アジェンダノート)
マーケティングアジェンダ東京2023の会場内に設置されたYogiboラウンジでネットワーキングしながらくつろぐ参加者たち(出典:アジェンダノート)

そんなYogiboが、売上や販売個数の代わりに店舗で重視しているのが「座数」という、店舗でソファを体験してもらった人数。Yogiboのソファは体験してもらうことがとにかく大事なので、店頭では「正しく体験」してもらうことに店員は注力しているんだとか。

「販売」よりも「体験」を重視したら、店舗での売上は下がりそうに思えますが、実は1店舗あたりの売上高は、2018年から2021年で約2.8倍に増加しているのです。また、最終的にECで購入する人でも、店舗やイベント施設などでの体験率は約80%に上ると言います。

店舗で売り込まなくても「体験した人がECで買う」というサイクルが生まれることを、きちんとデータで確認しながらPDCAを回してきた、IT企業出身のYogiboならではの逆張りのアプローチと言えるでしょう。

感動体験と効率、「二律両立」は可能

従来の店舗運営の常識に逆行する2つ目の成功事例は、KONA’S 代表取締役社長の阿部和剛氏がスピーカーとして登場、はなまる 企画本部CMOの髙口裕之氏がモデレーターを務めたセッションで紹介された、ハワイアンカフェ・レストランとして人気急上昇中の「コナズ珈琲」です。

KONA’S 代表取締役社長阿部 和剛氏 (出典:アジェンダノート)
KONA’S 代表取締役社長阿部 和剛氏 (出典:アジェンダノート)

コナズ珈琲は「いちばん近いハワイ」というブランドコンセプトで、丸亀製麺でお馴染みのトリドールホールディングスが開始した新業態になります。コナズ珈琲が重視しているのもまた、店舗における感動体験です。

そのポイントは、「圧倒的なハワイ空間」「選ぶのに迷ってしまうほどワクワクする商品」「すべてのお客様を笑顔にする接客」の3つです。これらを軸に店舗の外装や内装からメニュー、家具に至るまで、徹底的に「体験」を重視した選択をしているのが印象的です。

(出典:コナズ珈琲)
(出典:コナズ珈琲)

飲食店と言えば、一般的には固定費をできるだけ下げ、効率的な運営をすることが成功のための常識と言われます。しかし、コナズ珈琲は内装への投資を一般的な飲食店の1.5倍かけたり、スタッフの動きやすさよりも顧客の「感動体験」を優先した座席配置をしたり、顧客がゆったりとくつろげる空間の提供に重きを置いています。

はなまる 企画本部 CMO 髙口裕之氏(左)と阿部氏(右) (出典:アジェンダノート)
はなまる 企画本部 CMO 髙口裕之氏(左)と阿部氏(右) (出典:アジェンダノート)

効率よりも感動体験を重視したアプローチは、利益率が低くなると思われがちですが、阿部氏は「二律背反だと思い込むのではなく、二律両立が可能だという前提で考えることが大事」と語ります。

(出典:コナズ珈琲)
(出典:コナズ珈琲)

実際に、コナズ珈琲では感動体験を重視することにより、店舗数を増加させながら、その増加ペースよりも大きく利益率を向上することに成功します。2019年から2022年にかけて、店舗数を34店舗から41店舗に増やす過程で、売上高は153%の増加、営業利益はなんと335%の増加という非常に大きな成果を獲得しているのです。

顧客がインターネットやSNSを使いこなすようになり、単純な商品や食品の購入であればネット通販やデリバリーでも可能な時代です。だからこそ、リアルの店舗においては効率や売上を追い求めるのではなく、顧客の「体験」を重視したほうがネットやSNSを通じた顧客の口コミにもつながり、結果的に売上を押し上げることが増えているのかもしれません。

この2つの成功事例から、あらためてすべての業界でこれまでの「常識」を疑って、新しいアイデアに挑戦してみることが求められているのではないかと感じます。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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