Yahoo!ニュース

ロシア材ストップでウッドショック事情は変わったか

田中淳夫森林ジャーナリスト
ロシア材は、世界市場から外されていくのか?(写真:イメージマート)

 昨年からの木材価格が高騰した「ウッドショック」は、今も続いている。建築家などと話をすると、どうしてもこの話題になるのだ。木材価格が上がれば、建築費にも響いてくる。やはり関心は「いつまで続くか」だろう。

 そこで、改めてウッドショックについて考えたいのだが、まず昨年と今年では根本的に原因が変わってしまったと思っていただきたい。おかげで、これまでの予測は飛んでしまった。

昨年と今年では原因が違う

 まずウッドショックが起きた原因だが、昨年の春ごろから急速に木材不足に陥り価格も上がった理由は、アメリカの木材の需給バランスが崩れたことにある。コロナ禍で需要が減ると思って生産を絞ったら逆に建築需要が増えた、という流れで世界中で木材の争奪戦が展開された。そこに世界的な物流の混乱が拍車をかける。

 いわば経営の読みが外れたのが始まりだった。

 だから、やがてバランスを取り戻して落ち着く、と思われた。コロナ禍も落ち着いてきたし、すでに供給量は昨秋当たりから元にもどりつつあり、木材不足は解消に向かっていた。ただし価格は高止まりしているのが困った……という状況。が、これも今年3月ぐらいには価格も以前並になるのでは、という予想もあった。

経済産業省の統計より
経済産業省の統計より

 ところが、今年に入ってガラリと様相が変わった。ロシアのウクライナ侵攻だ。

 この事態によって、ウクライナの木材はもちろんロシア材も貿易が急速に滞り始めた。欧米諸国を中心としたロシア制裁も始まり、ロシア材が出回らなくなってきたのだ。つまり、明確に世界市場の木材供給量が減った。これは、ロシアの経済制裁が行われている限り続くだろう。仮にロシアとウクライナの間に停戦が成立しても、プーチンが健在な限りは制裁を簡単に解除することになるまい。

 日本のロシア材の輸入量はさして大きくない。もともとロシアは丸太の輸出を禁止していたし、製材輸入もそんなに目立たない。ただ合板用の単板不足が合板価格を吊り上げている程度だ。

 しかし、世界レベルでロシア材が出回らなくなれば、回り回って木材不足は続く。そして価格は高騰を続けるだろう。昨年からのウッドショックの延長ではなくなり、「やがて落ち着く」見通しが立たない。(ただロシアの制裁に参加していない中国などは、ロシア材を安く買い叩けてウハウハかもしれない。)

国産材増産チャンス到来?

 いずれにしても、日本でも木材の供給不足は当分続くだろう。

 一方で日本の林業現場では、遅まきながら増産体制を固めてきたようだ。昨年までは、どうせまた外材輸入が元にもどれば、国産材を求める声は消えてしまうと増産に懐疑的な声があったが、そろそろ「今の高値が続くなら増産しよう」と変わってきた。

 林野庁も、今年度の予備費からロシア材から国産材への転換に伴う原木・製品の運搬や一時保管、設計・施工方法の導入と普及を臨時的に支援する「国産材転換支援緊急対策事業」を予算化した。日本の林業界には久々のチャンスかもしれない。これを機に国産材を建築などのスタンダードに持って行けたらよいのだが……。

 ただ私は、そんなに日本の林業現場が生産量を増やす余力があるのか懐疑的だ。マンパワーも機材も足りていないからだ。

 無理に増産しようとしたら、自然破壊的施業になりかねない。昨年も「間伐の予定地を勝手に皆伐してしまった」業者の話を聞いている。また1年で林業技術を十分に身につけられるものではないから、未熟練労働者の事故が心配だ。

 また日本の住宅建築の金額の中で、木材の占める割合はそんなに高くない。せいぜい1割程度だ。それがいくらか上がっても、全体の数%相当だろう。住宅価格の上昇と木材価格は、必ずしも直結していないのである。建築費値上げの言い訳に木材が使われないことを願う。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

田中淳夫の最近の記事