渾身のボケは痛恨のミス？ブランド米による会話の発想はどこから？注目の女性ユニット「点と」の描く世界

映画ライター

2022/7/29(金) 12:36

　昨年９月に開催された＜ぴあフィルムフェスティバル＞（以下PFF）で観客賞を受賞し、第15回田辺・弁慶映画祭、第22回TAMA NEW WAVEで入選を果たした「距ててて」は、ともに俳優として活躍する加藤紗希と豊島晴香の創作ユニット「点と」によるユニークなオムニバス形式の物語だ。

　加藤と豊島は、映画美学校のアクターズコースの同期。

　「点と」では、加藤が監督を、豊島が脚本を担い、アクターズコースの同期の俳優仲間とともにオリジナル作品を作り上げている。

　二人については、ユニット結成の経緯や作品制作の裏側について、５回にわたるインタビューを届けた。

　それに続いて、「距ててて」の作品世界に迫る加藤と豊島へのインタビュー。全国公開を迎えた二人に話を訊く。（全６回）

　以前のインタビューでも少し触れているが、本作は、「点と」にとって初の長編映画になる。

　その構成は、いわゆるオムニバス形式で、４つの物語で構成されている。

　明確に章立てになっているわけではないが、ここでは一編一編をピックアップして作品世界を紐解いていく。

ブランド米のアイデアは台所から？？

　第三回は前回（第二回）に続き、第二章の「かわいい人」についての話から。

　この章のひとつの醍醐味といっていいのは、言葉遊び。連想ゲームのようなやりとりが繰り広げられるのだが、ブランド米をはじめ会話で使用されるキーワード選びが実に巧みでおもしろい。

　しかも、一見、つじつまがあわない言葉のやりとりによって、心がすれ違っているように映るともえと清水の距離の変化が明確に感じられるものになっている。

豊島「もう、これは偶然もかなり入っていて、いきなり『あきたこまち』という言葉から始まりますけど、これは脚本を書いているときに、台所をふとみたら、『あきたこまち』の米袋が目に入ってきた。

　わたしは、詩が好きなので、その言葉自体がもっているリズムや、その言葉に漂うかわいさとかおもしろさにすごく心を惹かれるときがある。

　で、その『あきたこまち』が目に入ってきたときに、ワードとしてすごくおもしろいと思って、よくよく考えてみると、お米の名前ってけっこうユニークなものが多いなと、はたと気づいた。

　それで、お米のブランドを調べて、出てきたものを並べて、選んでいったら、『ななつぼし』『ゆめぴりか』みたいな流れの会話になっていったんですよね。

　それが二人の対話を比喩で表現していく出発点でした。

　このお米での会話が出来上がって、そこから、じゃあ、二人の間にあるずれみたいな状態を、比喩的なもので表現していったらどうなるんだろうと、考え始めていって出来上がっていきました」

「味噌汁と豆腐」は、わたしとしては渾身のボケだった

　ただ、豊島としてはひとつミスを悔やんでいるところがあるのだとか。

豊島「『味噌汁と豆腐』のところなんですけど、わたしとしては渾身のボケだったんです。

　『全然違う二つでも相性が良い』組み合わせを並べていく流れの中で、『味噌汁と豆腐』は『いやどっちも大豆やないかーい！』っていう…（笑）

　でも、そのまえのフリとなる『白Ｔとジーンズ』をものすごくきちんと考えると、それもどっちも綿っていう同じ素材から出来てるから、『味噌汁と豆腐』が実はオチになっていない。

　のちのち気づいて『うわ、このボケは成立していない、ミスった』と思って、ちょっと悔やんでいたんですよ。

　ただ、自分の論理では失敗したと思っていたら、意外と受け止めてくれる方が全然違う方向性の解釈をしてくれることがほとんどで、結果オーライだったというか（笑）」

加藤「こういう、豊島さんに聞いてみないと誰も気づかないようなこだわりがすごくあるのが、わたしはめちゃくちゃおもしろいなと思うんです。

　そういうものが詰まっていくことがオリジナリティになると思うので。まあ、ここのボケに関しては、本人的に成立してないということになってしまいましたけど（笑）

　あと年賀状の宛名のズレみたいな話のところは、撮影する前に豊島さんから『ここは削ろうか』と言われたんですけど、わたしはおもしろいと思っていたので、『そのままでいこう』といって残してもらったり」

豊島「そうした不思議な会話が続くので、第二章の『かわいい人』は、『コントみたいに見える』という意見をいただくことも多いんですけど、わたしたちはあんまりそうは思っていなくて。日常の中にあるだろうな、という会話として考えているんです。もちろん笑いの要素が強いところはあるんですけど、とにかく高羽さんと神田さんの演技のもつ説得力というか。

　二人が生身の人間の言葉としてこちらに届けてくれているので、二人の関係のこじれているもどかしさや悲しさが切実に伝わってくると思うんです。

　そういう意味で、コントというより、ひとつの人間ドラマとして観ていただけたら嬉しいなと思っています」

加藤「もちろん笑える瞬間に関しては、この章に限らず大いに笑っていただけたらと思うんですけど、全体を通して観てくださった方の人生観で見え方が変わるというか。

　人生観だけではなく、その時のその方の状況によって感じ方が変わると思うんですけど、そういう感じ方の違いみたいなものがより強めな章かなと思っています」

豊島「神田さんがこの脚本にすごく共感してくれて、最初に『なんで豊島さん、私のことこんなにわかるのかと思ったよ』みたいなことを言ってくれたんです。

　私としてはちょっと突飛な人物に感じるかなというか、演じる上で行動や気持ちを理解するのが難しいと言われる可能性もあるなと思って脚本を渡したんです。

　だけど神田さんは、むしろ何が突飛なのかわからない、ぐらいにともえという人物に共感してくれて。だからともえの行動をすごく切実なものとして理解しながら演じてくれたんです。

　それはすごく嬉しかったし、ともえという人物を魅力的なものにした大きな要因だと思っています」

（※第四回に続く）

【「点と」加藤紗希×豊島晴香インタビュー第一回はこちら】

【「点と」加藤紗希×豊島晴香インタビュー第二回はこちら】

【「点と」加藤紗希×豊島晴香インタビュー第三回はこちら】