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大雨特別警報級の梅雨前線豪雨はきょうも、あすも、そのあとも

饒村曜気象予報士
梅雨前線に伴う雨の分布(7月8日2時)

活発化した梅雨前線と熊本県・鹿児島県の特別警報

 令和2年(2020年)7月3日以降、梅雨前線が活発化しています。

 南から暖かくて湿った空気が多量に九州に流入したことに加え、東シナ海で線状降水帯ができ、熊本県から鹿児島県にかけて停滞しました(図1)。

図1 解析雨量(7月4日2時30分~3時30分の1時間雨量)
図1 解析雨量(7月4日2時30分~3時30分の1時間雨量)

 線状降水帯が停滞すると、同じ場所に積乱雲の塊が入り続けますので、記録的な大雨となります。

 線状降水帯は、長さが300キロ程度であっても、幅20から50キロ程度しかありません。

 線状降水帯ができても、停滞しなければ、一時的に猛烈な雨が降っても、総雨量はそれほど多くはなりません。

 気象庁のアメダスの観測所で、4~5日の総雨量が一番多いのは、熊本県水俣で約500ミリと、大災害を引き起こす可能性がある雨量でした。

 しかし、熊本県の県田浦(アメダスの田浦とは別の観測所)では、これをはるかに上回る700ミリの雨を観測しています。

 県田浦の1時間雨量は、7月4日3時が92ミリ、4時が129ミリ、5時が97ミリ、6時が107ミリ、7時が85ミリと、80ミリ以上の猛烈な雨が5時間も続きました。

 少し離れただけで、大きな差がでる、局地的な豪雨でした。

 そして、熊本・鹿児島両県では、4日4時50分に大雨特別警報が発表となりました。

 特別警報は、予想される現象が特に異常であるため、重大な災害の起こるおそれが著しく大きい旨を警告する防災情報です。

 大雨特別警報は、4日11時50分に大雨警報に切り替えになりましたが、熊本県の球磨川で6時30分頃に球磨村の右岸で氾濫するなど、大きな被害が発生しました。

長崎県・福岡県・佐賀県の特別警報

 梅雨前線は多少の南北方向の移動はありますが、活発化している状況は変わりがありません。

 気象庁では、7月6日15時20分に長崎県大村市付近で約110ミリ、15時30分に長崎県東彼杵町付近で約110ミリ、佐賀県鹿島市付近や嬉野市付近で約110ミリという1時間雨量を解析し、「記録的短時間大雨情報」を発表しています。

 そして、16時30分に長崎県、福岡県、佐賀県に大雨特別警報を発表しています。

 明るいうちに避難できるよう、特別警報の基準を超える前に、基準を超えると予測しての発表でした。

 長崎県、福岡県、佐賀県に出ていた大雨特別警報は、7月7日11時40分に大雨警報に切り替わりましたが、九州を中心に断続的に非常に激しい雨が降っており、引き続き、大雨に対する警戒が必要なことは変わりがありません。

今後の雨で総降水量は1000ミリ超え

 活発な梅雨前線による7月3日から7日までの5日間雨量は、大雨特別警報が発表となった九州だけでなく、四国東部、紀伊半島、東海地方でも700ミリを超えています(図2)。

図2 5日間の総降水量(7月3日0時~7日24時)
図2 5日間の総降水量(7月3日0時~7日24時)

 四国東部、紀伊半島、東海地方では、九州のように短時間で激しい雨が降ったわけではありませんが、大雨警報級の雨が継続して九州並みの雨量となったのです。

 梅雨前線は7月8日も、9日も本州上に停滞しますので、3日から7日と同様に、大雨が降る可能性が高くなっています(図3)。

図3 予想天気図(7月9日9時の予想)
図3 予想天気図(7月9日9時の予想)

 現在、各地で地面の中にかなりの水分が含まれている所があり、そこに、少しでもまとまった雨が降ると土砂災害が起きやすくなっています。

 しかも、今後予想されている雨量は、西日本の太平洋側と中部地方を中心に200ミリ以上の見込みですが、強い雨が予想されている地域は、すでに大雨が降った地域とほとんど重なっています(図4)。

図4 今後48時間の予想降水量(7月8日から9日)
図4 今後48時間の予想降水量(7月8日から9日)

 ということは、総雨量が1000ミリを超える、記録的な大雨となる可能性があります。

 大雨警報の発表にとどまらず、大雨特別警報が発表されるかもしれません。

【追記(7月8日8時)】

 気象庁は7月8日6時30分に岐阜県で、6時43分に長野県で大雨特別警報を発表しました。

 気象庁は、早期注意情報を発表し、5日先までに警報を発表する可能性を「高」「中」の2段階で示しています。

 この早期注意情報によると、7月8日は西日本と東海・北陸で大雨警報を発表する可能性が「高」、東北地方で「中」となっています(図5)。

図5 早期注意情報(7月8日、9日、10日、11日、12日の大雨警報の可能性)
図5 早期注意情報(7月8日、9日、10日、11日、12日の大雨警報の可能性)

 そして、翌9日は、静岡県で大雨警報を発表する可能性が「高」、西日本と東海・北陸で「中」となっています。

 10日以降に「高」はありませんが、連日「中」の地域があります。

 特に、九州についていえば、早期注意情報の対象期間全てで、大雨警報を発表する可能性があります。

 早期注意情報の対象期間外ですが、九州は13日以降も雨の予報ですので、場合によっては、大雨警報が続くかもしれません。

 例えば、熊本県・人吉の16日先までの天気予報では、7月18日まで雨の日が続きます(図6)。

図6 熊本県・人吉の16日先までの天気予報
図6 熊本県・人吉の16日先までの天気予報

 しかも、その連続する雨の予報は、ほとんどの日が降水の有無の信頼度が5段階で一番高いAです。

 九州での大雨に対する防災活動は、長期戦になる可能性が高いと考えて行う必要があります。 

 大雨をもたらした線状降水帯の発生については、ある程度わかってきましたが、停滞するかどうかの予報は非常に難しい問題です。

 線状降水帯は幅が50キロ位しかありませんので、停滞しなければ線状降水帯ができても、猛烈な雨が一時的に降るだけで、総雨量はそれほど多くはなりません。

 現在、各地で線状降水帯が発生するとみられており、これにもとづいて大雨警報が発表されています。

 ただ、線状降水帯が発生したとしても、停滞して記録的な雨が降り、大雨特別警報が発表になるかはわかりませんが、大雨警報ですばやく避難するなど、早めの防災対応が大事です。

警報が発表になったら

 気象庁の会見でも説明されていましたが、避難行動などの防災活動は、大雨警報で行います。

 特別警報で、新たなことをするということ、ではありません。

 大雨特別警報が発表された時点では、避難行動が終わっていることが想定されていますので、特別警報が発表されたら、これまで行っていた防災活動の強化です。

 このため、特別警報の呼びかけは、「命を守るために最善の行動をとってください」ということで、「ただちに避難してください」ではありません。

 

 命あっての新型コロナウイルス対策です。

 命を守るため、すばやく、マスク、体温計、除菌シートなどを持って安全に避難できるうちに避難してください

 避難所では密を避けるなどのコロナ対策がとられていますので、避難所の指示に従って新型コロナウイルスを避けてください。

タイトル画像、図1、図2、図4、図5、図6の出典:ウェザーマップ提供。

図3の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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