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パラクライマーがSOS。彼らを窮地に追いやった日本山岳・スポーツクライミング協会へ広がる不信

津金壱郎フリーランスライター&編集者
視覚障害では選手にホールド位置を伝えるコーチと二人三脚で課題に挑む(写真:アフロ)

パラクライミングをないがしろにしたJMSCAと、その煽りを受けるパラクライマー

 自分たちの見込みの甘さが招いた失態も、どこか他人事のようでさえある―――そうした見方は穿ちすぎだろうか。

 五輪の実施種目になっているスポーツクライミングは、今年8月に東京・八王子で世界選手権を行う。ここには五輪出場権もかけられた重要な大会である。

 その1ヶ月前の7月16日・17日にフランス・ブリアンソンでパラクライミング世界選手権が開催される。本来ならば、パラクライミング世界選手権も、東京・八王子で開催されるはずだった。

 パラクライミング世界選手権は2014年から『スポーツクライミング世界選手権』と同時開催の歴史を刻み、今回も同時開催で計画は進められてきた。それが分離開催という結果になったのは、JMSCA(日本山岳・スポーツクライミング協会)の運営能力の低さに起因すると言っていいだろう。

 スポーツクライミングの国際統括団体であるIFSC(国際スポーツクライミング連盟)は、3月25日にホームページでパラクライミングが分離開催になったことを発表。その1週間後の4月1日、JMSCAもホームページで『パラクライミング世界選手権について』を公開した。

日本山岳・スポーツクライミング協会発表の『パラクライミング世界選手権について』

 主旨はこうだ。今年8月11日から21日に東京・八王子で開催される『世界選手権』において、日程面の不備を理由にIFSC(国際スポーツクライミング連盟)の反対にあって、パラクライミングは実施できなくなったというもの。

 まるで自分たちに非はないとばかりの文面の作成が、IFSCの発表から1週間も遅れるほど大変な作業だったのか、新元号発表のどさくさに紛れこみたかったのか、はたまた単に新年度初日に失態を詫たかったかは知る由もない。

3月16日のIF総会後の会見に選手と八王子市長とともに登壇した左からJMSCA副会長の平山ユージ氏、IFSC副会長の小日向徹氏、JMSCA会長の八木原圀明氏、IFSC会長マルコ・スコラリス氏。筆者撮影
3月16日のIF総会後の会見に選手と八王子市長とともに登壇した左からJMSCA副会長の平山ユージ氏、IFSC副会長の小日向徹氏、JMSCA会長の八木原圀明氏、IFSC会長マルコ・スコラリス氏。筆者撮影

 いずれにしろ、パラクライミング世界選手権に第1回大会から参加してきた、言わばパラクライミング牽引国の日本のパラクライマーたちが、心待ちにしてきた自国開催の夢舞台は霧散した。

 今回の決定を受けて、日本パラクライミング協会の佐藤建会長は、次のように悔しさを滲ませる。

「JMSCAにはもっと早い時期から、パラ世界選手権を開催するのに必要なルート数や参加国数、選手数などを進言しておけばよかったと後悔しています。去年のオーストリアでの世界選手権をJMSCAの多くの人が視察していたので、『わかっているだろう』と思った私が甘かった。残念でなりません。ただ、JMSCAを批判するばかりでなく、『パラクライミング世界選手権は自分たちで仕切ります』と言えればよかったのですが、パラ日本協会もできたばかりで、準備するだけのマンパワーも資金力もないのが現実なので……」

 日本パラクライミング協会が設立されたのは2018年1月1日。それまではJMSCA内に設置されていたが、独立となった経緯を佐藤会長は腹立たしげに説明する。

「JMSCA側からの一方的な通告ですよ。JMSCAでは面倒みきれない、と。パラの常務理事がいないし、パラをやっていこうという理事もいないということで切り捨てたんです」

 以前は協会内で国体競技委員をつとめ、現在でも広島山岳連盟副理事の佐藤会長にすれば、身内に見捨てられた感は強い。パラクライミング世界選手権の開催地変更となったJMSCAからの連絡を次のように振り返る。

 

「3月15日のIF総会後に、JMSCAの理事から電話があって、その時点ではパラクライミングの参加者などの見積もりを出してくれと言われたんです。でも、翌日に同じ理事からの電話で、「東京で開催ができなくなった」と報告され。電話口の理事は金銭的なことも考えないとなあ程度のことは言っていましたけど、連絡はそれっきりですね」。

 スポーツクライミングは、五輪の実施種目になったことでスポンサー企業が充実している。だが、パラクライミングはパラリンピックの種目ではない。

 パラスポーツは数多くあるが、パラリンピック競技・種目の競技団体を多くのスポンサーが支援するが、そうでない競技団体は見向きもされない。これがパラスポーツ支援の現実ということなのだろう。

 今回の開催地変更の最大の被害者はパラクライマーだ。昨年の世界選手権なども含め、もともとJMSCAからパラクライミング世界選手権出場のための金銭的なサポートはなかったとはいえ、JMSCAの不手際によって開催地が東京からフランスへと変更になった挙げ句、当初の予定よりも1ヶ月前倒しである。

 フランスに渡航する金銭的な負担はもとより、パラクライマーは8月に会社を休む手配などのスケジュール調整などをしていたが、それらはすべて台無し。再度のスケジュール調整、渡航準備などが生じている。加えて、パラクライミングはアスリートだけが現地に赴けば出場できるものではない。

 パラクライミングは、障害の種類によって『視覚障害』、『欠損(上肢/下肢)』、『神経障害』の3つのカテゴリーに分けられ、その障害の重さによって3つのクラスがある。視覚障害ではパラクライマーに声でホールドの位置を伝えるナビコーチは不可欠で、ほかのカテゴリーのパラクライマーにも、サポートスタッフは必要なのだ。彼らもスケジュール調整をする必要に迫られている。

 こうした状況にあって20名のパラクライミング日本代表選手たちのなかには、辞退に向かう選手もいるという。日本パラクライミング協会では個人・企業からの寄付を募っている。詳細などは日本パラクライミング協会ホームページで確認してもらいたい。

 スポーツクライミング競技団体の未来は本当に明るいものなのだろうかーーー。

フリーランスライター&編集者

出版社で雑誌、MOOKなどの編集者を経て、フリーランスのライター・編集者として活動。最近はスポーツクライミングの記事を雑誌やWeb媒体に寄稿している。氷と岩を嗜み、夏山登山とカレーライスが苦手。

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