根室本線部分廃止によるネットワーク分断はなにが問題なのか 日本の食料安全保障からの懸念点
2024年3月31日限りで廃止となった根室本線の富良野―新得間81.7km。これにより根室本線は滝川―富良野間と新得―根室間に分断された。このうち東鹿越―新得間の41.5kmは2016年10月の台風災害で不通となり、その後、路線は放置されたまま最後まで復旧されることがなく廃止された。
しかし、根室本線の東鹿越―新得間の復旧に必要とされた金額は10億円余りで、先に災害復旧を成し遂げた只見線の約90億円や、復旧の方針が固まった肥薩線の235億円と比較しても格段に少額だったことから、今回の鉄道廃止については、腑に落ちないと感じる方も多いようだ。
近年は、深刻化するドライバー不足や国防などの観点から鉄道輸送を見直す動きが広がりつつあることから、今後は安易な鉄道廃止が日本の国益を損なう恐れが出始めている。根室本線の分断で鉄道ネットワークが損なわれることによる問題は食料安全保障の視点である。
北海道では、十勝地方の帯広方面から首都圏などに農産物などを輸送する貨物列車は、新得駅から石勝線を経由している。今回の根室本線の部分廃止で、石勝線が何らかの事情で不通となると、貨物列車の運行が難しくなり首都圏方面への食料の輸送が滞ってしまう恐れが出てしまう。新得ー富良野間の廃止で貨物列車の迂回運転は不可能となり、食料安全保障上の問題を抱えることになってしまった。
2023年8月、豪雨の影響で石北本線の上川―白滝間が不通となり、この区間を運行する特急列車と貨物列車が運休を余儀なくされた。特に、北見駅から1往復が運行されているタマネギ輸送のための貨物列車は約1週間にわたりトラックによる代行輸送緒が行われている。このとき、地元新聞では「1往復の貨物列車をトラックで代替輸送すると、約20台のトレーラーが必要になるといい、こうした事態が長期化すると運転手の確保に影響が出来る可能性がある」と報道された。
一方で、石勝線を新得―追分間を経由する貨物列車は5往復程度が設定されており、さらに、国土交通省は、2023年9月、深刻化するトラックドライバー不足の問題から鉄道貨物の輸送量を今後10年間で倍増させる方針を発表している。こうしたことから、石勝線災害時にこの分の貨物列車をトラックで代替輸送することは今後より困難になるだろう。
2023年7月、新潟県「えちごトキめき鉄道」と長野県「しなの鉄道」の直江津―長野間で貨物列車の運転が行われた。この区間は普段は貨物列車の運行がない区間であるというが、長野県内で消費されるガソリン類の9割が鉄道輸送されているため、国家としてのリスク分散の視点から通常の貨物ルートの不通時に貨物列車の代替ルートとして機能できるようにするための訓練運転という側面もあったようだ。
北海道は、日本の農地面積の26%を占めカロリーベースで全国に20%の食料を供給する一大食料基地だ。そうした食料輸送のリスク分散という考えなしの安易な鉄道廃止は日本の食料安全保障を揺るがしかねない。
(了)