ホーム開幕投手を務めてクオリティスタート 林悠太(NLB富山)はNPBを目指して一歩ずつ前へ進む
■ピッチクロックルールに動じず
決して本調子ではなかったと、吉岡雄二監督は明かした。しかし、調子に関係なく結果を出せるのは、好投手の条件の一つである。
5月11日はホーム開幕戦だった。その“開幕投手”を任されたことを意気に感じた富山GRNサンダーバーズ・林悠太投手は、すべての球に意思を表し、根拠を持ち、信念を乗せた。1球たりとも無意識の球はなかったと言いきる。
だから、今季から導入されたピッチクロックの新ルールにも動じなかった。無走者の場合に限ってだが、捕手からの返球を捕球後(もしくはボール交換後に球審がプレーをかけたあと)、12秒以内に投球動作に入らねばボールカウントが1つ加算されるというルールだ。
「(時間を気にして)あやふやな気持ちで投げるのはすごく嫌だった。それならピッチクロックを取られてもいいから、絶対に自分の球を投げようという気持ちだった。テンポは多少悪くなるかもしれないけど、テンポにとらわれることなく、ストライクはいつでも取れたので」。
ピッチクロックに2度違反し、その打席の結果はいずれも四球になったが、後続をしっかり断って得点は許さなかった。そこには「どの球種でも、いつでもゾーンに投げられる」という余裕があった。その余裕が自信となり、簡単に打たせて取ることができたのだ。
■準備力の高さ
三回表のボークも「悪いボークだと思っていない」と意に介さない。
「僕の中で狙ってやったことが、結果的に止まりが甘くてボークになっただけ。あの場面、阿部(大樹)さんが一塁ランナーだったんで、(東田)汰一さんともあの展開を予想して話もしていた」。
8番から始まる打順で、岡村柚貴選手と松元風樹選手を打ち取った。2アウトから阿部選手が出塁し、走ってくることも頭の中でシミュレーション済み。杉崎蒼太選手との勝負は想定していた。
「その準備をしていたからこそ、2アウト二塁でも0に切れた。イニング間も汰一さんといい会話ができていたので、そういう準備もうまくできたのかなと思います」。
常に先を読んで備える。このクレバーさは、林投手の持ち味でもある。
■今季初登板はクオリティスタート
6回を5安打、無失点。先頭打者を一度も出さず、テンポよく投げ込んだ。五回は2死一、二塁を抑えて吠え、六回は連打から2死一、三塁となったが森路真選手を内野ゴロに仕留め、スコアボードに6つ目の0を刻んで役目を終えた。
しっかりとゲームを作り、クオリティスタートを達成。勝ち投手の権利を得て降板したが、リリーフ投手が逆転され、今季初勝利を手にすることはできなかった。
ホーム開幕投手として申し分ない内容だったが、「いいボールもあったけど、一つ一つの精度とか自分の中では満足は全然ない」と己にハードルを課し、「投球フォーム自体のバランスは良くなってきているんで、そんな中でもう少し出力が出てきてくれれば…」と、さらなる高みを目指す。
■ストレートを磨いて2年目を迎えた
2年目を迎えるにあたって、自分はどういうふうにやりたいのか、どこを意識しようかということを考えてシーズンオフを過ごしたという。
意思は明確だった。2年目も先発をやるつもりで、そのために最も意識したのはストレートだ。
「ストレートがよくなれば、変化球はあとからついてくるだろうと思っていますし、僕の中でコントロールはまったく心配ないんで。なので、ストレートだけはこだわってやってきた」。
ストレートを磨くため、肉体改造にも着手した。
「去年以上に体重を8キロから9キロ増やしました。去年、めちゃめちゃ痩せてたんで、力が全然なかった。投げるので精いっぱいで、シーズン中にはウエイトトレーニングをほぼやらなかった。このオフは、ウエイトをがっつりやりました。今まで出力が一気に出てケガするのが怖くて、上半身のトレーニングもいっさいやらなかったんですけど、それも一か八かでやってみようと」。
この取り組みが奏功した。バランスがよくなり、昨年あった違和感や張りなども今年は出ていないと胸を張る。
「今日投げてみて、投げる体力というのも感じますし、下(半身)でしっかり踏ん張れているからこそ、上(半身)の疲れが今日はまったくない」。
やってきたことは正しかったと、手応えが得られた今季初登板だった。
■フォームの中の“間”
フォームの中で微妙に“間”を変えているのも林投手の特徴だ。
「普通はみんな、セットに入ってから間合いを変えるんですけど、自分は足を上げてからの時間の使い方を変えています。足を上げたところですぐいったり、上げて時間をかけたり、そこの間合いを変えているつもりです。それも自分の武器なので」。
さらにフォームの修正もそこで試みる。
「ちょっと前に突っ込み気味だなと思ったら、一回ちょっと止まってみる。そういうところのリズムを変えることによって、ちょっと一つ意識を置くだけでフォームの中でダメなところが変わったりするので」。
足を上げ、両手を翼のように広げるフォームの中に、無数の“間”を存在させる。
■着実に階段を上る
昨年より間違いなく進化しているが、林投手は「多少の実感はあります」と控えめだ。
「がっつりNPBにいけるレベルかというと、全然そんなことないと思っているんで、まだまだ全然足りない。でも、周りがそうやって評価を少しずつしてくれれば、自分の中のモチベーションになりますし、それが自分の中の実感に繋がればいいんで。自分の中ではそんな過大評価することなく、それでもNPBにいくって決めた以上は本当に厳しくいかないといけないと思っています」。
ステップアップした自身のピッチングを振り返り、心地よさそうに汗をぬぐった林投手。
一足飛びにうまくなるわけがないことは、よくわかっている。一歩ずつ着実に積み重ねながら、林悠太は自らの夢に向かって突き進む。
(撮影はすべて筆者)
【林悠太(はやし ゆうた)*プロフィール】
2000年6月23日(23歳)
183cm・74kg/右投右打
桜井高校―新潟医療福祉大学
富山県出身/背番号29
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