何歳からOK?こどもの餅について考える
あけましておめでとうございます。
筆者の住んでいる佐久市は高原に位置し、冬は気温も下がります。元旦の空気はキーンと張りつめていて、改めて気持ちも引き締まります。
さて、お正月と言えば、お餅は何歳から?子供に食べさせるときの注意点は?など質問されることがあります。
確かに気になりますよね。欧米にはなく、わが国ならではの食文化ということもあり、なかなか文献も少ないのですが、今回は餅という食材の特性を踏まえて、子どもの餅について考えてみたいと思います。
餅は何歳からOKなのか
まず、餅は何歳からOKなのでしょうか。
この点について、明確な指針はありません。いくつかの子育てサイトには3歳と記載されているものも見つけましたが、医学的な根拠ははっきりしません。
窒息のリスクが高い豆類については昨年、消費者庁から口腔機能の発達なども踏まえて5歳以下は控えるようにという指針が出ています(1)。
豆類は固いのでかみ砕く力が育つタイミングも踏まえてこのような指針となっているのですが、豆ほど固くない餅にそれを当てはめてよいのか、議論の分かれるところです。
日本小児科学会は「子どもの食品による窒息死事故の8割は4歳以下で起こっている」としていますので、それも一つの参考にしてもよいかもしれません。
ただ、強調しておきたいのは、〇歳になったら大丈夫、と年齢だけで判断すべきではないということです。餅の特性を知り、お子さんがそれに対処できるかで判断することがもっとも大事です。では餅の特性とはどんなものなのでしょうか。
餅は粘着性が高く飲み込みづらい
まず餅は粘着性が高く、唾液を吸収してのみ込みづらい特性があります。
また温度が下がると硬さが増します。喉を通るときにはかたくなっていて、粘着力も温度が下がるほど増します(2)。固いと丸呑みする子どもが出てくる可能性があります。丸呑みは窒息のリスクに繋がります。いっぽうで、熱いままだとやけどのリスクがあります。
したがって、安全に食べるには
①水分でのどを潤しながら
②よく噛んで食べる
③一口量を守り詰め込まない
環境を確実に作れることが大事になってきます(3)。
もう少し具体的にいうと、
・餅は小さく切る(できれば餅どうしくっつかないように少し離す)。
・必ず飲み物と一緒に食べる環境を作る。
・子どもが自己判断で赤ちゃんにあげないように保護者が監督する
・しっかり噛み、丸呑みしない。急いで食べないように促す
といったところでしょうか。お子さんがこのような対応に従えると判断した時点で与えるのが目安といえるかと思います。
また、消費者庁も強調していますが、こどもは食べながら遊んだりすることもあります(4)。
したがって、大きいお子さんでも
・口に入れたまましゃべらない
・食べているときは動き回らない
は大事な注意点です。
また、窒息のリスクの話をしましたが、まれに噛まずに丸呑みして腸閉塞を起こす事例が報告されています。
成人では腸閉塞のうち食べ物が原因のものは0.3~5.9%ですが、そのうち13~17%が餅だという報告があります、子どものケースも稀ですが12歳で報告されています(5)。
したがって丸呑みしないことは窒息だけでなく、頻度は少ないながら食べ物が原因の腸閉塞の予防にもつながります。
と、ここまで餅の事故について記載しましたが、小児で餅による窒息事故が頻発しているわけではなく、餅の事故はほとんどが高齢者です(2)。
むしろ子どもに関してはパンによる窒息が毎年報告されています。
数か月前にも、カットパンによる乳児の窒息事故の報告がありました。
パンは水分量が少ないため飲み込みづらく、よく噛まずに丸呑みしてしまうことがあるのが原因と考えられています(3)。小さい子にパンを与えるときは、小さく切って与えることや、水分でのどを潤してから食べるなどの注意点について、今一度確認いただければと思います。
一方パンにはなく餅にあるリスクとして「子どもたちにとって日常的な食材ではないこと」が挙げられます。
「よく知らないこと」は事故に繋がる原因となり得ます。だからこそ食材の特性を知ることは大事なんですね。
では、実際に詰まらせてしまった場合にはどのように対処すればよいでしょうか。
子どもがものを詰まらせた!まずは119番、そして応急処置を
食事中に急に顔色が悪くなり、苦しそうな様子を見せたり声が出せなくなった場合には、窒息の可能性があります。
窒息の場合、蘇生のチャンスは最大9分とされ(6)、すぐに処置が必要です。
家庭など病院外で窒息した場合、呼吸が止まっただけの状態であれば蘇生率は50%を超えますが、心肺停止の場合の蘇生率は非常に低くなるため、心停止に陥る前に詰まった食べ物を除去する必要があります(7)。
そこで誤えんが疑われた場合の応急処置を振り返っておきましょう。
乳児では保護者の片腕にうつ伏せに載せ、顔を支えながら背中の真ん中を手で繰り返し叩きます。少し大きなお子さんの場合、保護者が立て膝になり、ふとももでお子さんのみぞおちを圧迫するようにして、背中の真ん中を手のひらで叩きます(背部叩打法)。その後仰向けにして、片手で乳児の体を支えながら、もしくは膝にお子さんを載せながら、心肺蘇生と同じ方法で胸部を圧迫します(胸部突き上げ法)。背部叩打法と胸部突き上げ法のセットを各5~6回で1サイクルとし、これを繰り返します。
1歳以上の年長児は後ろから両腕を回してみぞおちの下で手を組み、お腹を上方に圧迫します(ハイムリッヒ法)。
慌てて口の中に指を入れて取り出そうとすると窒息状態が悪化するためやってはいけません。
これらの処置について文字だけだとわかりにくいので、私たちのプロジェクトではイラストを制作しました。
これらのイラストはPDFデータで自由にダウンロード可能です。
なお、このデータはコンビニにあるマルチコピー機でシールとして取り出すこともできます(登録番号:OSHIETEDR1 と入力してください)。シールは冷蔵庫の壁など目立つ場所などに貼っておくとよいでしょう。
なお、窒息事故とは別の話題になりますが、餅については時々食中毒が報告されています。
原因はノロウイルスや黄色ブドウ球菌(8)です。しっかりと手を洗うことで病原体が食べ物に付着するのを防ぐことができますので、準備する前はしっかりと手洗いをお願いします。
<参考文献>
(1)消費者庁:こども安全メールvol.540「もうすぐ節分。固い豆やナッツ類は5歳以下の子どもには食べさせないで」
(2)消費者庁:年末年始、餅による窒息事故に御注意ください!
(4)消費者庁 こども安全メール 餅による窒息事故にご注意
(5)中村さくらこ:餅による食餌性消化管通過障害をきたした12歳男児例.小児保健研究79(4),2020.
(6)日本小児救急医学会・日本小児外科学会監修:小児救急のストラテジー.2012,へるす出版
(7)馬場美年子、一杉正仁、武原格 他:小児の食物誤嚥による窒息事故死の現状と予防策について.日職災医誌58,276-282,2010
(8) 濱田佳子:黄色ブドウ球菌食中毒の原因食品と推定された草大福餅のエンテロトキシン量の推定. 日本食品微生物学会雑誌 (1340-8267)31(1),36-40,2013