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男女格差だけじゃない LGBTランキングでも世界の下位に沈む日本の将来

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:PantherMedia/イメージマート)

東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の女性蔑視発言のおかげで、女性の人権に関する日本の後進ぶりが改めて世界中に知れ渡るところとなったが、実は、東京五輪の理念である「多様性」の象徴、LGBTの人権に関しても、日本は先進国の中で断トツの最下位だ。このままだと、またぞろ“重鎮”の失言などをきっかけに、日本が世界から不名誉な注目を浴びかねない。

同性婚訴訟を傍聴する切実な若者たち

24日午後、東京地方裁判所で、同性同士の結婚を法律で認めるよう日本各地の当事者が一斉に国を訴えた「結婚の自由をすべての人に」訴訟の東京訴訟・口頭弁論が開かれた。関心の高さを反映し、傍聴は抽選となった。

運よく抽選に当たった筆者は傍聴席の最後列に座って傍聴したが、満員の傍聴席(といっても新型コロナウイルス対策で両側1人分ずつ空けて着席)を見渡して少し驚いたのは、20代から30代と見られる若い人の姿が非常に多かったことだ。カップルと思しき人たちもいた。興味本位ではなく、切実な思いで裁判の行方を見守ろうとしている当事者たちに違いないと感じた。

裁判の冒頭、原告の1人で1月18日に61歳で亡くなった男性と、残されたパートナーの思いなどをつづった文章が、原告側の弁護士によって朗読された。パートナーが、男性が入院した病院に駆けつけて医師に病状の説明を求めたところ、法律上の夫婦でないために断られた場面が読み上げられると、静まり返った傍聴席の中からすすり泣くような声が聞こえてきた。

先進国の中では日本だけ

生まれつき、同性しか好きになれなかったり、体は女性でも心は男性といった心と体の性が一致しなかったりという理由だけで、人と同じように幸せになる権利を合法的に奪われるのは、先進国の中では日本だけだ。たまたま女性に生まれたという理由だけで、社会の中で極端に不利な扱いを受けたり、キャリアが閉ざされたりするのも、先進国の中ではやはり日本だけ。

東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(当時)の女性蔑視発言が報じられた際、発言は個人の失言ではなく、日本の社会を映し出したものだとするメディアの報道が、海外メディアも含めて目立った。その証拠として繰り返し引用されたのが、「日本は、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ(男女格差)指数ランキングで、世界153カ国中121位」というデータだ。

23日には、世界銀行が経済的な権利をめぐる男女格差に関する年次報告書を公表したが、日本は190カ国・地域中、80位で前年の74位から6つ後退した。順位が低い大きな理由は、男女の賃金格差や職場でのハラスメントに甘い日本の法制度だ。日本が獲得した点は前年と同じだったが、他国の得点が増えたため、相対的に順位が下がったという。ちなみに日本と同じ80位には、コロンビア、ベトナム、バハマ、タンザニア、ザンビアがいる。

OECD国の中でワースト2位

同様の傾向は、LGBTランキングにもあらわれている。

LGBTが社会にどれくらい受け入れられているかを調べた米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)法科大学院のランキングによると、日本の順位は、2014-2017年時点では174カ国中66位。2009-2013年時点の45位から大きく下げた。男女格差のランキングに比べると多少健闘しているようにも見えるが、下位にはイスラム教国など同性愛を死刑や禁固刑の対象としている国が並んでおり、それを考慮すれば、順位が高いとはまったく言えない。

経済協力開発機構(OECD)が昨年公表した、加盟各国のLGBTに関する法制度の整備状況に関する報告書でも、日本はOECD35カ国中、トルコに次ぐワースト2位の34位となっている。

LGBT差別の象徴が、同性婚を認めない国の法律だ。同性婚を法律や判例で認める国は世界で急速に増えており、同性婚やそれに準ずるパートナーシップ制度が国レベルで整備されていないのは、主要7カ国(G7)の中では日本だけだ。

差は開くばかり

米国では、連邦議会下院が25日、LGBTに対する差別を禁止する法案を、民主党の賛成多数で可決した。人種や性別、宗教などに基づく差別を禁止した1964年公民権法に性的指向や性自認に基づく差別の禁止を加えるもので、米メディアは「歴史的」と大きく報じた。民主党と共和党の議席数が拮抗している上院で可決されるかどうかは不透明な情勢だが、政治の動きを見る限り、LGBTの人権をめぐる日本と海外の差は開くばかりだ。

日本国内では、女性やLGBTが、働きやすい職場を求めて差別の少ない外資系企業に就職したり転職したりする例が以前から多い。少子化が進む中、優秀な人材を外資系にとられることに危機感を抱いている日本企業は、大手を中心に女性やLGBTに対する支援策に力を入れ始めているが、法的な裏付けが伴わない私企業の施策には限界もある。

最近は、キャリアとプライベート両方の幸せを求めて海外に移住するLGBTやシングルマザーも出始めている。このままでは、日本のランキングはしばらく下がり続けることになるかもしれない。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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