改正道交法はドライバー不足解消につながるか 19歳でも要件を満たせば大型免許受験が可能に
5月13日に改正道路交通法が施行された。
改正道交法では高齢運転者による交通事故を防ぐため、新たに運転技能検査(実車試験)制度が導入された。75歳以上で一定の違反歴がある人は、運転免許の更新時に、運転技能検査などを受検しなければならない。検査結果が基準に達しないと運転免許が更新されない(普通自動車対応免許の保有者のみ対象)。
高齢運転者による交通事故は大きな社会問題だ。それに比較すると一般の関心は低いかも知れないが、改正道交法では運転免許の受験資格の見直しなども行われた。要件を満たせば大型免許や第二種免許が19歳でも取得可能になったのである。その背景には職業ドライバーの不足がある。
5月13日施行の改正道交法では、要件を満たせば19歳でも大型免許や第二種免許の受験資格が得られるように
今回の改正は「運転免許自体の見直しではない。人手不足などへの対応として大型免許、中型免許、第二種免許の受験資格が見直された」(運送業界関係者)のである。大型免許と第二種免許の受験資格は「21歳以上、普通免許保有通算3年以上(中型免許は20歳以上、普通免許保有通算2年以上=中型免許については以下省略)」である。だが、特別な教習を修了した人は「19歳以上、普通免許保有通算1年以上」でも受験できるようになった。ただし、特別教習修了で得られるのは受験資格であって、試験は従来と変わらない。
これまで通りに21歳(普通免許保有通算3年以上)になれば大型免許や第二種免許の受験資格が得られるので、「大型免許や第二種免許を早く取りたい人は教習手数料を払って時間を短縮できる」(運送業界関係者)という改正だ。
特別教習の内容を見ると、「年齢要件の特例を受ける教習」では「運転に必要な特性(自己制御能力)」に関して座学や実車を7時間以上。「経験年数要件の特例を受ける教習」では、「運転に必要な技能(危険予測・回避能力)」に関して座学や実車の教習が29時間以上となっている。
年齢要件の特例で大型免許や第二種免許を取得した場合、本来の受験要件である21歳(中型免許は20歳)になるまでの間は「若年運転者期間」となる。若年運転者期間内に違反行為をし、その合計点数が3点以上になると9時間の若年運転者講習の受講が義務づけられる。それを受講しないと年齢要件に関する特例で取得した免許が取り消される。1回の違反行為で3点になった場合は若年運転者講習の受講にはならないが、その後の違反行為と合計して3点を超えると受講が義務づけられる。
これらの特例教習は、都道府県の公安員会が指定した自動車教習所が実施する。各自動車教習所は指定を受けるための申請をしているが、指定までには時間がかかるので、特例教習が実施されるのはもう少し先になりそうだ。また、運転適性検査・指導は運転適性指導員が実施しなければならないが、運転適性指導員がいない自動車教習所もあるという。
国内貨物総輸送量は減少するが営業用トラックのシェアは増加、2028年度にはドライバーが約28万人不足という予測も
道交法改正の背景には職業ドライバーの不足がある。トラックドライバーは、各種の調査・予測では不足が今後ますます深刻化する。鉄道貨物協会が2019年5月に発表した報告書によると、2028年度に必要とされるドライバー数は117.4万人。それに対してドライバーの供給数は89.6万人なので、27.8万人が不足するという予測だ。
一方、国内の貨物総輸送量は減少が見込まれる。日本ロジスティクスシステム協会の「ロジスティクスコンセプト2030」によれば、国内貨物総輸送量の推移(予測値)は2020年の47.2億トンに対して2030年は45.9億トンまで減少。だが、国内貨物輸送量の約9割を担うトラック輸送のうちの約7割を占める営業用トラックは、自家用トラックからの転換が見込まれる。そのため営業用トラックの輸送量は2020年の30.5億トンから2030年には31.7億トンまで増加する。さらにネット通販の拡大などで、重量は軽くても手間暇(人手)がかかる荷物が増えてくるため、ドライバー不足が懸念されるのだ。
現状でも、厚生労働省の今年3月の有効求人倍率では常用(パート含む)の「職業計」の有効求人倍率1.13に対し、「自動車運転の職業」は2.15で2倍近くになっている。
このような状況の中で19歳でも大型免許の受験資格が得られるようになった。はたしてドライバー不足の解消につながるのだろうか。一般論としては中型車や大型車に乗務できる資格保有者が増えることになる。だが、構造的な問題としては若年人口が減少している。そのうえ「大都市では運転免許を取ろうという若い人の割合が減っている」(運送業界関係者)。運転免許を取る意思がなければ、大型免許の受験資格年齢が下がっても意味がない。
地方の若者は、通勤や買い物、遊びに行くにも自動車がなければ不便だ。18歳になったら「生活必需品」の普通免許は取得するだろう。だが、18歳で準中型免許も取る人は目的意識がある人に限られる。そのため運送会社の中には高校新卒者を定期採用し、採用内定者には会社負担で準中型免許を取得させるケースもある。
大型免許という「資格」保有者は増えても、乗務を任せられるかどうかの「資質」を判断する社内基準が必要
大型車とトレーラが主体のある運送事業者は、大型免許の受験資格年齢の引き下げについて、「当社は高校新卒者の定期採用をしていない。中途採用なので19歳で大型免許が取れるようになっても直接的な影響は少ない。だが、2歳若くして大型免許が取れるようになれば、一般論としては大型ドライバーの人数が増えることになる」という。
また、社内資格制度を設けている事業者は「21歳であれ19歳であれ、大型免許を取ればすぐ大型車に乗務させるわけではない」。免許保有者でも社内基準をクリアしなければ大型車やトレーラに乗務させない方針だ。とはいえ「19歳で大型免許を取って社内の育成過程を経て独り立ちさせる方が、21歳からよりも3年早く大型車に乗務させられる可能性はある」。
26歳で大型トラック(25トン車)に乗務して働いているAさんは、「自分が18歳の時にはまだ準中型免許がなかった。高校を卒業してメンテナンス関係の会社に就職したが大型トラックのドライバーになりたかったので、21歳で大型免許を取ってすぐに運送会社に転職した」という。Aさんのように最初から大型トラックのドライバーになりたかった人なら、19歳で大型免許の取得が可能になればメリットを享受できるだろう。
一方、「大型免許という資格と、安心して乗務させられるかどうかの資質は別だ。経験や社会的な責任感など、19歳では21歳で大型免許を取得した人より長い育成期間が必要な人もいる」という意見もある。
ある運送業界関係者によると「19歳以下のドライバーがいる約200社で、対象者約2000人のうち、19歳で大型免許を取らせるというのは約1割の200人ぐらい」という。一般的に大手事業者ほど慎重な傾向にあるようだ。
北海道の知床半島沖を巡る観光船で悲惨な沈没事故が起きた。観光船の船長は当然、船長になれる資格を持っていた。だが、潮流などが急変する知床半島周辺の運航経験は浅く、これまでも何度か小さな事故を起こしていたという。
19歳での大型免許の取得においても、安心して大型車に乗務させられるかどうかという資質の社内的な判断基準を設ける必要があるだろう。安全を担保しつつ19歳で大型免許取得の特例を活かすことが、ドライバー不足解消への一歩である。