ひろがりはじめる日本企業の「メタバース」活用は、バブルの再来か、新たな変化の始まりか
Facebook社が社名を「メタ」に変えてまで「メタバース」に注力すると宣言したことで、にわかに世界中で注目を集めるようになった「メタバース」ですが、実は日本企業による「メタバース」のビジネス活用も着実に拡がりはじめているのをご存じでしょうか。
例えば、先月には日産自動車がVR空間内に、「NISSAN CROSSING」というギャラリーを再現したことが話題になりました。
参考:日産、VRChat内に「NISSAN CROSSING」をオープン。銀座のギャラリーをVRで
「NISSAN CROSSING」は、銀座の交差点にあるギャラリーですが、このVRChat内では、そのギャラリーがVR空間内に再現されており、世界中の誰でもリアルさながらの体験ができるようになっています。
さらに「バーチャルマーケット2021」という世界最大規模のVRイベントが「メタバース・シティ」をテーマに今週から開幕。
参考:VRイベント「バーチャルマーケット2021」が本日開幕。“メタバース・シティ”をテーマにリアルな渋谷と秋葉原が仮想空間に出現
前回開催の「バーチャルマーケット6」には世界中から100万人が参加したう実績もあり、ローソンやドコモにテレビ朝日など、錚々たる大企業が出展企業に名を連ねており、企業からの注目度が高いことが分かります。
開会式の様子がYouTubeにあがっていますが、映画「竜とそばかすの姫」に出てくるような様々なアバターが並んでいる様子が非常に印象的なイベントと言えるでしょう。
Facebookが提示している「メタバース」とは、また違う世界感の「メタバース」が、ここには拡がっているとも言えます。
「セカンドライフ」バブルの再来なのか
Facebookの社名変更でにわかに注目されるようになった「メタバース」というキーワードや、その仮想空間の可能性の話を聞くと、一定の世代の方々は、2006年から2007年にかけて大きな話題になった仮想世界サービスの「セカンドライフ」の熱狂を思い出す方が少なくないようです。
当時の「セカンドライフ」ブームは、文字通りバブルと呼ぶのにふさわしく、一時的に大きな熱狂を巻き起こし、その後急速に収束するという経緯を辿りました。
Googleトレンドの検索数の推移のグラフを見れば、当時の熱狂をご存じない方にもその様子が少し想像できるのではないかと思います。
実は、当時の「セカンドライフ」ブームの時にも、トヨタや日産自動車など様々な企業が早期に参入を表明し、話題の盛り上がりに貢献していた経緯があります。
今回の「メタバース」というキーワードも、注目のされ方は同じような急上昇をしているため、また「セカンドライフ」ブーム同様に、短命に終わるのではないかと斜めに見ている方も少なくないようです。
ただ、実際にVR活用に注力している企業の発言を見ていると、今回の「メタバース」ブームは、「セカンドライフ」ブームの時に比べると、かなり様子が違うようです。
実際に、日産自動車や「バーチャルマーケット」が利用している「VRChat」というサービス自体の検索数も、2018年に1度スパイク的に盛り上がって落ち着いたものの、その後着実に検索数が増えるというグラフになっています。
着実に増えている普通のユーザー
「セカンドライフ」は、ゲームの中で土地を購入できる仕組みが非常に特徴的だったのですが、その仕組みが土地の値上がりを目的にした転売錬金術の文脈で注目され、一時期の仮想通貨ブームと同様に、お金目当ての人たちが多く集まってきた経緯がありました。
それに比べて現在のVRChatを中心とした既存の仮想空間系サービスは、お金儲けではなく、シンプルにコミュニケーションやゲームを楽しんでいるユーザーが増えている点が大きな違いと言えるでしょう。
その結果、例えば「バーチャルマーケット」に出展を続けているビームスは、バーチャル店舗からECへユーザーを誘導するという取り組みに挑戦し、1500点以上販売するという成果を収めることができたそうです。
参考:ビームスが挑むメタバース・コマース 意外と売れた、2つの発見
そのため、今回の「バーチャルマーケット2021」も事前にテレビに取り上げられるなど、注目度が高まっています。
今回、多くの企業が「バーチャルマーケット2021」に出展しているのも、こういうビームスのような「メタバース」でのビジネスの成功事例が、企業の間で注目されはじめているからなのでしょう。
ツイッターの黎明期を彷彿とさせる
もちろん、このビームスの成果は「バーチャルマーケット」という限られた期間に開催されたイベントでの結果であり、常設の「メタバース」空間のバーチャル店舗での成果ではありません。
ただ、そういう意味では、ツイッターの黎明期の2009年に、PCメーカーのDELLがツイッターで数百万ドルの売上をあげていることが大きな話題になったタイミングと、似たような状況と言うこともできるかもしれません。
参考:デル、Twitter利用で約650万ドルの売り上げ--米報道
この事例も、あくまでDELLのアウトレットのアカウントによるセールの紹介による売上の累計数値だったのですが、業界では驚きを持って受け止められていました。
今振り返ると若い世代の方は信じられないかもしれませんが、当時は企業によるツイッター活用が実際に企業の売上に好影響があるとは、ほとんどの人が想像もしていなかったのです。
また、逆にいうと日本におけるツイッターブームは2009年〜2010年に1度盛り上がった後、しばらく停滞することになりますから、今回の「メタバース」ブームも、ツイッター同様に5年〜10年という時間をかけて拡がっていく過程と考えるべきかもしれません。
過去の失敗を現在に重ねるリスク
もちろん、今回の「メタバース」ブームが、今後どのような展開を迎えるのかはまだ分かりません。
ただ、初期のスマホやSNSが登場したときにも、誰も現在のスマホ時代やSNS時代を正確には予想できていませんでした。
iPhoneやiPadが登場したときにも、アップルの過去の「ニュートン」の失敗を持ち出して、iPhoneやiPadも失敗すると力説していた専門家もいたのです。
「セカンドライフ」ブームが一時的だったからといって、今回の「メタバース」ブームも一時的に終わると判断するのは、時期尚早と言えるでしょう。
少なくともビームスのような成功事例が生まれていることを考えると、「メタバース」も無視してはいけない1つのトレンドのように感じます。