北朝鮮が5軸10輪の新型弾道ミサイルを初公開
1月15日に北朝鮮が軍事パレードを14日夜に実施したことを発表、初公開となる潜水艦発射型と車載移動型の2種類の新型弾道ミサイルが登場しています。中でも注目すべきは新型の車載移動型が5軸10輪の移動発射機だったという事実です。これは短距離弾道ミサイルではなく、日本を狙う準中距離弾道ミサイルの可能性があります。
新型5軸10輪の車載式弾道ミサイル
固体燃料式と思われる新型弾道ミサイルが5軸10輪の車載移動発射機に2発ずつ搭載されています。4軸8輪の車載移動発射機に搭載されているイスカンデル短距離弾道ミサイルよりも大きく、より射程が長い可能性が高いでしょう。
つまり短距離ではなく準中距離の射程を持つ可能性があり、もしそうならば日本を狙う射程の弾道ミサイルであることを意味します。
- スカッドC・・・4軸8輪 射程500km
- スカッドER・・・4軸8輪 射程1000km
- イスカンデル(北朝鮮版)・・・4軸8輪 射程600km
- ノドン・・・5軸10輪 射程1300km
- 新型・・・5軸10輪 射程???
スカッドとノドンは液体燃料1段式で発射機に1発搭載、イスカンデル型と新型は固体燃料1段式で発射機に2発搭載です。少なくともこの新型はイスカンデル型より射程が長いはずです。もしノドン並みの射程があった場合、北朝鮮から東京が余裕をもって射程圏内に入ります。
イスカンデル型のような機動式弾道ミサイルは滑空しながら低い高度を飛んで大気圏外迎撃用の弾道ミサイル防衛システムを掻い潜りますが、この新型がもしもイスカンデルの射程の2倍を達成している場合には最大到達高度も上がっているはずなので、おそらく弾道頂点付近でイージス艦のSM-3迎撃ミサイルでミッドコース迎撃が可能だと考えられます。しかしノドンなどの通常の弾道ミサイルと比べると高度は全体的にかなり低いはずで、SM-3で狙える範囲はかなり狭くなってしまう恐れがあります。
ただし、弾道ミサイルが大型化した際に「射程を伸ばす」以外のもう一つの可能性としては「弾頭重量を増やす」という動機も考えられます。核弾頭が小型化できず止むをえず大型のまま搭載する場合だとすると、日本攻撃用ではなく韓国攻撃用なのかもしれません。
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イスカンデルと同じ発射システムでミサイル形状はATACMS
この新型弾道ミサイルの特徴は以下の通りです。
- 5軸10輪の車載移動発射機
- 発射形式が本家イスカンデルと同じクランプ装着式
- ミサイル弾体はATACMSに近い形状で長くなり大型化
- イスカンデルやATACMSと同じ機動式弾道ミサイル
- 固体燃料式、一段式ロケット
- ミサイル後端に操舵翼がある
ミサイルに2個のリング状クランプが装着されており、大砲の砲弾のような形状のATACMSによく似た弾体形状をしているのが分かります。イスカンデル型とATACMS型の両方の特徴を兼ね備えています。
本家ロシアのイスカンデル発射形式の特徴
イスカンデル短距離弾道ミサイルの本家ロシア版の特徴は「ミサイルに2本のリング状クランプを装着し、クランプをランチャーに据え付けて、発射直後にクランプを爆破ボルトで吹き飛ばす」という独特の発射システムです。
イスカンデルを模倣した国は中国、韓国、北朝鮮、ウクライナなど複数国ありますが、本家ロシアのクランプを用いた発射形式を忠実に真似したのは実は北朝鮮だけで、自国版イスカンデルだけでなく新型弾道ミサイルにもこの発射形式を継承しました。それに対し他の国のイスカンデル模倣は一般的なボックスランチャーを用いた発射形式に変更されています。
イスカンデル型とATACMS型の弾体形状の違い
イスカンデル型は機首先端付近と胴体中央で胴体の角度が2段階に変化しています。ATACMS型は胴体のラインは先端から滑らかに繋がっています。両者の最大の相違点はこの空力デザインの違いです。
※参考画像は全て北朝鮮・朝鮮中央通信と労働新聞の発表写真より
北朝鮮の5軸10輪の新型弾道ミサイルは明らかにATACMS型に近い形状をしており、アメリカ式のATACMS型ミサイルをロシア式のイスカンデル型の発射システムで運用しているように見えますが、実は北朝鮮版ATACMSは操舵系統の形式がイスカンデルの類似である可能性が高く、北朝鮮がミサイル部分の開発でATACMSを参考にしたのは弾体の形状だけだと考えられます。
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新型潜水艦発射弾道ミサイル「北極星5」
今回のパレードに登場した新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の名称はミサイル本体に書き込まれた文字から「北極星5」と判明しています。
2020年10月10日のパレードで登場した潜水艦発射弾道ミサイル「北極星4」と比べると、「北極星5」はトレーラーのタイヤ一つ分ほどミサイルが長くなっています。北極星シリーズの最新型です。
北極星5(2021年1月14日)
「북극성−5ㅅ」。数字の5の右の文字「ㅅ」は朝鮮語の子音で、韓国軍は水中用を意味する記号と推定。
参考比較:北極星4(2020年10月10日)
輸送トレーラーは同型で、北極星4はミサイル先端が車軸3軸目のタイヤあたり、北極星5はミサイル先端が車軸2軸目のタイヤあたりになります。ミサイルの直径はほぼ同一で全長がタイヤ一つ分の1mほど長くなっています。
地対空ミサイル? 長距離巡航ミサイル?
また今回初登場の新型というわけではありませんが、2020年10月10日のパレードで初登場した車両が引き続いて今回のパレードにも幾つか登場しています。その中でも謎が多いのがこのミサイル発射車両です。
謎のミサイル(2021年1月14日)
昨年の初登場時に、この写真のミサイル発射車両は「ポンゲ5地対空ミサイル」の新型発射機だと思われていました。従来型のポンゲは2連装または3連装のキャニスターで、新たに4連装キャニスターが登場したと考えられていました。しかし2020年10月10日のパレードに登場したポンゲ地対空ミサイルらしき車両はよく見ると他にも居たのです。
参考比較:ポンゲ5?(2020年10月10日)
参考比較:キャニスター(ミサイル収納筒)
最後の4連装車両だけキャニスターの大きさが違います。かなり細長く、他国にもこのような長さと直径の比率の長距離地対空ミサイルは類似品が見当たりません。
この細長い方もポンゲ地対空ミサイルの新設計ミサイルなのか、それとも北朝鮮が2021年の年明けに行った朝鮮労働党の党大会の発表に突如として記載されていた「中長距離巡航ミサイル」がこれなのか、憶測を呼んでいます。しかし仮に巡航ミサイルであったとしても異常に細長く、謎が多い存在です。
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2021年1月9日の党大会報告にあったMIRVや極超音速滑空弾頭、ICBMなどは1月14日のパレードでは登場せず。