町田市が“ご当地アニメ”製作! 観光PRではない都市部特有の狙いとは
今や、地域振興の手段として市がアニメを製作することは珍しくなくなっている。例えば富山県南砺市が2013年に製作したアニメ「恋旅~True Tours Nanto」や、栃木県下野市が18年に製作したアニメ「サクラノチカイ」などがある。いずれもその土地の紹介におもむきを置いた、観光PRの側面が強いものだ。
そんな中19年11月2日、東京都町田市が市のPRアニメーションを発表した。「START」と題した5分半ほどのショートアニメーションで、若い夫婦と子どもが描かれている作品だ。「子育てに優しい街」であることが描かれており、市内の児童館のほか、大型ショッピングモールと公園が一体となった「南町田グランベリーパーク」を舞台の中心として描かれている。
東京都内でこうした“ご当地アニメ”が製作された事例は、17年に福生市商工会が市内の酒蔵を紹介した「Tokyo SAKE Brewery」や、19年1月に豊島区とアニメイトが共同で製作した「池袋PRアニメ」などがある。だが、「START」は町田市のみで企画・製作されており、内容も若年ファミリー層に移住を喚起させるような内容となっている。こうした例はほとんどないことだ。
なぜ、シティプロモーションの活用にアニメを用いようとしたのか、町田市広報課の担当者はこう解説する。
「町田市では2016年から、子育て世代をターゲットに、様々な媒体を活用した情報発信を行っています。『START』はその一環として、こうした世代に親和性が高く拡散性のあるコンテンツとして、アニメという形で配信させていただきました」
この背景には19年に入り、市制施行後はじめて前年度比で人口が下回ったことが危機意識としてある。市は当初、20年をピークに人口が減っていくと予想していたが、これが1年早まった格好となった。
一方で、子どもの人口は国内有数の増加を見せている。18年の0才から14才までの「子どもの転入超過数(転入者と転出者の差)」は、町田市は都内で1位、全国でも4位につけている。こうした実態をもとに、市としては「子育てに優しい街」をアピールしている背景がある。
動画配信以外でも、町田市が「子どもに優しい街」であることは一貫してアピールされている。例えば13日にはアニメにも登場した、公園と美術館と大型ショッピングモールが一体となった「南町田グランベリーパーク」がオープン。7日にはメディア関係者向けの内覧会も開かれた。
「南町田グランベリーパーク」は、飲食店やアウトレットショップ、映画館など241店舗が入った「グランベリーパーク」、児童館や人気キャラクター「スヌーピー」にまつわる美術館「スヌーピーミュージアム」がある「パークライフ・サイト」、鶴間公園の3つのエリアに分かれている。
これらを「南町田グランベリーパーク」と総称し、一大空間を形作っているのが特徴だ。また、このパークの開業に先立つ形で、隣接する東急田園都市線・旧南町田駅は「南町田グランベリーパーク駅」に10月から改称した。
ショッピングモールと公園が一体となっている点が何よりの強みで、子どもやペットを連れて、散歩気分で買い物も楽しむことができる。この空間を実現させるために、市は「グランベリーパーク」と鶴間公園の間にあった市道を廃道にした。鶴間公園とパークの間は階段で繋がっており、市道のあったスペースに「パークライフ・サイト」を新設した。
公園内にはスヌーピーの像も置かれており、いかにも子どもやペットのいるファミリー層に優しい作りになっている。スヌーピーの「聖地」である「スヌーピーミュージアム」は元々六本木にあったが、こうして園内を見渡すと町田に移転してきたのも納得がいく。
ショッピングモール内には、ペット専用のトイレや、子ども専用のトイレが設けられている。また、子ども用品を多く取りそろえたコンビニ「LAWSON + toks(ローソン プラス トークス)for Kids」も備わっている。近年こうした大型ショッピングモールは、インバウンドの海外旅行者に向けたものも少なくない。その中で、このように子連れのファミリー層をターゲットの中心に置いている点で特徴的と言える。
どんな人に町田市に引っ越してきてもらいたいか、前述の市の担当者はこう話す。
「町田市には大学や専門学校が数多くあり、学生さん達は卒業後、都心へ出て行かれる傾向があります。特に学生時代を町田で過ごした方に再び目を向けてもらい『家族で過ごすまち』として町田を選んでいただければ幸いです」
これまで観光を押し進める狙いのアニメーションは数多くあったが、子育てファミリー層にターゲットを定めた、移住を促進させる狙いのアニメーションはほとんど例がなかった。こうした狙いのものは実写が用いられるのが常で、アニメで展開することは極めてまれだったためだ。今後、こうした一般層に向けたPRにおいても、アニメという媒体が積極的に選ばれるようになるかもしれない。