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噴出するIR汚職疑惑は構造上の問題

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

さて、500ドットコムから不正な資金の提供を受けた疑惑で逮捕されていた秋元司議員が保釈をされました。以下、NHKからの転載。

秋元司衆院議員が会見 主張の詳しい内容は

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200214/k10012286421000.html

秋元議員:(私は)内閣府副大臣という立場でIRを担当し、その中で国内外のIR施設やリゾート施設の現場を視察するようなことを行ってきたのは事実だ。しかし、私が特定の事業者のために何かの便宜を働くことは断じてないし、今回、贈賄側とされている事業者に対しても、非難されるような癒着や、賄賂を受け取ったことは一切ない。したがって私は、裁判では起訴された事実すべてを否認し、無罪を主張していく。

上記のように秋元議員自身は数々の疑惑の一切を否定しておるわけですが、本件のみならずIRがらみでは他の利益供与疑惑で未だ燻っている案件もあり、正直、まだまだ予断を許さない状況であると言えます。ただ、個別の事案やその具体的な犯罪の成否に関してはさておき、この様にIR誘致に関して様々なスキャンダルが出て来ているのは実は構造上の問題であり、この様なことが起こることを私は2017年の時点から予見していました。以下は少し長いですが当時私が書いたエントリからの転載。

【以下引用】

(IR整備法の起案にあたって)特に大きな方針の変更があるのが、統合型リゾートの開発地域とそれを担当する事業者の選定の順番でありまして、これまでIR議連においては「国が地域を先に選び、後に事業者を選定するのが良かろう」との大方の方針があったわけですが、それを行政側が完全に引っ繰り返して「事業者を地域が選び、それをセットで国が審査する」との方針が示されました。ただ、私の目から見ると完全に「地獄の坂道」を転がり落ち始めてるんですが大丈夫なんでしょうか、コレ。

このシナリオ下で起こることは以下のとおり。

1 全国で同時多発的に起こる事業者入札

現在示されている要点を前提とした場合、2018年末から2019年あたりにかけてカジノ導入を希望する都道府県や政令市が一斉に自地域での施設開発を希望する業者に対して企画入札を始めます。現在、カジノの導入計画を持っている全国自治体は主要なものだけを数えても7つ程、中小まで数えるとこの数は更に増えます。勿論、これら候補地のすべてが最終的な入札実施段階まで辿り着くワケではないですが、少なくとも全国の少なからぬ地域で企画入札が行われ、各業者が各々独自の開発案をもって駆けずり回ることになるのは必至であります。

2 業者と地域が一対一で結びつく

そのような各自治体による企画入札が行われた結果、各事業者と各自治体が一対一で結びつくわけですが、ここから各事業者による「血みどろ」の競争が始まります。何しろ国内の統合型リゾート開発は導入当初「全国で2箇所程度」とされているわけで、その限られた権益を巡ってとにかく相手を「蹴落とす」競争が始まることとなります。

この競争が自治体だけによる競争ならば一定の自制心も働くのでしょうが、地域と事業者がセットとなっている場合にはそうは行きません。背後にいるそれぞれの業者にとっては「選ばれるか/選ばれないか」のイチかゼロかの勝負ですから、己の強みをアピールすることは元より、競争相手をあらゆる手段で妨害しようとする力が働くのは当然の理であるといえます。

3 「あぶれ」てしまった業者は必ずアンチに廻る

一方で、実は国に向かって申請を行う前の自治体による選定から「あぶれ」てしまう業者も必ず出てきます。例えば、国際展開をしているような大規模事業者は総じて大都市圏域での施設開発を希望しており、そういう事業者は外資系6社に合わせて、国内資本も数社ほど居ます。対して、大都市圏で現在具体的なカジノの導入構想を持っている地域は千葉、神奈川、大阪の3つ(東京は舛添時代に一時停止しているので除外)。各自治体による企画選定の段階でも完全にポジション数が足りず、必ずそこには自治体の選定から「あぶれ」てしまう業者が出てきます。

そして実は2でご紹介した業者よりも、こういう「あぶれて」しまった業者の方がタチが悪い。カジノ事業者というのは自らが「選ばれる側」である限りにおいては、行政に対して非常に従順な生き物です。一方で自らがその候補から外れ、選ばれる可能性がなくなった時点から急に牙を剥きはじめます。[…中略…]

4 そして起こる醜聞合戦

そして、その先に起こることは壮大な醜聞合戦です。自治体と事業者の組み合わせが決定し、国に向かってカジノ開発を申請する段階になると、競争相手を蹴落とす為、もしくは日本のカジノ導入そのものをご破算にする為と、とにかく様々な人達が様々な思惑で競争相手の醜聞を飛ばすようになるでしょう。

(出所:大混乱に向かってひた走る日本のカジノ構想

【引用ここまで】

今回の秋元司議員を巡る贈収賄疑惑のそもそもキッカケとなったのは、500ドットコムが中国から日本に無許可で現金を持ち込んだという外為法違反から始まったワケですが、常識的に考えて「無許可で黙って現金を持ち込みました」などという違法行為の発覚が第三者から起こるワケもなく、十中八九、この捜査の初動は500ドットコムによる自社リークであったハズです。

ではなぜ、500ドットコム社はこの様な情報を検察に向かってリークしたのか。そのヒントとなるのは、疑惑の500社は本問題で捜査が始まる直前の2019年の夏に日本のIR進出を断念して日本からの事実上の撤退をしており、現在逮捕されているのは彼らの水先案内人として飛び廻っていた現地採用(要は日本採用)のエージェントとの役員だけであるという事実です。

要は中国の500ドットコム社本体は、昨年夏に日本へのIR進出を断念するにあたって「置き土産」として当事者以外が到底知り得ない外為法違反の情報を検察にリークし、日本採用の職員のみを残して日本から撤退したということ。これこそが、私が2017年時点で予見していた「自治体による選定からあぶれてしまう業者」が放った「イタチの最後っ屁」であると言えます。

そして日本では、これからまさに全国各地域でIR開発を担当する事業者選定のプロセスが始まるワケで、この構造問題がある限り、これから先、今回の500ドットコムと同様に選定からあぶれた業者が沢山生まれて来る。そして、その先に起こるのは各企業による醜聞合戦であるワケです。

逆に言うと、その様な混乱の発生を防止する為には「選定からあぶれる事業者が最後の最後まで確定をしない」状況をギリギリまで保つことが必要で、それ故そもそもIR議連は当初「国が地域を先に選び、後に事業者を選定するのが良かろう」との大方針を国に向かって提案していたわけですが、政府はその入札スキームを完全に覆し、「最初に自治体が事業者を選び、その後、政府が自治体と事業者をセットで選ぶ」という現在の入札スキームに書き換えてしまった。その入札スキームの書き換えを先導したのが、IR推進法の成立後に整備法の起案を担当することとなった政府・IR推進本部であり、現在の混乱は彼らの行った制度の書き換えから「必然的に」産まれている構造上の問題であるとも言えます。

この辺の詳細に関しては、以下に示す私のYouTubeチャンネル側でもより詳しく解説を行っていますのでご興味のある方は是非ご覧いただければ幸いです。

【専門解説】カジノ汚職の構造問題を専門家が解説します

https://www.youtube.com/watch?v=zmhaGYkXbHs&t=

ということで、今回の秋元議員を巡るスキャンダルは偶発的に起こったものではなく、IR整備法が持つ構造上の問題によって生み出されているものであり、自治体の選定から「あぶれる」業者が続々と確定してくる現在から来年前半の期間に同様のスキャンダラスな醜聞が方々に向かってリークされるであろう、ということ。この状況の発生を2017年時点で予見し、また当時、政府に向かって選定スキームの変更を行うべきではないと言い続けて来た私としては、この構造問題を生み出したIR推進本部にキチっと責任を取って頂きたいなと思うところであります。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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