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1000ドル超えの新型iPhone「高すぎる」は大げさ? 出荷遅れの可能性も

松村太郎ジャーナリスト/iU 専任教員
1000ドルスマホは、ライフスタイルで最も重要な投資として、納得してもらえるか?(写真:アフロ)

Appleはいよいよ来週、米国時間9月12日に、新型iPhoneの発表イベントを開催します。iPhoneの名称について、また会場となるSteve Jobs Theaterについては、Yahoo!ニュース個人の記事でフォローしています。

新型iPhoneの名称、「iPhone X」と「iPhone 8」になる?

https://news.yahoo.co.jp/byline/taromatsumura/20170902-00075278/

新型iPhone発表イベントの会場となるThe Steve Jobs Theater

https://news.yahoo.co.jp/byline/taromatsumura/20170907-00075465/

さて、有機ELディスプレイを採用し、ホームボタンを廃止、指紋の代わりに顔面をセキュリティ認証に使用するなど、大幅な仕様変更が加えられると言われている新型iPhoneには、これまでの「iPhone 8」や「iPhone 8 Edition」、「iPhone X」といった名前の候補が指摘されてきました。

同時に、Samsungによる独占供給となる有機ELディスプレイの価格の上昇で、1000ドルからという高価な製品になる、と早くから指摘されています。個人的には、iPhone 7 Plus 256GBと同じような969ドルあたりがターゲットになるのではないか、と考えています。

これまでiPhone 7は32GBモデルで649ドル、画面が大きなiPhone 7 Plusは同じく32GBモデルで769ドルという価格が設定されてきました。これに比べて1000ドルからという価格は、大幅な値上げに見えます。

ところが、アメリカの近年のAppleや携帯キャリアの販売方式から考えると、値上げ幅は驚くほどではない、と指摘することができます。その背景には、iPhone販売方式の変化があります。

アメリカでのiPhone販売はこれまで、いわゆる2年縛りで199ドルから購入できるという仕組みでした。

正確に言うと、2年間そのキャリアを使い続けることを前提に、649ドルのiPhoneから450ドルを割り引いて、199ドルで購入できるようにする仕組みです。もし2年以前に通信契約を解約する場合、割引額の450ドルを月割りして2年の残り期間分を計算した「早期解約金」(Early Termination Fee、ETF)が徴収されます。

ところが、SIMフリーのスマートフォンのみを扱うT-Mobileが本格的にiPhone販売に参入する過程で、スマートフォンのリースのような契約を導入しました。例えば月額27ドル支払えばiPhoneを前払い金なしで利用でき、毎年最新のiPhoneに乗り換えることができるというプランです。安くスマホを使い始めることができ、追加料金なしでの乗り換えができる仕組みは、長期契約を獲得したいT-Mobileにとってぴったりでした。

このような端末更新付き月額リースプランは各社でも導入され、またApple自身もApple Storeでの毎年最新のiPhoneに乗り換えられるiPhone Upgrade Programを導入しました。

そのため、たとえ1000ドルのiPhoneが登場したとしても、24分割された料金を毎月支払うことになるため、既存の支払いが0〜15ドルの範囲で増加するだけで、1000ドルのiPhoneを手に入れることができる、というわけです。

特に、iPhone 7 Plus 256GBモデルを使っている人は、新型iPhoneを使う場合でも、月額の支払料金が変わらないかもしれません。そんな理由から、1000ドルと言われる新型iPhoneが高すぎるという指摘は、大げさだ、といえるわけです。加えて、スマートフォンは生活を構成する重要なデバイスになりました。そのため、他の支出を落としても、スマートフォンに投資する価値や効率の面で、合理性がある、との見方をする人もいます。

1000ドルと聞いて「高すぎて売れないのではないか?」という懸念は、今のAppleに言わせれば「問題ない」との考えなのでしょう。

iPhoneがビジネスの6〜7割を占めるAppleにとって、iPhoneからの売上高は経営上非常に重要になります。しかし成熟しつつあるスマートフォン市場では、先進国で大量の新規ユーザーを獲得することは難しくなっています。iPhoneからの売上高を拡大する方法は、

  • 「買い替え需要を喚起する」
  • 「他社からユーザーを奪う」
  • 「新興国でハイエンドユーザーを開拓する」
  • 「平均販売価格を上昇させる」

程度しかありません。加えてAppleは既に、Apple WatchやAirPodsといったiPhone向けアクセサリの拡充、Apple MusicやiCloudといったサービスの提供、App Storeでのアプリ販売手数料といった、iPhoneを購入した人々からの売上手段を確保しています。

新型iPhoneは製造コストも上昇しますが、買い替え需要、乗り換え需要、平均販売価格上昇という3つを同時に実現する、非常に戦略的な製品、と位置づけることができます。

そんな新しい要素を満載したiPhoneですが、ここに来て、出荷の遅れを指摘する報道が増えてきました。

今のところ9月12日の発表会が確定しており、例年通りであれば9月15日に予約開始、9月22日に発売というスケジュールになっています。

今回登場するとみられているのは、有機ELディスプレイを採用するモデルに加え、iPhone 7シリーズ2機種の後継モデル。9月22日の発売は、これら後継モデルのみになり、有機ELディスプレイを搭載するiPhoneは10月に遅れる可能性が指摘されています。

例えば、アメリカだけで全ての機種が22日に登場する、といった可能性もあるかもしれません。いずれにせよ、来週9月12日のイベントに注目していきたいと思います。

ジャーナリスト/iU 専任教員

1980年東京生まれ。モバイル・ソーシャルを中心とした新しいメディアとライフスタイル・ワークスタイルの関係をテーマに取材・執筆を行う他、企業のアドバイザリーや企画を手がける。2020年よりiU 情報経営イノベーション専門職大学で、デザイン思考、ビジネスフレームワーク、ケーススタディ、クリエイティブの教鞭を執る。

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米国カリフォルニア州バークレー在住の松村太郎が、東京・米国西海岸の2つの視点から、テクノロジーやカルチャーの今とこれからを分かりやすく読み解きます。毎回のテーマは、モバイル、ソーシャルなどのテクノロジービジネス、日本と米国西海岸が関係するカルチャー、これらが多面的に関連するライフスタイルなど、双方の生活者の視点でご紹介します。テーマのリクエストも受け付けています。

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