團十郎さんが語った「あの日の空」は唐紅?それとも大禍時?―6月は空が赤い季節
6月は、「夕焼けがきれいに見える季節だな」と個人的に思っています。筆者は娘たちと”夕焼け散歩”や”満月散歩”をして、よく空を見上げるのですが、写真フォルダに入っている美しい夕焼けは、6月が多い気がします。
さて、筆者は普段、芸能取材や企業取材をしています。先日、夕焼けを思い起こす取材現場がありました。それが、歌舞伎俳優・市川團十郎さんの会見です。
6月中旬に行われた会見で團十郎さんは、7月の公演内容についてお話しされたのですが、その中で、2017年6月22日に亡くなった妻・小林麻央さんの命日についても語りました。6月22日を前に心境を聞かれた團十郎さんは、
と語りました。
「あの日は空が真っ赤だった」「空が真っ赤な6月は〜」という言葉を聞いた瞬間、会場にいるのに真っ赤な夕焼け空が目に浮かびました。
そして筆者が書いた記事を読んでいた友人が、たまたま、”2017年6月22日の夕焼け”を撮影していて、写真を送ってくれたのです。
友人は、「会社帰りにたまたま空がものすごい夕焼けで、異様なくらいにきれいな空だった」と言っていて、「思わず写真を撮っていたものが残っていた」と送ってくれました。本当に、吸い込まれるような美しい空ですよね。
真っ赤だったり、オレンジだったり、金色だったり。時には紫やピンクに見えたり。刻々と移り変わる色。筆者は普段、娘たちと夕焼けを見ながら、「このきれいな夕焼けを、どうやって表現しよう」と考えることがあります。
この記事では、執筆記事1万本以上、取材経験5000回以上の元テレビ局芸能記者で現・フリー記者のコティマムが、『ニュース記事に使われている何気ない言葉』を解説。今回はちょっと趣向を変えて、”色”の表現についてご紹介します。(構成・文=コティマム)
『茜色』『唐紅』――赤色を表す言葉
この写真は、昨年23年6月の夕焼けです。娘たちと習い事から帰る途中に、あまりにも美しい夕焼けだったため、しばらく眺めていました。紫のような、ピンクのような、オレンジのような、金色のような……。いろいろな色がまざって、グラデーションのようになっています。
それから数分も経たない間に、太陽が沈む寸前だったのか、一気に空が真っ赤に。写真ではオレンジに見えますが、もっと濃い赤で、燃えるような色でした。空から火が降ってくるかのような、目を奪われる景色でした。
こうした美しい景色や色を目にした時、「うわ~! きれい……」と思わず見とれてしまうと同時に、「この景色を原稿に書くとしたら、どうやって表現するだろう」とも考えます。
普段ニュース原稿やインタビュー原稿を担当している筆者は、小説や創作ものを書いているわけでもないですし、景色や情景を文章で書くことは滅多にありません。だからこそ、「目の前にある風景を、動画ではなく言葉で表すって難しいなぁ」と感じるのです。
そんな筆者が持っているのが、株式会社学研プラスが発行している『情景ことば選び辞典』。気象や自然、季節、人体などさまざまなカテゴリーで、情景描写に役立つ類語が集められています。表現に悩んだ時に役立つ一冊です(どちらかというと、筆者のような記者タイプよりも、小説家やシナリオライター、作詞家などが使用するイメージです)。
そしてカテゴリーの中には”色”や”季節”も入っています。
例えば”色”でいうと、青、赤、金、銀など10種類の色について類語が書かれています。夕焼けを表す赤では、『茜色(あかねいろ)』や『唐紅(からくれない)』などの、赤に関連した色の名前と説明、使い方の例が載っています。
例えば
(出典:『情景ことば選び辞典』/株式会社学研プラス)
と紹介されています。
『猩猩緋』や『團十郎茶』など珍しい表現も
珍しいところでは「黄身を帯びた薄い朱色」という意味で『洗朱(あらいしゅ)』、「少し黒みを帯びた鮮やかな紅色」という意味で、『猩猩緋(しょうじょうひ)』などがあります。ちなみに『猩猩』は、能や歌舞伎の演目に登場する動物(獣)の名前です(表記は猩々)。演目『猩々』の役者の面や装束が鮮やかな赤色や緋色であるため、『猩猩緋』の由来とされています。
意外だったのは、『柿色』がオレンジではなく赤の類語であること。
(出典:『情景ことば選び辞典』/株式会社学研プラス)
と説明されています。
色のカテゴリーの中にオレンジは入っていないのですが、黄色や金色、紫色の類語は入っているので(例:曙色、山吹色、江戸紫など)、”移り行く空の表現”に使えそうだなと思いました。
ちなみに、冒頭の團十郎さんの名前がついた色もあります。それが茶色の類語で『團十郎茶』。團十郎さんは歌舞伎宗家の成田屋ですが、市川家が歌舞伎十八番の演目『暫(しばらく)』で着用する衣装の色にちなみ、「赤みがかった明るい茶色」を『團十郎茶』と表現します。
また”色”以外の”時や季節”のカテゴリーには、夕方の表現も少ないながらに入っています。『入相(いりあい)』や『大禍時(おおまがとき)』など、日が沈む頃や夕方の薄暗い頃を表現する言葉が紹介されています。
まとめ
今回は夕焼けをテーマに、色の表現についてご紹介しました。筆者はこうした表現を普段の記事で使うことはないですが、美しい景色を見た時に少しでも伝えられる幅を広げたいと思っています。
とはいえ、冒頭の團十郎さんの「あの日は空が真っ赤だった」は、難しい色表現をしなくても、そのシンプルな一言だけで伝わって来るものがありました。
今日は6月最終日。学校帰りや仕事帰りに、夕焼けを見上げてみませんか。あなたなら、どんな言葉でその景色を伝えますか?
言葉に関する記事については、「『鎂』『氦』『砷』――なんて読む?【記者も知らなかった漢字】」もご覧ください
團十郎さんの取材については筆者のブログ【小林麻央さんの命日に「あの日」を語る】に詳しく掲載していますので、よろしければご覧ください。
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※ニュース参照:ENCOUNT