「イヌ」は気温が高くなると「噛みつき」やすくなる
毎年、飼い犬や野犬などによる咬傷事故が起きている。最近の研究によれば、気温の上昇、太陽光線、大気汚染などによってイヌの咬傷事故が増えるという。そのメカニズムについて考える。
イヌによる咬傷事故とは
環境省によるとイヌの咬傷事故は全国で毎年4000件以上起きていて、死亡者が出る年もある(環境省、犬による咬傷事故状況、全国計:昭和49年度〜令和2年度)。その9割以上は野犬以外によるもので、茨城県や岐阜県などはイヌの咬傷事故防止のための啓発を行ったりしている。
これら行政による注意喚起では、イヌが噛みつく原因として、放し飼い(または逃走中)、イヌに触ろうとした、イヌのケンカを止めようとして飼い犬をかばった、食事中のイヌに手を出したなどとなっている(茨城県)。また、リードを持った飼い主がイヌを制御できない、室内飼いのイヌが外へ逃げたり、散歩中にリードが外れて逃げたなど、飼い主の側に問題があるケースも多いようだ(岐阜県)。
咬傷事故では、ブルテリア、秋田犬、シェパードなどの中大型犬の割合が多く、飼い主の制御が効かないほど体力のある犬種による事故が目立つようだ。各自治体は、飼い犬が逃げたり、ヒトを咬んだら、すぐに最寄りの保健所と警察署へ連絡するよう求めている。
いくら家畜化されたとはいえイヌもネコも他のペットも、そして我々ヒトも攻撃性を持っている。これは生物の本能であり、ヒトもストレスや感情変化、環境変化などによってその攻撃性が喚起されることがある。
イヌもヒトも同じ
では、どのような環境変化が、生物の攻撃性を増大させるのだろうか。これまでの研究によれば、気温の上昇、大気汚染が生物の攻撃性の増大と関係していることがわかっている(※1)。
イヌも例外ではない。最近、米国の研究グループが発表した論文によれば、気温が高くなり、太陽光線が強くなり、大気汚染が悪化などすると、イヌに咬まれる危険性が最大で11%高くなるという(※2)。
同研究グループは、2009年から2018年にかけて米国の各都市(ヒューストン、シカゴ、ロサンゼルス、ニューヨークなど)の公衆衛生当局からイヌによる咬傷事故のデータを入手し、日中の最高気温、降水量、紫外線量、大気汚染度(PM2.5)、オゾン濃度との関係を調べた。その結果、同期間中の事故件数は6万9525件で、オゾン濃度、気温、紫外線量が増加すると事故も増え、雨の日や休日には事故が減った。
イヌによる咬傷事故がどれくらい増えるのかというと、紫外線量が増加すると11%、気温が上がると4%、オゾン濃度が上昇すると3%増えたという。ただ、犬種、性別、去勢の有無などの影響はわからず、イヌと飼い主、被害者との関係性についても不明とした。
我々ヒトも気温が上がるとイライラするし、喫煙所の近くを通って受動喫煙を浴びると不快になる。イヌも同じだ。
これからは気温が上がる。この研究では湿度との関係は調べていないが、湿度が高くなるといわゆる不快指数も上がる。我々ヒトでさえ、イライラする季節だが、不用意に触って咬まれないよう、イヌのストレスにも注意が必要だ。
※1-1:Heather R. Stevens, et al., "Hot and bothered? Association between temperature and crime in Australia" International Journal of Biometeorology, Vol.63, 747-762, 4, March, 2019
※1-2:J D. Berman, et al., "Hot under the collar: A 14-year association between temperature and violent behavior across 436 U.S. counties" Environmental Research, Vol.191, December, 2020
※1-3:Aichun Xu, et al., "Monkeys fight more in polluted air" scientific reports, 11, Article number: 654, 12, January, 2021
※2:Tanujit Dey, et al., "The risk of being bitten by a dog is higher on hot, sunny, and smoggy days" scientific reports, 13, Article number: 8749, 15, June, 2023