「90秒ルーチン」でフェイクニュースに対抗する。米大学の取り組み
フェイクニュースの拡散は、記事内容を十分に確認しない反射的なシェアも要因の1つです。ワシントン州立大学バンクーバー校のMike Caulfield(マイク・コールフィールド)さんは、大学生がソーシャルメディアで記事や動画を見る時に「90秒ルーチン」を行うことで対抗できると言います。
wikiを使ったファクトチェック
フェイクニュースを研究する中でマイクさんに注目したのは、ソーシャルメディアに流れる不確実情報を学生が調査、確認し、wikiにまとめるDigital Polarization Project (DigiPo)という取り組みを行っていたからです。
DigiPoのサイトを見ると「音楽を聞くとIQが高くなる」「ハゲている男性はよりセクシー?」「高校生のフェイスブック利用は減少している?」などネットで話題になった41のトピックが掲載されています。
プロジェクトは、シラバスや教材などのフォーマットが用意されており、同校だけでなく12大学でライティングの授業内に導入されています。教材となっている『Web Literacy for Student Fact-Checkers』という電子ブックは、ファクトチェックサイトの一覧、出典の確認、検索方法などが具体的に提示されており、読み進めることでファクトチェックが行える工夫がされています。
しかしながら、プロジェクトの実践には難しい部分もあったと言います。
「ライティングの授業内にあるので、wikiの仕組みが難しいという講師のデジタルリテラシーの問題がありました。また、人の書いた記事を編集したくない、という大学生もいました」
ソーシャルメディアで文脈がバラバラに
マイクさんは、2006年にBlue Hampshire(ブルーハンプシャー)というブログを開設し、注目された経験を持ちます。
「ニュースリーダーで購読するブログは新聞や雑誌に似ていましたが、ソーシャルメディアはあちこちから切り取られた情報が流れるため、文脈がバラバラになってしまった」「ブログも変わってしまった。クリックを重視するようになり、クリックベイト(いわゆる釣りタイトル。扇情的なタイトルで閲覧者数を増やす手法)も出てきた」と変化を振り返ります。
様々な人々と交流できたブログから、フェイスブックが情報流通の主流となり「ネットはオーガニックではなくなった」。ソーシャルメディアのプラットフォームはフィルターバブルを生み、コンテンツを見極めることはさらに困難になっています。
マイクさんは、今、多くの大学生がより簡単に参加できる取り組みを進めています。それが「90秒ルーチン」です。これは、スタンフォード大学のワインバーグ教授らとも連携した取り組みです。
「90秒ルーチン」の3つのステップ
「90秒ルーチン」は、以下の3つのステップで行われます。
1、Investigate the source(情報源の確認)
2、Go Upstream(情報源を上流に辿る)
3、Check other sources(他のソースを確認する)
授業では事例を取り上げながら実際に検証を行います。学生は提示された事例に対し、情報源となっているサイトを探し、さらに元となっている論文や発表をチェックします。そして、同じ事象や類似した内容が他のサイトにどう書かれているかを確認します。
学生には、これらの動作を5-10分ぐらいの時間で取り組んでもらい、最終的には90秒でできるようになるのを目標にしています。
これら3つのステップは基本的なことに思えますが「学生はそれさえも行う習慣がなかったし、大人もできてない」と強調します。
コンテンツをソーシャルメディアでシェアする前に、「90秒ルーチン」を行うことにより、受け取った情報の真偽に慎重になり、反射的に間違った情報をシェアしてしまうのを防ぐことができるのです。
偽か正ではなく、グラデーション
マイクさんは「判決を下すようなスタイル、偽か正かという考えは好きではない。グラデーションであり、自分で考えることが大切」とも話していました。
【この記事はJSPS科研費 JP18K11997(ミドルメディアの役割に注目したフェイクニュース生態系の解明)の助成によるものです】