株価上昇でわかった「日本の個人投資家はアベノミクスを信じていない」
■「今世紀に入ってからの最高値」を連日更新
株価が上がっている。1万8000円を突破して「今世紀に入ってからの最高値」を記録したと思ったら、3月12日は1万9000円台に到達した。だから、市場では「2万円台は間違いない」という声が聞かれ、安倍首相はホクホク顏だという。また、甘利明経済財政・再生相は13日、「投資家の日本経済に対する期待だ」と会見で述べた。
私は株式投資をやらない。しかし、ビジネスと経済の現場を取材し、主に経済面から記事や本を書いているので、株価の動向には常に注意を払っている。そこで、書いておきたいことがある。それは、株価の上昇がアベノミクスで景気がよくなった結果ではないことと、日本の個人投資家が賢明にもアベノミクスをまったく信用していないことだ。
■外国人と官製マネーがメインプレーヤー
誰もが知るように、日本の株価を動かしているのは、外国勢(単に外国人と書くメディアもある)と、日本の官製マネーだ。とくに2014年は、日銀のETF買いや、官製マネー(GPIFやそのほかの年金資金)の株の“爆買い”によって、株価が維持されてきた。つまり、この1月までに、日本市場は完璧な「官製相場」になっていた。
ところが、2月から再び外国勢が買いに転じた。それが、今回の株高の直接の原因だ。
2013年、アベノミクスが始まったとき、外国勢はいっせいに買い越しに転じた。2013年、彼らは15兆1196億円を買い越し、2012年の2兆8264億円を大幅に上回った。リーマンショク以後、こんなことはありえなかった。その結果、株価は上がった。
しかし、2014年になると、彼らは一転して売りに転じた。東京証券取引所のデータによると、外国勢が2014年12月までに購入した日本株は1兆円に満たない。なんと、前年の10分の1以下だ。つまり、外国勢にとっては、アベノミクスの熱狂は2013年だけのことだったのである。
外国勢は日経平均をドルベースで見ている。2014年は円安が一気に進んだ年だったので、これは当然だ。事実、ドルベースでの日経平均は下がっていた。
■「これなら安心。トーキョーでまたひと儲けしよう」
ところが、今年に入ってから円安が止まった。120円を超えない踊り場に入った。さらに、日本の公的マネーの爆買いも続いていた。公的マネーは価格など気にせず高値買いをするので、株価は一時的に下げてもすぐ戻す。
これを見た外国勢は、「これなら安心して買える。トーキョーでまたひと儲けしよう」と判断したようだ。
彼らのこの判断を後押ししたのが、FRBのFFレート(米国金利)の値上げ時期が不透明なことだった。利上げがあれば、NYダウは調整局面に入るのは確実。しかし、その時期が読めないためNYダウは不安定になっていた。そこで、NYダウから日本株に一時的に資金を回したのである。
外国勢の日本株の先物買いは、2月第2週に5445億円、第3週は9236億円に達した。先物・現物合計で見ても、第2週は7500億円、第3週は1兆1000億円と膨らんだ。
これでは、株価が上がるのは当然だ。
これまで、日経平均は、NYダウのコピー相場だと言われてきた。実際、NYダウが上げれば上げ、下げれば下がった。変動率もまたNYダウとほとんど同じだった。これを「NYダウの呪い」と言ったエコノミストもいた。
しかし、1万7000円台半ばを超えた時点から、日経平均はNYダウの上昇幅を上回るようになった。
■日本企業の株主は日銀や公的マネーだけになる
外国勢と官製マネーで動かされる市場は、もはや資本主義下の「自由市場」とは言い難い。2014年を振り返ると、外国勢が「総売り」すると官が「総買い」するということだから、これは日本の国債市場で起こっていることと同じだ。
日銀が新規国債を全部市場から買い取ってしまうので、国債市場がほぼ存在しなくなったように、株式市場もやがて存在しなくなるかもしれない。公的マネーの株買いが続けば、いずれ日本企業の株主は、日銀や公的マネーだけになってしまう。
こんなことは、経済の教科書のどこにも書いていない。国家資本主義という言葉があるが、これも当てはまらないだろう。
国債市場がないも同然だから、金利はほとんどなくなった。マイナス金利という言葉も最近では「おかしい」と思われなくなった。しかし、これは銀行にお金を預ける方が金利を払うということだから、ありえない。これもまた経済の教科書には書いていない。こんなだから、お金を増やそうとなったら「株を買いましょう」と、政府は言っているのだろうか?
■外国勢にしっかり着いて行っている個人投資家
では、このような異常な経済のなかで日本の個人投資家たちはどうしているのだろうか?
彼らは外国勢の動向に注視しながら、短期売買を繰り返してきた。外国人投資家の日々の売買状況を知るには、平日の午前8時からロイターや株式新聞速報から配信される「外資系証券経由の注文状況(外国証券の寄り付き前の注文動向)」が参考になる。また、彼らの週間の売買状況を知るには、東京証券取引所が毎週木曜日に発表する「投資部門別売買状況」を見ればいい。さらに、シカゴ先物市場(CME)での前日の日経225の終値が重要だ。
これらを見て、個人投資家は外国勢の行動に着いて行っているのだ。
私の知人の個人投資家は、このように言う。
「アベノミクスが始まって以来、これが “正しい投資スタイル”です。これによって、アベノミクスの恩恵をもう十分に受けました。外国人さまさまですよ」
つまり、最終的に公的マネーで株価は維持されるのだから、彼のような賢い個人投資家は、徹底して戻り売りと逆張りを貫いていけばいいのだ。実際、日本の個人投資家は2012年には1兆9100億円、2013年には8兆7500億円、2014年には3兆6200億円と3年連続で大幅に売り越してきた。本当に賢い。外国勢が上げてくれた分を利食いしては儲けている。
■株価と景気が連動すると信じているのは政府だけ
東証の投資部門別株式保有比率(金額ベース)を見ると、個人の株式保有比率は20%ほどしかない。そんななかで短期売買をしている個人投資家はそう多くない。
だから、彼らは極めて慎重だし、常にヨコ(自分以外のプレーヤー)がどうしているかを見ている。外国勢が売れば一緒に売る、買えば一緒に買ってまた利食いする。
日本政府は株価が上がると、メディアと国民は「景気がよくなった」と思うと信じているようだが、投資家にとっては、株価が上がろうと下がろうと儲けるチャンスはある。
つまり、アベノミクスによる景気回復やデフレ脱却をもっとも信じていないのは、じつは、賢明な日本の個人投資家たちだ。