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JR西日本の新快速に「Aシート」導入 成功するのか?

小林拓矢フリーライター
「新快速」は速達性で人気を集めている(ペイレスイメージズ/アフロ)

 JR西日本は、この春のダイヤ改正で登場する新快速「Aシート」の車両を、先月末に公開した。46席の座席はリクライニングシートであり、500円の着席料金が必要である。もちろん、電源用コンセント、Wi-Fi、テーブルといったものも備えられている。

 車両は223系12両編成の9両目を使用し、8両の基本編成ではなく、4両の付属編成に設けられている。

JR西日本「Aシート」の外観と車内(JR西日本プレスリリースより)
JR西日本「Aシート」の外観と車内(JR西日本プレスリリースより)

どんな列車に「Aシート」は導入されるのか

 先日発売された『JTB時刻表』によると、下りは下記のようになっている。

野洲10時59分発、大阪11時58分着、姫路13時02分着(土曜・休日運休)

野洲11時59分発、大阪12時58分着、姫路14時02分着(土曜・休日運転)

野洲19時28分発、大阪20時27分着、姫路21時34分着(土曜・休日運転)

野洲20時59分発、大阪21時57分着、網干23時16分着(土曜・休日運休)

 上りは下記のようになる。

網干7時22分発、大阪8時47分着、野洲9時49分着(土曜・休日運休)

姫路8時40分発、大阪9時43分着、野洲10時43分着(土曜・休日運転)

姫路16時10分発、大阪17時13分着、野洲18時16分着(土曜・休日運転)

姫路18時10分発、大阪19時13分着、野洲20時16分着(土曜・休日運休)

 このダイヤを見ると、平日の姫路方面から大阪への通勤にはなんとか使えそうで、大阪から各方面への帰宅には十分使えるという印象を持てる。さすがに、滋賀県エリアから朝の大阪までの通勤には使えない。

 おそらく、今回の「Aシート」の導入は試行的な意味合いが強いだろう。車両も改造車であり、着席料金も車内で車掌に支払うという形である。有料座席とはいえ、実質的には自由席であり、着席を保証されるものではない。

 京阪電鉄の「プレミアムカー」のように、座席指定の予約が必要な列車ではない。

 しかもJR西日本の京阪神エリアの場合、新快速など長距離を走る普通列車には転換クロスシートの座席が使用されており、進行方向に向けて座ることができる。そのことから考えると、電源やWi-Fiなどが完備された座席に加え、予約制度などのプラスアルファがあってもよかったのにとも考えてしまう。

 だが、まだ試行段階だからしかたがないともいえる。

関東エリアでは人気の普通列車グリーン車&座席指定列車

 関東エリアでは、東海道・横須賀・総武・常磐・宇都宮・高崎各線でグリーン車が連結されている。2階建てグリーン車が、2両である。乗車前に券売機でチケットを購入する、あるいは交通系ICカードにグリーン券を購入したことを読み込ませるなどして、グリーン車に乗る。席は自由である。近い将来には中央線でもグリーン車が連結される。

 この車両を利用することで、快適な移動ができる。

 また、私鉄各線では座席指定車両が注目を集めている。京王電鉄の「京王ライナー」、東急大井町線・田園都市線の「Q SEAT」、西武鉄道の「S-TRAIN」「拝島ライナー」、東武東上線の「TJライナー」といった列車が、座席指定を売り物にしている。

 頻度の高いグリーン車か、時間が決まっていて本数も少ないけれども確実に着席が保証されるタイプの列車か。いずれにしても、関東では高級な座席の需要がある。

 ただし関東で需要があるのは、一般の通勤電車や近郊区間を走る列車の普通車のほとんどがロングシートというのも要因だろう。転換クロスシートタイプの列車は、京急電鉄の一部を除いて走っていない。

 料金不要でも転換クロスシートで進行方向に向かって座ることができ、快適にすごせる関西とでは、事情が異なるのだ。関西では私鉄でも転換クロスシート導入車両は多い。このあたりの事情を関西の人がどう受け止めるかが、JR西日本「Aシート」の成功につながるかどうかの鍵となるだろう。「転換クロスシートでも十分だ」と思えば成功しないし、「もっと快適な座席に座りたい」と思うなら、「Aシート」は受け入れられるだろう。

めざすべきは「グリーン車」か「プレミアムカー」か?

 京阪神間の列車では1961年から1980年まで、グリーン車が連結されていた。1970年には「新快速」が登場し、わかりやすいダイヤと速さで支持を集める。最初はボックスシートの急行型車両を使用していたものの、1980年には117系が導入され、転換クロスシートが導入されることになった。この車両と同様の思想で作られ、転換クロスシートが使用された185系が特急型車両であることを考えると、当時の国鉄としても大サービスである。

 JRになったあとは速達化に力を入れ、時速130キロ運転も可能になる。

 関西の私鉄各社とも遜色のないサービスであり、その中で「Aシート」が対抗できるのは、京阪電鉄の「プレミアムカー」だけとなっている。

「Aシート」は、「プレミアムカー」のような予約を必要とする座席指定制をめざすのか、それともJR東日本の普通列車グリーン車のようなものをめざすのか。新快速の頻度と、敦賀から播州赤穂・上郡までという営業範囲の広さとを考えると、後者のシステムに近いものを導入したほうがいいと考える。予約なしで、かつ長距離を気軽にとなると、そのほうがいい。

 試行段階での検討を踏まえ、どういったスタイルの高級座席車両をめざすかは、利用者の動向にかかっている。ただし、新快速の本数などを考えると、「Aシート」はJR東日本の普通列車グリーン車のようなあり方にしたほうがいい。

訂正 本文中、野洲20時59分発の列車の大阪着・網干着の時刻に誤入力がありました。お詫びして訂正いたします。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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