冬のアウトドアレジャーに欠かせないグローブ 山岳ガイドが後悔しないポイントを解説します。
寒い日と暖かい日が一進一退していますが、遠くアルプスの山並みには確実に雪が積もり始めているようです。日常生活で冷たい空気に震えることはほとんどありませんが、これからの季節、登山で手指先(身体の末梢)を守るために注意をしてほしいポイントをご紹介します。
1:グローブは何の為に装着するのでしょうか?
突起物、粗面、瞬間的な摩擦熱、物理的な衝撃から守る機能、この点においてはアウトドアシーンでの皮革製手袋、作業用軍手各種にあたります。今回も記事では割愛いたします。
今回は低温・強風・濡れ・氷雪などの低温物質から体温を失うことを緩和させる熱(伝導・対流・放射)喪失を低減させる機能についてお話しします。
なぜ、気温が下がると指先が冷たくなるのでしょうか?それは末梢に行くにしたがって血管は徐々に細く微細になっていくことも大きな理由です。当然流れる血液は少なくなり手足指先表面から体温放散に供給が追い付かなくなっていきます。
自分の体調管理を疎かにしてはどんな素晴らしい道具やウェアを身に着けても効果が出ないものです。
登山ではたくさんの筋肉を活動させることで多くの熱を発生させています。身体に蓄積された脂肪など各種エネルギー源を効果的に消費するためには、継続的にエネルギー(食べ物)を摂取していく必要があります。
体温を適正に保つ努力は自分自身の心掛けは大切ですが、実のところ私たちが意識することなく、脳と大切な臓器が集中する内臓を第一に適切に活動出来るよう平熱付近に収まるようコントロールされているのです。
2:低温環境で発生する低体温症・凍傷に関連して。
冷たい雨に服を濡らしたり、大量の汗で服を濡らした状態で冷たい風に吹かれると体からは急激に体温が奪われてしまいます。液体は気体に比べて25倍程度熱を運ぶ能力があり、風によって促進される気化熱と対流による熱喪失は登山者が最も注意を払わなければいけないポイントです。
乾いた衣服と防風などの断熱防寒対策、温かく糖質豊富な飲み物による身体内部への加温とエネルギー補充、手足先など末梢の保温、加えて動脈が皮膚表面近くを通る頸部、手首を保護することが大切です。
十分な熱が生まれていない状態か、急激に熱を失っている状態で起こりうる危機は凍傷と低体温症です。
凍傷への入り口 ⇒ 身体は危機を感じて脳と内臓保護を第一とする反応として手足など末梢部分への血流を少なくしている状態です。
低体温症への入り口 ⇒ 身体深部の体温が1~2度低下するだけで発生します。震え悪寒を感じる状態で素早く対処しなければ、救助の手が届きにくい山中で死に至る可能性が高まります。登山における低体温症については別の機会に致します。
3:私が登山者として意識している点をご紹介します。
指先が冷たく感じたときは指先に運ばれる熱より体外に放出される熱の方が多い状態です。では登山者は何をしたらよいでしょうか?
・樹林帯の中や風が直接当たらない岩や尾根の陰に移動します。
・乾いた断熱性の高い手袋に交換して風を通さないシェルで被います。
・並行してカロリーが高く吸収の早い糖質豊富な(甘い)ココアなどの飲み物を飲むか行動食をとります。
・足踏み等筋肉を動かすのと同時に並行して指先足先を動かします。
・手指に関しては両腋の下に挟んでおくことも応急的には有効です。
・冬期においては熱伝導が高い金属製品(ピッケルやアイゼン)は急激な熱喪失を起こします。素手で触ることは厳禁です。
・雪を直接触ることも同様に避ける方がよいでしょう。
・気温が零度前後の時、手袋やアウターウェア表面に付着した雪は体温であっという間に融け液体へと変化し濡れます。
・標高を上げていくと気温は低下(関連記事:1000m標高を上げると6.5度低下する)していきます。濡れた状態で標高を上げることは避けなければなりません。その為、シェルウェア表面の撥水加工チェックは日本の冬山では夏以上に重要です。 ⇒ 濡れは不快なだけでなく危険です。
やせ型と肥満型、女性と男性、体質など必ず個人差があります。寒さに晒すことで耐性を向上させることはある程度可能だと信じていますが、実際の冬山で実践するのは良い結果を生みません。手指の凍傷を起こすほどの危機的な状況では、寒さや痛さを感じる限界を超すと指が凍りついても感覚がなくなり対処が遅れてしまうからです。
一般的に初冬、街中や低山ハイキングなどにおいて、末梢を積極的に寒さに晒したりあたためたりと刺激を与えて馴化させていくと良いでしょう。
冬期のグループ登山においては、小まめに手足指が冷えていないか、リーダーは一人一人に確認することが重要です。これは我慢できるかどうか、ということではないのです。
4:手袋の種類と特徴
A:最も使用頻度が高いのは? ⇒ 薄手!
・秋・冬・春と使える季節が長く、低中標高の樹林帯で使いやすい。
・冬期に厚手と重ねる、シェルグローブと重ねることができる。
・素手感覚が損なわれにくく、細かな作業が行いやすい。
・メリノウール製は生地表面の摩擦が小さいく、中厚手袋との重ね使いがし易い。
・ポリウレタンを混紡したタイプは伸縮性フィット感共に優れている。
・コンパクトでアウターポケットに入れやすい。予備をもっていきやすい。
・雨などで濡れた時は外して絞り、装着して体温を利用して乾かすことが容易。
私の感じるデメリット&起こし易いミス
・コンパクト故に紛失、行方不明になりやすい。
・指先など装着時の接触圧が高い部分に穴が空きやすい。
B:マイナス40度で使用可能モデルは万能ではありません。
・手がどれほど汗をかくか?ビニール袋に手を入れてみて確かめてください。登山中に出る大量の汗が手袋を湿らします。
・汗も水も液体なので熱を運ぶ能力は乾いた空気の25倍程度あります。
・気温の高い時間帯や標高、風の弱い樹林帯ではこのタイプは上部の厳しい環境で使う為に仕舞っておきましょう。
C:ゴム引き完全防水モデルは万能か?
・蒸れ感も温かさのひとつ?汗腺から出た気体状態(水蒸気)の汗が液体になる時に凝縮熱を発生するので温かく感じる瞬間もあります。
・極低温下での連続した大量の発汗は想定していないと推測します。
・本州における標高1500m以下でも多雪である日本ならではの湿雪対応グローブという認識です。
D:複層システム(2~3層)は一体型?分離型?どちらを選ぶか?
・どちらも標高が高く、強風に晒されるゾーンや極低温下で使うことを想定しています。厳冬期の山岳であっても標高が低いエリアや風の弱い樹林帯での使用にはオーバースペックとなり、自分の汗で手袋内部を濡らしてしまうことになります。
・分離型であれば、内部が濡れてしまった時には予備の中間層手袋と最外層のシェルグローブを組み替えることが可能です。
・一体型は暖かく乾燥させることが可能な登山又は営業山小屋での使用を想定しています。冬期の連続したテント泊では乾かすことが困難であるというデメリットの方が目立ってきます。
E:防水撥水透湿素材でできたオーバーグローブ。
・裏返して簡単に乾燥させることができ、中緯度の日本に降る湿雪に適応しやすいので、一つは持っていてほしいと思います。
・縫い目にシームテープ加工されているタイプが安心です。
・組み合わせる手袋は自由です。気温が上がった雪山でのラッセル(深い雪の中での歩行)や雪洞堀りなどで素手に直接装着して使うこともできます。
F:五本指?3本指?ミトン?あなたはどれを選びますか?
・保温性重視であればミトンが一番温かいです。ピッケルや簡単なロープ使用が想定されるなら三本指モデルも良いでしょう。
・細かなロープ操作や岩ホールドを掴むなどのクライミングやアイスクライミングでは五本指タイプが必要です。
・寒さ対策重視であれば、五本指タイプであっても装着時に各々の指の圧迫度が少なくゆったりとしたサイズを選ぶようにします。
・フィット感重視で五本指タイプを選ぶこともあります。
・個人差がありますが、手汗で湿った状態であっても手袋の抜き差しがスムーズであるかも重要ポイントです。
G:手袋の選び方。
・掌の外周・大きさと指の太さ・長さは個人差があるので、必ず装着してから購入するようにしましょう。
・日本の冬山は登山口と中腹まで、樹林帯以上、稜線と一日における環境変化がとても大きいので、薄手、中厚、シェルタイプなど複数タイプを持っていく必要があります。
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H:手袋は登山中に紛失してはいけません!
・冬山で作業の都合や休憩中、外した手袋は懐にしまうなどします。極低温では外した手袋自体が凍ってしまうこともあります。
・風が無く無風快晴の時でもザックの上や雪上に放置しない習慣を身に付けておきましょう。風で飛ばされた手袋は二度と戻ってきません。
・左右揃って手袋です。片方の紛失も同様です。
・小屋での乾燥室で見分けられるように名前や印をつけておきましょう。
SNSやユーチューブで私達が目にする美しく雪を頂いた峰々は良い条件の時に登山できていたからだと思うようにしてください。山の気象や環境は登山者の都合などは全く関係ありません。
寒さが日ごと厳しくなる時期ですが、臆病にしっかり準備して良い空気が一杯の野山にお出かけください。
良い一日を!