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特産品づくりを通じた地域活性化 参加者の深い共感と理解がカギ

小出宗昭中小企業支援家
ベーカリーツキアカリと種田養蜂場のコラボ商品はちみつパン(ガキビズ提供)

 2019年12月、岐阜県大垣市にパン店「ベーカリーツキアカリ」がオープンした。オーナーでパン職人の土屋清明さんが、金型職人の父親の鉄工所を譲り受け改装してできた個性的な店舗だ。事業コンセプトの明確化や情報発信など、開業から支援にあたっていた大垣ビジネスサポートセンター(ガキビズ)は、土屋さんの地域活性化への強い思いを聞いていた。

 土屋さんは、岐阜県内や東京などで修業を積みUターンして開業した。修行中は地元を離れてしまっていた事もあり、横のつながりの必要性を感じていた。東京ではパン店の経営者同士のつながりが強く情報交換が活発だったという。また店名には、住所の「築捨町(つきずてちょう)」に明かりを届けたいという思いを込めた。名物と言えるようなものが少ない中、地域を代表するようなパンを作って大垣市を盛り上げたかった。

「ガキパンプロジェクト」始動

 ガキビズは土屋さんの思いを受けて、地元の素材を使った大垣市名物になるようなパンづくりに挑戦し、地域活性化に繋げてみないかと提案した。ベーカリーツキアカリだけではなく、地域の複数のパン店で期間・数量限定で同時に販売すれば、話題になって各店のPRと新規顧客開拓に結びつき、横のつながりもつくれるのではないかと考えた。

 連携先は、ガキビズ並びにガキビズと協力関係にある大垣西濃信用金庫が支援しているパン店を候補にあげた。こうして「ガキパンプロジェクト」と名付けられた取り組みが動き出した。

 第一弾は大垣市産の緑茶のあんをつかったパンだ。使われているお茶は茶農家、平塚香貴園が生産した抹茶にも使われる香り高い品種だ。これを地元で70年の歴史がある松下製餡所があんにした。このあんを使い、ベーカリーツキアカリ自身も声掛けをして集まった地域のパン店、ブーランジェリー・アンプとベーカリー穂の香の計3店舗が創作パンを作った。

4店連携で次々新商品

 ベーカリーツキアカリがプロジェクトのチラシをつくり、ガキビズが情報発信をすると、地元の新聞やテレビでこぞって報道された。地域を元気にしたいという思いに共感した「パン工房まあさ」もプロジェクトに参画したいと手を挙げ、それからは4店舗で続々と創作パンを生み出していった。第二弾はほうじ茶パン、第三弾は和紅茶パン、第四弾ではガキビズが支援している種田養蜂場のはちみつを使った。創作パンは完売が続出し、約1年で累計1万個ほど売れたという。

 商工業者が集まって新たな地域の特産品を生み出そうという取り組みは全国で数多くある。しかしこの事例からもわかるように、成功のカギは、参画事業者が趣旨に深く共感して自店にメリットがある事を理解でき、さらにネットワークを形成していく上で中心になる事業者や支援団体等がどれだけ熱意を持って動けるか、だと思う。

 多数の事業者が参画し見栄えのするロゴやグッズを揃えても、こうした要素が欠けていると、話題にはなっても売れないし、広まらなかったり継続しなかったりして、結局、参画するメリットが見えづらくなるのだ。

【日経グローカル(日本経済新聞社刊)464号 2023年7月17日号 P21 企業支援の新潮流 連載第4回より】

中小企業支援家

59年生まれ。法政大卒後、静岡銀行に入行。M&A担当等を経て、01年静岡市の創業支援施設へ出向。起業家の創出と地域産業活性化に向けた支援活動が高く評価され、Japan Venture Award 2005経済産業大臣表彰を受賞した。07年浜松市に開設された中小企業支援施設への出向中に故郷の富士市から新設する中小企業支援施設のセンター長着任を依頼され、08年銀行を退職し会社を立ち上げ施設の運営を受託し12年に渡り運営した。知恵を使って売上を生む小出流の中小企業支援をわが町にもと取り組む自治体が全国20カ所以上に拡がった他、NHK「BS1スペシャル」や「クローズアップ現代等でその活動が特集された。

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