銀座にオープンした注目の日本料理店がコースで3品も「御飯」を提供する理由
菅野功一氏が独立
銀座には様々なファインダイニングがありますが、また気になる店がオープンしました。それは菅野功一氏が2022年4月11日にオープンした「銀座すがの」です。
菅野氏は、名店「末冨」の立ち上げにも尽力し、「末冨」店主である末冨康雄氏をもってして「料理に対する真っ直ぐな姿勢には感銘を受けたこともあり、独立に協力しました。応援しています」といわしめるほどの料理人。
「素材の味を最大限に引き出す、最小限の味付け」をコンセプトにし、始まりから終わりまでを「一つの料理」と捉えた10品ほどの「お任せコース」(28,000円、サ込)を提供しています。
メニューを詳しく紹介していきましょう。
小鉢
毛蟹 碓井豌豆 生木耳
最初に提供されたのは、全国からの食材で旬の味を楽しんでもらいたいという小鉢。身の厚い北海道のケガニ、シャキっとした熊本県のキクラゲ、滋味に溢れる大阪府羽曳野市碓井のウスイエンドウが、それぞれしっかりと主張しています。
煮物
鮎魚女 漉油 柚子 梅肉
青森県の肉厚なアイナメを用いたお椀。秋田県の山菜コシアブラは、苦味が穏やかで、香り高いです。ホッと落ち着くような味わいであるといえます。
向付
虎魚 花穂 岩茸
オコゼの肝、皮、身が和えられており、様々な食味と食感が体験できます。煮た生のイワタケが添えられ、花穂紫蘇がアクセントに。橙酢でつくった自家製ポン酢、梅干しと日本酒と昆布でつくった梅ダレを好みで使うとよいでしょう。
御凌
穴子 蓮蒸
アナゴを柏の葉で蒸し、ふっくらやわらかく仕上げました。底にはすり下ろした角切りのレンコンを加えた米。アナゴの旨味としなやかさが引き立つ一品です。
酒肴
燻し鰹 黄身醤油 花山椒
千葉県勝浦市のカツオを厚めに切って軽く漬け、豪快な食味に仕上げました。温泉卵と醤油を合わせたタレも実に濃厚です。湯通しして、マイルドにした花山椒も秀抜の香味。
口直
蓴菜 蕃茄 独活
口直しは旬菜を用いた冷菜。広島県のジュンサイは喉越しがよいです。甘味と酸味のバランスがとれた大阪府高槻市の三箇牧トマトは出汁に漬け、ウドは角切りにして変化を。出汁と土佐酢で味付けしています。
箸休
胡麻豆富 雲丹 山葵
練りたての胡麻豆富で、非常に香り高いです。熱い胡麻豆富の上には冷たいウニがのせられ、餡も濃厚。全てを混ぜ合わせて食べると、ゴマとウニの濃厚さが重なり合います。冷温のメリハリも心地よいです。
揚物
稚鮎唐揚 蓼酢
琵琶湖のチアユに軽く葛をまとわせてから、2度揚げしているので、カラッと仕上がっています。蓼のピューレを散らし、蓼酢を添えて。チアユの肝とタデの苦味がよくマッチしています。これにはハーバルな山椒ビールが抜群の相性。
焼物
すっぽん 西京焼
朝まで生きていたスッポンを捌きました。前足と後ろ足を骨付きのまま、塩をしてから西京味噌を軽く漬けて焼いています。スッポンは鶏肉に似たさっぱりとした味わいで、脂もあって旨味はしっかり。
進肴
鳥貝 赤貝 浜防風 鉄砲和え
ハマボウフウは海岸に面した砂地に生息する希少な野草で、セリ科らしい爽やかな香りを有しています。大ぶりのトリガイとアカガイ、ハマボウフウに酢味噌を合わせ、磯の香りが豊かな鉄砲和えに。
御飯
お食事は3種類も提供されるというこだわりよう。
白飯 鰻辛煮 ちりめん 蛍烏賊 香物 赤出し
最初は、やわらかく炊いた新潟県コシヒカリをおいしく食べられるようにと、3種類のご飯のお供を用意。ウナギの辛煮は濃厚な味で山椒がアクセント。チリメンジャコは潮の香りが心地よいです。沖漬けにしたホタルイカは、ご飯との相性も抜群。
鮑おじや
次は生米を用いたアワビのおじやです。米の芯が少し残っていて、アルデンテの食感。香りが鮮烈な九州の生海苔、蒸しアワビの酒蒸し、アワビの肝、短時間蒸した生アワビを順番に加えていき、アワビを存分に楽しめるようにしています。
贅沢なことに、お代わりも可能です。2杯目はウニとワサビが加えられ、3杯目になると九州の生海苔がのせられ、豪華な味変を楽しめます。
丸煮麺
〆はスッポンのスープの煮麺です。徳島県の半田そうめんは丸く、しっかりとした喉越しが印象に残ります。スッポンの繊細な味わいが出色。
甘味
わらび餅 桜桃
国産のわらび粉、種子島の砂糖、兵庫県のきな粉を用いたつくりたてのわらび餅。そのままでもおいしいですが、徳島県の和三盆でつくった蜜をかけると濃密な味わいに。旬のサクランボが添えられています。
しっかりとした日本料理を味わえる
季節の食材がふんだんに使われた料理ばかりでしたが、どのようなこだわりがあるのでしょうか。
菅野氏は真摯に語ります。
「大切にしているのは、ちゃんとした日本料理です。日本の食材と向き合い、あまり手を加えすぎず、日本の調理法で丁寧に仕上げています。トリュフやキャビアなどは、無理に使ったりしません。食べた瞬間においしいのではなく、二、三日後においしかったなと振り返っていただけるような料理を目指しています」
菅野氏は、洋食の高級食材だけではなく、アスパラガスなども使いません。昔から日本各地にある素晴らしい食材を探し出し、焦点を当てています。
「こだわりがないのが、こだわりですね。この食材はこの地域でなければならない、という偏見はありません。日本全国の食材の素晴らしさを伝えるのが、料理人としての使命だと思っています」
他にも特徴を挙げると、野菜と魚介類が中心であること。牛は味わいが強いのであまり用いず、猪、鹿、熊、鴨といった肉だけを使います。菅野氏のコースでは、肉が前面にでることはないので、旬菜の妙々たる味わいが賞玩できるのです。
お酒も充実
「お酒はとても弱いですが、大好きです」と菅野氏が述べるように、お酒も充実しています。
日本酒は全国各地の銘酒が用意されており、お猪口を選べるのも特長です。
特筆するべきは、ワインの充実ぶり。シャンパーニュや白と赤がグラスで提供されています。それに加えてボトルでは、サロン、オーパスワン、エシェゾーから、シャトーラトゥールやシャトーマルゴーといった五大シャトーまでが用意されているのです。
「日本料理はご飯をおいしく食べるためにあるので、最後のお食事は3品も用意しています。それまでは酒の肴なので、色々なお酒をお楽しみください」
日本酒からビール、ワインまでのペアリングを体験するのがオススメです。
オープンした経緯
「銀座すがの」はこだわりが詰まった日本料理店ですが、どのような経緯でオープンしたのでしょうか。
菅野氏は大阪生まれの大阪育ちで、中学卒業後に熱海の旅館で料理人としてのキャリアをスタートさせます。それから関西に戻り、10年働いた後で東京へ。
菅野氏は振り返ります。
「最初は、ただ板前になりたいと思っていただけでした。でも、30歳を過ぎたあたりから、自分の店をもちたいと考えるようになりましたね。昨年6月に熱海時代の親方が亡くなったこともあり、教えていただいた意志や哲学を伝えていきたいと思うようになりました」
独立を目指してからは、トントン拍子に進みます。昨年暮れには、たまたま銀座の店が空くという話を聞き、場所も決まりました。寿司屋の居抜き物件で、カウンターは7.5メートルもの長さ。ダイナミックなパフォーマンスを披露できるということで、菅野氏も気に入りました。
店名はどのように決めたのでしょうか。
「名前はどうしようかと思いましたが、悩んでいても仕方ないので、そのまま直球で『すがの』にしました」
料理人はいらない
「銀座すがの」では、春夏秋冬の季節でコースが変化し、同じ季節の同じ食材であったとしても、その時に最適な調理法を用いています。
「日本は非常に恵まれています。野草をとってご飯に混ぜるだけでおいしいです。誰でもおいしいものがつくれるので、料理人などいりませんよね」
そう述べますが、菅野氏は一流料理人ならではの、日本全国に散在する食材の知見と確たる調理技術、そして、独特の着眼点による構成と巧みな話術で、ゲストに素晴らしい食体験を提供しています。
世界でローカルガストロノミーが叫ばれて久しいですが、日本全国の食材を等しく尊重し、伝えようとする「銀座すがの」は、今最も応援したい日本料理店であることに間違いありません。