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今までにない豚骨ラーメンを作りたい! 豚骨一筋30年のラーメン職人の挑戦とは?

山路力也フードジャーナリスト
博多ラーメンでも長浜ラーメンでもない新しい豚骨ラーメンを目指して。

筑紫野市で人気を集める『FREE-MEN』

天神から西鉄天神大牟田線で30分。紫駅前に2021年オープンした『FREE-MEN』
天神から西鉄天神大牟田線で30分。紫駅前に2021年オープンした『FREE-MEN』

 2021年の暮れ、福岡県筑紫野市にオープンした一軒のラーメン店が人気を集めている。店の名前は『FREE-MEN』(福岡県筑紫野市紫1-28-3)。天神から西鉄天神大牟田線で30分、紫駅の目の前にある店は暖簾や提灯がなければラーメン店とは思えない、オシャレなカフェのような佇まい。

 店内も明るく開放的な空間で、ウッディな雰囲気が心地よい。しかしカウンター越しの厨房に目をやれば大きな寸胴が鎮座しており、さらにガラス越しの隣の部屋には製麺機も見える。こちらはラーメン歴30年のベテラン職人が満を持して開業した豚骨ラーメン店なのだ。

明るく開放的な空間はラーメン店というよりもカフェのよう。
明るく開放的な空間はラーメン店というよりもカフェのよう。

 近年、福岡のラーメンシーンでは「非豚骨」「脱豚骨」の流れが加速化している。ここ数年は一年間にオープンする新店のうち、非豚骨店の数が豚骨店を越えている。今や、福岡は豚骨以外の様々なラーメンが食べられる場所になったのだが、その反面、既存店の支店を除けば豚骨ラーメンの新店が劇的に減っている。

 『FREE-MEN』の店主、河原慎治さんは人気豚骨ラーメン店『博多一風堂』出身。学生時代にアルバイトで一風堂で働き、大学卒業後は一般企業で営業職に従事するも、再び一風堂に戻って関東を中心に数々の支店の店長として活躍。さらに「暖簾分け店主」一期生として、会社から独立して店舗も任された。30年にわたり豚骨一筋、一風堂一筋の人生を歩んできた。

一風堂との出会いが人生を変えた

『FREE-MEN』店主の河原慎治さん。
『FREE-MEN』店主の河原慎治さん。

 「学生時代に『博多一風堂』の大名本店で週6日ほどアルバイトしていたんです。そこで出会ったスタッフの皆さんが仕事に燃える熱い人たちばかりで。僕もこういう場所で働きたいと、大学卒業後は一風堂に就職したかったのですが、親から反対をされてしまい営業職に就くことにしました。しかしどうしても一風堂で働きたい思いが消えず、2年間サラリーマンを勤め上げ、役職がつくタイミングで会社を辞めて一風堂へ戻りました」(『FREE-MEN』店主 河原慎治さん)

 河原さんは大学の体育学部へ進学し、学生時代はバレーボールに明け暮れた。大学卒業後は実業団に進むか体育教師になるかの選択を迫られた。しかし身長が低くバレーボールに限界を感じた河原さんが、新たな人生として選んだのが、アルバイトで出会ったラーメンの世界だった。

30年にわたり豚骨ラーメン一筋の河原さん。
30年にわたり豚骨ラーメン一筋の河原さん。

 一風堂では関東を中心に数々の店舗の立ち上げや店長として活躍。さらに「暖簾分け店主」一期生として、会社から独立して東京や熊本など複数の店舗を業務委託の形で任された。しかしいつしか「一風堂の味」ではなく「自分の味」で勝負したいという思いが強くなっていった。

 「一風堂での『暖簾分け』を経験させて頂いたおかげで、ほんの少しですが『経営者目線』でお店を見ることが出来るようになりました。しかし創業者の河原成美さんは『博多一風堂』をゼロから作り上げた。僕も成美さんのように自分の作った味で勝負する『創業者目線』を持ちたいと思ったんです」(河原さん)

新しい豚骨ラーメンを自分の手で表現したい

『FREE-MEN』のラーメン。老若男女がスープを飲み干す。
『FREE-MEN』のラーメン。老若男女がスープを飲み干す。

 長年作り続けてきた『博多一風堂』のラーメンから、自分自身がゼロから作るオリジナルのラーメンへ。もちろんやるならば豚骨ラーメンと決めていた。豚骨ラーメン以外のラーメンが増え続けている福岡の地で、敢えて豚骨ラーメンで勝負する。それが豚骨一筋、30年走り続けてきた河原さんのプライドだ。

 「最近では非豚骨ラーメンが増えていますが、僕がやるのなら豚骨ラーメンしかありません。福岡は豚骨ラーメンが愛されている場所で、多くの美味しい豚骨ラーメン店がありますが、先輩たちが作っていない『新しい豚骨ラーメン』を作りたい。麺もスープも全て自で作って表現したいと思ったんです」(河原さん)

店内の製麺室で毎日作られる極細のストレート麺はサクサクとした食感が心地よい。
店内の製麺室で毎日作られる極細のストレート麺はサクサクとした食感が心地よい。

 豚の頭骨とゲンコツをじっくり丁寧に炊き出したスープは、臭みが全くなく骨感にあふれる味わい。塩気や油分に頼らず、豚骨本来の旨味を追求する。そこには京都出身の母親から教わった「出汁文化」の影響もある。若者たちに素材の旨味を感じられる味覚を持って欲しいという願いもある。

 小麦の香り豊かな麺ももちろん自家製。店内の製麺室で毎日作られる極細ストレート麺は、スープとの絡みも良く、サクサクとした食感が軽やかで心地よい。チャーシューも豚の肩ロースを低温でじっくりとローストして仕上げる。河原さんが30年の豚骨人生を経て生み出した、唯一無二の豚骨ラーメンが出来上がった。

 「筑紫野は僕の地元でもあるんですが、街中から離れた場所でもラーメンの味で呼べるようにしたかったのでこの場所に決めました。自分が今作りたいラーメンを、多くの人に食べて欲しいと思っています。先日も90歳のお客様がスープを飲み干して下さったのが嬉しくて。僕もいつまでも現場に立ってラーメンを作り続けていたいと思っています」(河原さん)

FREE-MEN
福岡県筑紫野市紫1-28-3
11:00〜22:30/11:00〜23:30(金土祝前日)※スープ切れで終了
不定休

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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