列車内で相次ぐ凶悪事件 最大限とられている鉄道の安全対策
先日、京王線での刺傷事件を受けて、「列車内でこういうことにあったら乗客はどうすればいいのか?」と聞かれた。非常用ドアコックを開けてもいいのか、どうすれば脱出できるのか、といったことが気になるのだろう。筆者は「車内にある通報装置のボタンを押して車掌と対話し、それに従う」ということしか言えなかった。
今回の京王線刺傷事件では、停車した際に列車のドアとホームドアの位置がずれてしまい、それでドアを開けることができなくて避難が遅れた。
かんたんな対策は決まったが……
この事件を受けて国土交通省は2日、事件などが起こり列車が本来の位置からずれて停車した場合は、車両のドアとホームドアを開けて乗客を救出するように鉄道各事業者に指示した。
しかし、ホームドアと列車のドアが重ならない部分にばかり停車していたら、このようにしてもうまくはいかない。
今回のケースでは、国領駅で列車が停車したものの、停止位置とホームドアの位置がずれたためにドアは開けず、車内の窓から脱出した人もいる。
もっとも、このような場合のマニュアルというのは完備されているとはいいがたく、乗務員の想定を超える事態だったため、その際にどうしたらいいのかということはわからない状態であり、京王電鉄を責めるのも難しいとはいえる。
そもそも、ドアが簡単に開くというのもよくないことである。走行中にドアが開いたら乗客が振り落とされる危険があり、線路上に停車していても対向列車などを停車させずドアを開いて乗客が勝手に降りてしまったら人をはねてしまうことになる。むろん、現在では何かあった場合は安全確認をして列車から人を降ろし、対向列車などはすべて停車させるようにしている。
列車の三重衝突が起きた1962年の三河島事故では、衝突した列車の乗客が非常用ドアコックを操作して列車から降りたために上り列車にはねられ、死者160名という犠牲が出た。このドアコックは、1951年の列車火災である桜木町事故をきっかけに導入されたものの、それがあだとなった。
今回の京王線刺傷事件の場合、停車したのが国領駅ホームだったからまだよかったものの、このあたりは地下化されており、もし駅と駅の間だったらということを想像すると対策の難しさはさらに増す。何かあった場合に列車を止めて乗客を避難させるということはときどきあるものの、多くは車両や鉄道設備のトラブルであり、こういった事件への対処ということはめったにない。
小田急線刺傷事件との共通点と相違点
容疑者の供述によると、今回の事件は小田急線の刺傷事件を参考にしたという。小田急線のケースは、停車してから容疑者がドアコックを操作し逃走した。ここは高架区間であり、今回の地下区間とは状況が異なっている。小田急線と京王線の事件では長時間にわたって停車しない列車を選んだことは共通しているものの、乗客の避難は京王線の事件のほうが格段に難しい。乗客の避難誘導に関しては、小田急線の事件は容疑者が逃げてしまったからその後ゆっくり対処できた。しかし、京王線の事件は容疑者が車内にとどまったため、早急な対処が求められていた。両事件の後も模倣犯は続き、11月8日には九州新幹線で放火未遂事件が発生した。
以前も、東海道新幹線車内での焼身自殺事件や、殺傷事件も起こっている。そのたびに、警備の強化と、防犯カメラなどの充実が叫ばれてきた。
充実する鉄道の防犯体制、しかし……
電車内の防犯カメラは小型化し、見た目にはわからなくなっている。首都圏では、JR東日本や東急電鉄では全車両に設置され、その他の私鉄でも設置は増え続けている。小田急線の事件や今回の京王での事件をきっかけに、鉄道やバス事業者によっては対応する訓練を行うようになり、自社の防犯体制を改める動きも出ている。
しかし、この種の犯罪のもとは鉄道には断てないものであり、現状でも最大限やりきっているといえる。凶悪犯は2003年をピークに大幅に減少している。ただ、事件は大きく報じられる傾向があり、それが恐怖につながっているところはある。
小田急線刺傷事件では、「フェミサイド」「ヘイトクライム」などと、犯罪の性質が指摘された。京王線刺傷事件も同様のものとなっている。現在の社会状況を多くの人が考える中、このような事件を引き起こさない社会をどう作っていくかを共有することを、時間をかけてでも行う必要があるのではないだろうか。