思い通りの選挙が出来ない安倍政権の暗雲
フーテン老人世直し録(395)
神無月朔日
激戦と言われた沖縄県知事選挙は、蓋を開けてみれば8万票という大差で故翁長雄志知事の遺志を継いだ玉城デニー氏が勝利した。辺野古新基地建設を強行しようとする安倍政権は致命的な打撃を受けた。自民党総裁選でも見られたが、上から押さえつけようとする「覇道」の政治がここでも敗れたことになる。
敗戦を聞いて安倍総理は「残念だけどしょうがない」と語ったそうだが、「しょうがない」で済む話ではない。来年の統一地方選挙と参議院選挙を前にこの選挙は何としてでも勝たなければならなかった。敗戦は安倍総理の今後に極めて重くのしかかってくる。
安倍総理にとって自民党総裁三選を果たすことは党則を変えた時点で難しい話ではなかった。現職総理が総裁選に出馬すれば勝つのは当たり前だからである。普通は現職総理が続投を望めば対立候補は出馬せず無投票で再選される。
挑戦者が現れて現職総理に挑んだ例は最近二例しかない。1999年に加藤紘一氏と山崎拓氏が小渕恵三総理に挑戦した例と、2003年に小泉純一郎総理に対し亀井静香氏ら4人が挑戦した例である。いずれも現職総理が勝利した。
勝ち方を見ても小渕総理は議員からも党員からも68%の票を得た。小泉総理は議員票で54%だが党員票では68%の支持を得た。現職の総理は党員の7割近い支持を得るのが普通なのだ。
ところが安倍総理は議員票で81%だが党員票で55%しか取れなかった。小渕、小泉の両総理に比べ党員に人気のないことが分かる。
その理由をフーテンは上から力で押さえる「覇道」の政治を見せたからだとブログに書いた。昔の総裁選では「ニッカ、サントリー」などの隠語が飛び交い、金で票を買う「買収」が行われたが、今回注目されたのは石破系議員が閣僚から地方議員に至るまで「圧力」を掛けられた。つまり「脅迫」された。
選挙で石破氏は「国民のみを畏れる」とか「国民に真実を語る」など国民を優先する「王道」の政治を意図的に主張し、安倍政治の「覇道」を国民に印象づけようとした。それが党員票で45%を得る結果を生んだ。安倍総理は「覇道」によって「一強」でなくなった事実を満天下に晒した。
なぜ安倍総理がそれほどに「圧勝」を必要としたか。今後の政権運営の難しさを知っているからだ。これまでアベノミクスというニンジン、北方領土返還というニンジン、拉致問題を解決するというニンジンを国民の前にぶら下げ、メディアを使って期待感を持続させたが、その化けの皮がはがれつつあることに気づいているのである。
自民党総裁選の直後に行われた沖縄県知事選も、三期目政権のスタートとなる選挙なのでどうしても勝つ必要があった。翁長知事の急死から始まった選挙だけに「弔い合戦」となれば自公候補に不利になる。そのためなりふり構わぬ選挙戦術が採用された。
反基地感情の強い大人より基地に抵抗感のない若者を取り込むことに主眼が置かれ、ネットを使って様々な嘘情報が流された。米国の選挙コンサルタントがよく使うネガティブキャンペーンの手法である。それが反基地候補に不利になるよう仕掛けられたという。
また来年の消費増税への反発を軽減するために編み出された「携帯料金値下げキャンペーン」をこの選挙で先行させた。今回の沖縄の選挙と携帯料金の値下げがどう関係するのか全く分からぬが、来年の選挙用の目玉商品を沖縄で試したのである。
菅官房長官や小泉進次郎議員が応援に入り「携帯料金値下げ」を訴えたというが、これほど沖縄県民を馬鹿にした話はない。沖縄の若者たちは無知だから「携帯料金を下げる」と言えば飛びつくと考えたのだろうか。劣等民族に対する上から目線の飴玉配りのようだ。
沖縄県民を劣等民族と考えているのは米国である。沖縄総領事を務めたケビン・メア氏は2010年に米国の大学生に「沖縄人はゆすりの名人」と講義して問題となった。米国政府は慌てて解任したが、しかし彼は正直に本音を語ったに過ぎない。米国の本音は沖縄県民を無知で怠惰だと思っている。安倍政権は「米国かぶれ」だからそれに近いのだろう。
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