「新しい生活様式」でお年寄りもSuicaとYahoo!ショッピングを使う 高齢者の消費行動に懸念も
「新しい生活様式」でついに高齢者にもECサイトの利用が進む
新型コロナウイルスの影響が弱まってきたことを受け、緊急事態宣言が5月25日に全国すべての地域で解除されました。新規感染者数はなかなか低位で推移してくれないものの、徐々に「新しい日常(NewNormal)」が回復しつつあります。
しかし、今までと同じ生活というわけではなく、新しい日常では「密」を避けるライフスタイルが要請されています。
厚生労働省のホームページには「新しい生活様式」についてのページが用意されていますが、そこには日常の買い物について、密集を避けてほしいことが触れられています。
おもしろいのはECサイトの活用がその例示にあがっていることです。経済産業省ではなく厚生労働省のサイトで、Amazonや楽天市場、Yahoo!ショッピング(もちろん個別の企業サイトも含む)の活用を促してくるところに、今回の新型コロナウイルスのインパクトがうかがえます。
実際、ECサイトの利用は拡大しています。6月9日掲載の東洋経済オンライン記事では5月のヤマト運輸の取り扱い宅配の数が前年同月比で19.5%の増加だったと報じています。
6/9 ヤマトHD、「宅配便急増」でも喜べない深刻事情(東洋経済オンライン提供)
多くの企業のECサイトも利用者の拡大が進んでいるようです。家計簿アプリZaimの利用者分析では、緊急事態宣言前後でECサイトの利用が15%ほど増えているとしています。先ほどのデータとも符号します。
4/24 緊急事態宣言前後における9都道府県の購買行動の変化を分析 (Zaimプレスリリース)
さらにおもしろいのが、高齢者のECサイトの利用拡大も進んでいることで、三井住友カードの分析では、高齢者のカード決済とECサイト利用の伸びが見られるとしています。
5/11 新型コロナの影響で高年齢層のECサイト利用が加速、巣ごもり消費に変化も (BCN+R)
ECサイトの利用拡大とあわせて、興味があるのがキャッシュレス決済への高齢者の対応です。今まで、どうしてもキャッシュレスに乗り切れなかった高齢者が「5%還元」の消費者還元事業でキャッシュレスに興味を持ち、また今回の新型コロナウイルスの影響で「現金の手渡しを避けよう」という意識が出てきているように思います。(実際のところ、感染抑止にどれだけ効果があるかは不明ですが、心理的には大きい)
しかし、そこには新たな課題もあるように思います。
初期設定について:アカウント作成までは子どものサポートも
電子マネーもECサイトも、実は最大のハードルは「初期設定」です。理屈上は便利で有利だと知っていても、その設定が困難であったりする不安やリテラシー不足から利用できていないことが多いものです。これは若い人でも同じですが、高齢者ほど新規アカウント作成には保守的な傾向があると思います。
キャリアの契約者であるからと、docomoショップなどに出かけて代わりにECサイトの設定をしてもらうことも不可能ではありませんが、あなたが子どもとしてこの記事を読んでいるのなら、ぜひ老親の設定をサポートしてあげたいところです。
ECサイトであれば、
・Apple IDやGoogleのアカウント作成(アプリを設定するために必要。というか普通はスマホの設定時にどちらかは設定済みのはず)
・ECサイトのアカウント作成(できれば二段階認証も)
が必要になり、そこでクレジットカードの連携も行うことになります。これらはID、パスワードについて子どもも控えを持っておくと安心です。
電子マネーについては
・カードタイプ……店頭で即時発行
・クレジットカード一体型電子マネー……クレカ発行カウンターで発行
・スマホに設定……自分でアプリを初期設定(必要ならクレカを連携)
ということになります。難しい場合は子どもも一緒に手伝ってあげるといいでしょう。
ECサイトの課題:注文はタブレットでアプリ利用が高齢者にはわかりやすい
ECサイト、電子マネー、それぞれの注意点をまとめてみます。
まず、ECサイトについては、総合的なECサイト(モール)と、個別企業のECサイトに分けて整理できると思います。例えばAmazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングは自らが商品提供しつついろんなお店が共同出店しています。これに対して、ユニクロやヨドバシカメラ、ニトリのように個別企業が独自のサイトで注文を受け付けるものもあります。
高齢者の利用に際しては、「会員登録」の問題があります。ゲストで購入できたとしても、そのつどクレジットカード番号を入力させるのも不安がありますから、できるだけ利用を集中させたほうが安心です。また、いくつものサイトを使い分けするのもハードルが高いと思います。
そうすると、Amazon、楽天、Yahoo!ショッピングあたりを1ないし2選ぶことになるかと思います。この3つのECサイトは、完全にアプリ対応しているので、アプリ内で注文を完結させることができるのも使い勝手としていいでしょう。
どのECサイトを勧めるかは、子ども自身が使い慣れているもののほうがいいでしょう。困ったときの相談にも乗りやすいからです。
ハードウェアとしてはタブレットの利用をお勧めします。タブレットは高齢者がネットを利用するのに便利なツールです。大画面であることは視力が弱くなっても助かりますし、タッチ操作もしやすいからです。多くの買い物は自宅で行いますから、持ち運びの問題は心配ありません。
実は、パソコンが実は高齢者のIT化のハードルだったのです(動作がいきなり不審になったりとか、起動に待たされたりとか)。誕生日プレゼントなどでiPadをプレゼントしちゃうのもいいアイデアだと思います。
初期設定については子供が手伝い、パスワードなどのメモは親と共有しておくといいでしょう。また、何度か「商品を検索する」→「カートに入れる」→「注文する」の手順を一緒にやってみることもお勧めします。
また、「本体価格は安いが郵送料がやたら高い、だまし出品がある」とか「一時的な売り切れ時に高値で出品する輩がいる」とか、ネットでの買い物の基本ルールは教えておくといいかもしれません。
電子マネーの課題:Suica一体型クレカがシンプルに運用できるか
電子マネーについてはどうでしょうか。
高齢者にとっては、「スマホを使うかどうか」の問題が大きな分岐点になります。スマホに電子マネーをセットすることは「完全キャッシュレス決済」が可能ですし、「QRコード決済を選択肢に含める」こともできます。財布をなくす心配も減ります。
しかし、「物理的なICカードを使う」というほうが親しみやすさでもわかりやすさでも高齢者にとってはいいかもしれません。特に「交通系ICカードをそのまま、コンビニやお店で使えばいいのよ」と説明すればキャッシュレス化も簡単に拡大できます。
生活シーンにイオンがある場合、あるいはイトーヨーカドーがある場合は、それぞれWAON、nanacoを選ぶこともできます。とくにGGWAON(55歳以上)、ゆうゆうWAON(65歳以上)、シニアnanaco(60歳以上)は高齢者のみ持つことができ、割引やポイント還元が拡大するカードなので、店舗を利用するなら必須です。
交通系ICカード、WAON、nanacoはクレジットカードとの提携もあるのが特徴です。たとえばViewカードとSuicaを一体型で保有しておくと
電子マネーとして利用 : コンビニ、スーパー、電車やバス利用時
クレジットカードとして利用 : ネットのECサイト決済、電子マネーへのチャージ、電子マネーが使えない場合のキャッシュレス決済手段
として利用できるため、1枚さえ持っていれば利用シーンのほとんどが対応できます。
高齢者のクレジットカードが何枚もあって、子供が知らない状態というのはちょっとしたリスクなので、これを機にカードを整理、集約してしまうのもいいと思います。
もし、あなたの両親が自分で設定ができ、ITに興味があるのであれば、QRコード決済をチャレンジさせたり、モバイルSuica等でスマホで決済させてもいいでしょう。
ただし、スマホ自体のパスコードロック(指紋認証でもいい)の設定を忘れず行っておきましょう。また、紛失時には子のスマホからGPS検索できるように、GoogleアカウントやApple IDを共有しておくといいでしょう。紛失したらすぐ連絡をしてもらい、アプリから検索するのです。
高齢者の利用の注意点:認知症の心配、詐欺メールなど
高齢者がECサイトの利便性を活用することは重い荷物から解放されることになります。電子マネーを使えば小銭のわずらわしさから解放されます。どちらもとてもいいことです。しかし注意点もあります。
心配なのは、詐欺のメールが届いたときです。今までは楽天やAmazonのアカウントをロックしましたというようなメールが来ても、「楽天? ワシはやってないぞ」と放置していたかもしれません。しかし、アカウントを作った高齢者にそうしたメールが届くようになれば「口座が凍結? 大変だ!」とクリックしてしまう可能性があります。
このあたりは子どもとしてアドバイスをしてあげたいところです。「楽天からのお知らせ」とか「Amazonのアカウントをロックしました」的な詐欺メールについて、「メールは基本、無視していいから」くらいにアドバイスをして、「心配なら公式のアプリを立ち上げて確認すればいい」と補足してあげてください。とにかくクリック詐欺にはだまされないことが大切です。
また、認知症の心配もあります。知らないうちに余計な注文をするかもしれません。私の知人は、冬に実家に帰省したら山ほど日本酒が注文されていて仰天したそうです。本人は自覚していない可能性があるのが認知症の難しいところで、注文メールがCCで子どものところにも届くようにしておくといいかもしれません。
ECサイトや電子マネーの活用が、高齢者の生活を豊かにすることは間違いない
ECサイトは利用すればとても便利なものです。高齢者がペットボトルの重い荷物をフウフウ言いながら家に持ち帰っている姿をときどき見かけますが、それはECサイトで配達してもらえばいいことです。
おぼつかない手で小銭を出し、受け取った小銭をしまうというのは負担です。杖をつくようになると、財布を出すのもけっこう大変な作業になってきます。これもキャッシュレス決済の導入により負担軽減されます。
高齢者の生活を豊かにするために、ECサイトや電子マネー(キャッシュレス決済)が役立つことは間違いありません。
あなたの両親がもし、興味を示してくれるようなら、一気に導入をしてみてはいかがでしょうか。セキュリティには注意を払いつつ、便利を活用してみたいところです。