【当該記事は削除】「積立暗号資産」は初心者向けとFP協会が解説してしまう……いやそれ違うんじゃない?
※Twitterの当該記事は本記事掲載後、24日に削除されています。文末にその旨追記しタイトルを修正しました(6/24 11時30分)
「積立暗号資産」という売り方(買い方、ではなく)があるらしい
ビットコインを代表とする暗号資産は投機的な資産形成手段として普及しています。各国の政府が発行主体となっている円やドルのような通貨と異なるのは、「暗号」そのものが資産価値の裏付けとなっているところです。
暗号資産のトレードはFX(外国為替証拠金取引)に近く、ビットコインのレート(例えばドルとビットコイン)を見つつ売り買いを行います。短期的な売買を行うのが主流です。
いくつかの暗号資産を取り扱う業者がありますが、彼らは「売り方」として短期売買だけではなく、長期保有という「売り方」も考えているようです。
例えば、下記のような形で「初心者向け」をうたう「積立暗号資産」のページが設定され、多くは口座開設ページへの誘導をしています。例えば以下のような感じです。
GMOコイン つみたて暗号資産
コインチェック Coincheckつみたてとは
SBI VCトレード 暗号資産積立サービス
ビットフライヤー かんたん積立
「売り方」として、業者サイドが積立購入を提案する気持ちは分かります。しかし、個人の立場で、「積立」で「暗号資産」を購入することは、本当に初心者向けで、資産形成につながりうるのでしょうか。「買い方」としては適当なのでしょうか。
日本FP協会、「積立暗号資産」は初心者向けと案内してしまう
日本FP協会といえば、ファイナンシャルプランナーの業界団体ですが(私も加入しています)、金融教育やライフプラン教育の啓発活動にも熱心に取り組んでいることでも知られています。
WEBやスマホアプリで情報発信をしたりと積極的な社会的取り組みはひとりのFPとして敬意を払っているところです。私の年会費は有効活用されているといつも思っています。
ところが、「積立暗号資産」について、一般向けにミスリードを招きかねない記事を掲載していることが明らかになりました。
もしかしたら削除されてしまうかもしれないので、今のうちにここに紹介しておくと以下のとおりです。
6/22 Twitter 日本FP協会広報部 投稿された記事はこちら
日本FP協会ホームページ わたしたちのくらしとお金くらしとお金のメールニュースVol.314 2022年5月27日発行
「近頃ニュースでよく耳にするくらしとお金に関する言葉」として積立暗号資産を取り上げることは何の問題もありません。実際に業者は販売し、初心者の口座開設を促している状況にあるからです。
問題は紹介記事が「多くのメリットがあり」「暗号資産初心者にも始めやすい投資方法」と述べていることです。
- 少額から投資できる
- 購入タイミングを考える必要がない
- 短期的な値動きに一喜一憂しない
というのは確かに積立投資のメリットの説明ではありますが、これを「暗号資産初心者」と結びつけていいのか疑問が残ります。そこで、今回解説をしてみたいと思います。
これが特定のFPの署名原稿であれば、その人の個人的見解ですから、どうこういうものではありません。暗号資産を勧めるFPや業者の方が執筆することもあるでしょう。
しかし、署名がない限り、この記事はFP協会の基本的なスタンスと取られかねないので、そこも気になるところです(なお、Twitterのほうでは同じ記事を「【くらしとお金のキーワード】今回は「積み立て暗号資産」について、FPに解説してもらいました!」としており、どなたかFPの個人が執筆したことを示唆していますが、やはり個人名はありません)。
「積立投資」は長期的な「成長」に対して行うのに好適な手法
まず、積立投資が勧められる理由を確認してみます。それは、少額から、あるいはゼロ円から投資をスタートできることです。投資経験が浅い人が高額の投資をして失敗すると大きなダメージとなりますが、これを避けるもっとも効果的な手法は、少額あるいはゼロ円スタートです。
また、長期的に継続して購入することは、短期的な相場に左右されず、また投資判断をためらわさせたり、誤ってしまうよりは「ベター」な方法です。理屈上は「最安値で買う」がベストですが、そのタイミングが見分けられれば苦労はしません。プロですら数カ月後の相場予想を完全に当てられないわけですから、初心者はなおさらです。
よく「時間分散」の効能として価格が平準化するといいますが、価格が上がったり下がったりする中で定期的に購入を続ければ「平均購入価格」が中ほどに落ち着くのは当たり前のことです(平均だから)。
平準化をもって時間分散でリスクが下がると積立の効能を強調する人がいますが、リスク(価格変動のブレ幅)が小さくなるだけで、話を終えてはいけません。中長期的に資産が成長して最後が右肩上がりになってこそ時間分散の意義は成り立ちます。
積立投資という「スタイル」が間違っているわけではありません。これを最終的なプラスにするためには、積立投資で「何を買うか(何に投資するか)」が重要です。
そこで気になるのは、長期投資対象としての暗号資産は、それ自体が成長するわけではないことです。1ビットコインが成長し2ビットコインに増えることはありません。
過去半年のビットコイン積立例を示している業者のホームページがあるのですが、500円×6月=3000円の元本が評価額1952円だと正直に示しています。これは直近のビットコインのレートが大きく下落しているからです。
通貨として暗号資産をみた場合、価格は単純に「レート(換算比率)」です。ドルとビットコインの交換値が何万ドルなのかを世界中の投機家が判断しあってぶつけあった数字にすぎません。常にビットコイン(買い)のほうが一方的に値上がりし続ける保証はないわけです。
企業や国・地方自治体等の実態活動をベースとした株式・債券はこれと本質的に異なります。企業の社会活動などの実態があり、金銭的価値があり、それらの評価です。そこには長期的な成長性が存在します。
世界中にあるたくさんの企業は、赤字を垂れ流し売り上げが下がることを目指しているわけではありません。失敗をする時期もあれど、成長を目指しています。また時代に乗り遅れて脱落した企業は抜け落ち(上場廃止)、イノベーションをもたらす企業が新規参加します(新規上場)。
トヨタ自動車ならプリウス、任天堂ならSwitch、AppleならiPhoneやiPadのように、現実の世の中を便利で豊かなものにするビジネスが企業を成長させていくので、長い目で見ればプラスになるわけです。
そして、「分散投資」が加わればなおリスクは抑えつつ、長期的にはプラスを期待できます。具体的には投資信託という金融商品の活用です。例えば「世界中の株式について投資をする」というような投資信託が少額から積立できます。
近年「長期積立分散投資」というキーワードが注目されており、初心者向けにお勧めされています(私も基本的にこれを推します)。
長期積立分散投資では、国内外の株式に分散投資をする投資信託、あるいは債券やREIT(不動産投資)などに分散投資する投資信託を用いることを念頭に説明されていることが多いのは、これが「積立投資」で「何に投資するか」の答えだからです。暗号資産や外国為替ではないのです。
初心者が積立投資でやるべきことは、じゃあ何か
さて、今回述べてきたポイントは3つです。
- 「売り手」は投資初心者が暗号資産を購入する入り口として「積立暗号資産」を推しているかもしれない
- ・日本FP協会は、積立投資という「スタイル」だけに着目して投資初心者向けと説明してしまっていることが問題である
- ・長期積立投資で成功するための重要な条件である「成長性」は暗号資産にはない
ということです。最後は「じゃあ、何を買えというのよ」をまとめてみます。
- 暗号資産や為替「以外」に投資をする。具体的には株式投資を中心に据える。
- 金融商品としては個別株ではなく「投資信託」を活用する。例えば世界中の株式に投資をする投資信託などが考えられる。
- 少額からの積立投資の「スタイル」自体はOK。毎月数千円から数万円の積立投資を行う。レバレッジなしの購入をすること。
- 短期的な値下がりが生じることはあるが、5~10年あるいはそれ以上の「長期スパン」で積立投資を中断せず続ける。基本的には自動引き落としで続ける。
- つみたてNISA口座を使えば運用収益は売却時に非課税になる。iDeCoを使えば運用収益非課税に加え毎月の掛金も非課税で効率的。できればこの2種類の口座を使って積立投資するとよい。
少なくとも「積立暗号資産」よりはベターな投資方法となるはずです。
試しに、ヤフーファイナンスの機能で「日本を含む世界の株式」「インデックスファンド」を選ぶとこんな感じです。ご参考まで。
追記2
6月24日、Twitterの当該記事は削除され、下記文章が掲載されています。
追記1
日本FP協会の記事については、執筆者の名前を明らかにして、署名記事にしておけばよかったのではないかと思います(だとすれば個人の意見となりますから)。
しかし、日本FP協会であっても、こうした新商品の説明に苦労するというのは、投資教育や啓発が難しい世界である、ということを改めて考えさせられるケーススタディといえるかもしれません。