トランプ前大統領も泊まったホテルのレストランが一つ星に! 星も納得できる3つの特長
様々な食の評価
レストランの評価には様々なものがあります。2005年に開始した食べログは口コミの点数が集客に大きな影響力を与え、2002年からの「世界のベストレストラン50」や2013年からの「アジアのベストレストラン50」はガストロノミーのトレンドを反映しているのでフーディーズに注目されています。
こういった比較的新しいレストランの評価に対して、歴史が古いものといえば、1900年に創刊されたミシュランガイド。日本では2007年に上陸してからお馴染みとなり、様々な場面でミシュランガイドの星付きレストランといった形容が見かけられます。
ミシュランガイドの新たな星付きレストラン
ミシュランガイドに星付きレストランとして掲載されるかどうか、星が増えるか減るかによって、レストラン関係者は毎年晩秋に一喜一憂するもの。
美食の王道であるフランス料理に限ってみれば「ミシュランガイド東京 2021」に新しく星付きとして掲載されたレストランは4店しかありません。
その4店の中で、以前オープン直後に紹介したパレスホテル東京のフランス料理「エステール(ESTERRE)」も見事一つ星レストランとして掲載されました。パレスホテル東京は、あのアメリカのドナルド・トランプ前大統領も泊まったというラグジュアリーホテルです。
ミシュランガイドは毎年12月初めに刊行されるので、2019年11月1日に開業した「エステール」は「ミシュランガイド東京 2020」には間に合いませんでした。しかし、その次の「ミシュランガイド東京 2021」で順当に掲載されたことになります。
星付きレストランとなった「エステール」について、改めて紹介しましょう。
「デュカス・パリ」とタッグを組む
ミシュランガイドで、1990年当時史上最年少で3つ星を獲得し、異なる3つの国で3つ星を獲得した世界初の料理人といえば、アラン・デュカス氏。そのデュカス氏によって設立された「デュカス・パリ」がパレスホテル東京と組み、満を持してオープンしたのが「エステール」です。
「大地と海の出会いの物語を紡ぐ場所」をコンセプトにし、日本のテロワールを存分に生かしながら、フランス料理の技術で旬の素材の素晴らしさを最大限に引き出すことを志向しています。フランス料理に忠実でありながらも、日本の大地と海の恵みを表現しているのが特徴です。
シェフは1992年生まれのマルタン・ピタルク・パロマー(Martin PITARQUE PALOMAR)氏、ペストリーシェフは1991年生まれのトマ・ムーラン(Thomas MOULIN)氏。ふたりとも若いですが、星付きレストランでの修行経験が豊富でデュカス氏からの信任も厚いので、白羽の矢が立てられることになりました。
「エステール」で人気のコースは、スターター、メイン2品、デザート、食後の飲み物によって構成されたディナーコース(25,410円、税サ込)。マルタン氏とトマ氏が紡ぎ出すクリエーションを存分に堪能できます。
では、人気のメニューを見ていきましょう。
デトックスジュース
最初に提供されるウェルカムドリンクは、グリーンピース、花粉(ポレン)、沖縄県の蜂蜜、ミント、エビアン(ミネラルウォーター)でつくられた爽やかなジュースです。胃に優しい味わいで、着席して一息ついてから飲むにはぴったり。
フィンガーフード
南フランス出身のマルタン氏らしく、名物のシャルキュトリーをイメージしてつくりました。「エステール」は魚に力を入れているので、肉ではなく全て魚でつくられているのがポイント。
マグロの熟成、イカとサバとイワシのチョリソー、アンコウの頭とニンニクとエシャロットのテリーヌ、ピクルスと、シャンパーニュによく合うものばかり。ピックにスズキの骨を用いるなど、ディテールにもこだわっています。別皿で提供されたマダイの皮のチップは、小気味いい食感です。
パン
ペストリーショップ「スイーツ&デリ」でも販売されている人気のパンは目の前で切り分けてもらえます。2種類用意されており、米粉と蕎麦粉のパンに、ライ麦と黒胡麻のパン。前者はヒマワリの種がよいアクセントで、後者は胡麻の味わいと香りが印象的です。
添えられるのは、北海道興部町にあるチーズ工房で作られた有塩発酵バターと、七味入れで供された新潟県の藻塩。
アミューズ ブーシュ
アミューズ ブーシュは2品構成。
最初は旬のタケノコを主役に据えた一品。ホイールの炭火焼きにしてからグリルしたタケノコは香り高いです。緑のソースは庄内アサツキと菜の花で、周りにはプレーンのザクロとピクルスにしたザクロ。ヒマワリの種と菊の花も散らされています。彩りも美しく、春の野花の奥深い苦味が感じられるでしょう。
もう一品は京都の豆乳でつくられた豆腐。フランス人のマルタン氏が紡ぎ出した自家製豆腐です。生姜のコンフィとハーブが清々しいアクセント。全体をならしてから混ぜて食べると、様々な食味と食感が合わさって、よりおいしく食べられます。
北海道産ズワイ蟹 ビーツとホースラディッシュ
ズワイガニをふんだんに用いた贅沢な冷前菜。ズワイガニのほぐし身をビーツで巻き、下にはレフォール(ホースラディッシュ)でほのかな辛味を。見た目は非常に鮮やかで、ズワイガニの潮の香りがギュッと凝縮されています。
その奥にもう一品。ズワイガニの身と味噌、レモンコンフィをシェフ特製バンズでサンドしたスライダーバーガーが用意されています。
プレートではズワイガニのフレッシュさを、バーガーではズワイガニの濃厚さを感じられる創造的な前菜です。
秋田産平鱸 ホワイトアスパラガスと日向夏
魚料理は網焼きにしたヒラスズキ。旬のホワイトアスパラガスと日向夏が合わせられ、食味の素晴らしいヒラスズキに味わいの変化がもたらされています。
日向夏の白い皮もしのばされており、起伏のある味わいに。ソースはアスパラガスのジュースに日向夏と魚の風味が加えられており、軽やかな旬味も感じられます。
石黒氏が育てたパンタード 蕪とエシャロットのフェルメンテーション クレソンのコンディメント
メインの肉料理は、岩手県花巻市で地熱によって育てられたホロホロ鳥。肉には自家製クレソンのバターが挟まれていて、爽やかな香りをまとっています。ホロホロ鳥の肉汁を使ったソースは肉の風味を引き立て、旨味もたっぷり。皮付き肉が入れられたサラダまで添えられており、ホロホロ鳥の部位を余すところなく楽しめます。
ル・ショコラ・アラン・デュカスのチョコレートを使用したデザート やげん堀の七味
やげん堀の七味が隠し味となった「エステール」を代表するデザート。カカオ分75%の香り高いチョコレートがブラウニーやクリームのソースに用いられており、チョコレートを存分に堪能できます。
「エステール」のこだわり
どのメニューも唯一無二といえるほど個性的ですが、マルタン氏はどのようなこだわりをもっているのでしょうか。
マルタン氏は次のように答えます。
「旬の日本食材を存分に味わっていただけることを意識している。重くなりすぎず、食材が本来もつ味わいを引き出すことに心掛け、身体にもやさしいコースメニューをご用意している」
オープンして1年半経過していますが、当初からの「大地と海の出会いの物語を紡ぐ場所」というコンセプトは変わりません。これを土台にしながら、さらにチームワークを強化したり、マルタン氏が日本食材の知見を深めたりし、理想の料理へと近づけているということです。
コロナ禍の中にあって、変化もあったといいます。
「改めて安心安全な料理に立ち戻り、考えを深めるきっかけとなった。コロナ禍の今は、『エステール』が目指している健康に配慮した身体にやさしいフランス料理が、より意味をもつのではないか」
「ミシュランガイド東京 2021」で一つ星レストランとして掲載されたことに関しては、どのように捉えているのでしょうか。
「チームやレストラン、ホテルにとって励みになりましたし、大変嬉しいできごとでした。当日は早く発表してほしいと緊張し、みんなで喜びを分かち合いました」
星に関しては、もちろん目指していましたが、星をとるための料理ということではなく、あくまでレストランとして大切にしているコンセプトやこだわりが認められた結果ではないかと謙虚に振り返ります。
「エステール」が素晴らしいレストランであるのは十分に伝わったことでしょう。しかし実は、まだ他にも特筆しておきたい点があります。
徹底したサステナブル志向
第一に挙げたいのは徹底したサステナブル志向であること。
最初に提供される「デトックスジュース」には、食材で使われなかった部分を上手に合わせてウェルカムドリンクに仕上げています。ジュースであれば様々な部分を用いることができるのでよいアイデアです。
他にも「秋田産平鱸 ホワイトアスパラガスと日向夏」では日向夏の白い皮の部分まで用いたり、メインディッシュのホロホロ鳥では皮が付いた肉の部位をサラダにつくり上げたりと、素材を全て使い切ろうという強い意志が感じ取れます。
まさに今の時代に相応しい美食であるといえるでしょう。
見応えあるワゴンサービス
次に注目したいのは見応えのあるワゴンサービスです。
最初にハウスシャンパーニュである「バロン・ド・ロスチャイルド ブリュット」のマグナムをはじめとしたシャンパーニュ3種がワゴンで運ばれてきます。マグナムボトルなどのシャンパーニュが凛と並べられているのは壮観です。
目の前でパンが切り分けられたり、バターが取り分けられたりする様子も見ていて飽きません。オプションで体験できるフロマージュワゴンでは、大理石に載せられた8種類のチーズが手際よく皿に切り分けられます。
食後にコーヒーや紅茶などのドリンクを選べますが、ハーブティーは目の前でつくってもらえ、ワゴンサービスは最初から最後まで見所が満載です。
これだけ豪華で上品な空間でありながら、迫力ある臨場感まで楽しめるファインダイニングというのは、そうそうないのではないでしょうか。
充実したワイン
最後はワインが充実していること。
グラスワインであれば、先に挙げたようにシャンパーニュ3種類、さらには白ワイン6種類に赤ワイン5種類、デザートワインも3種類と、グラスワインが17種類も用意されています。通常の倍くらいのグラスワインが飲めるといってよいでしょう。
グラスシャンパーニュは「ヴーヴ・クリコ ヴィンテージ ロゼ 2012年」や「ペリエ・ジュエ ベル・エポック 2013年」など、ヴィンテージが飲めるのは非常に貴重。
ボトルでは、様々なワインを楽しむのは金額的にもボリューム的にも難しいだけに、グラスワインが豊富なのはとても良心的です。
500種類あるフランスワインに、イタリアワインやアメリカワインを合わせると、トータルで700種類4500本もあるというので、ワインのバリエーションには驚かされます。
充実したワインとのマリアージュによって、フランス料理をより探求できることは間違いありません。
地方の空気を感じてインスピレーションを養う
マルタン氏は真摯な表情でこう結びます。
「コロナの影響でなかなか日本全国を旅することができないが、実際に足を運び、その土地ならではの食材をもっと知りたいと思っている。私はフランスの小さな町の出身なので、地方の空気を感じてインスピレーションを養い、料理に生かしていきたい」
特に気になっている地域は北海道、沖縄県、京都府であるといい、沖縄県の蜂蜜や北海道のバターを既に取り入れています。今年の3月からは山梨県にある有機栽培農園と専属契約し、そこで栽培された野菜の割合を今後増やしていくなど、コロナ禍においても非常に意欲的です。
マルタン氏が日本の食材を追求する姿は、まさに日本のテロワールを存分に生かすというコンセプトを体現するものであり、コロナ禍にあってさえも進化する様子を目の当たりにしていると、今後のさらなる躍進を期待しないわけにはいきません。