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新NISAでPayPayは「10億円」還元 躍進なるか

山口健太ITジャーナリスト
新NISAで総額10億円を還元(PayPayのプレスリリースより、筆者作成)

2024年1月から始まる新NISAに向けて、PayPayは総額「10億円」のポイント還元キャンペーンを発表しました。

その内容やタイミングは、かつてPayPayが躍進するきっかけとなった「100億円」キャンペーンを彷彿とさせるものになっています。

新NISAで10億円相当を還元

PayPay証券がPayPayのアプリ内で提供する「PayPay資産運用」は、2024年1月からの新NISAに対応。口座数は、申し込み開始から2か月弱で10万件を突破したといいます。

メディアなどで取り上げられるのは楽天証券やSBI証券など主要5社が中心で、そこにPayPayが入っていないことを考えれば、1か月に約5万件という増加ペースは十分に勢いが感じられるところです。

一方、NISA口座数で業界最多をうたう楽天証券は、11月30日に500万口座の達成を発表。6月末の約450万口座から1か月に約10万件のペースで増えている計算になります。

果たしてPayPayが追い付く可能性はあるのか、注目したいのがキャンペーンの存在です。NISA口座で「つみたて」を利用すると最大10%、期間中に最大3000ポイントが還元されます。

新NISAのつみたて投資枠は年間120万円(月10万円)ですが、毎月1万円の積み立てで最大までポイントを得られるという、ハードルが低いものになっています。

1月からの開始に向けてあまり時間がなく、もっと早く発表してほしかったところではありますが、年明けにNISA口座を開設した場合でもキャンペーンへの参加は可能とのことです。

またNISA制度では、2024年分の買い付けをする前であれば、金融機関を変更することもできます。すでにNISA口座を開設してしまった場合でも、まだ間に合う可能性があるわけです。

ところで、新NISAでは低コスト競争が進んでおり、金融機関にとっては旨みが少ないといわれる中、この「10億円」はどこから出てきたお金なのでしょうか。

PayPay広報に聞いてみたところ、「キャンペーンの原資は非公開だが、口座獲得やNISAの利用促進を目的としている」とのこと。PayPay資産運用のサービスを提供するのはPayPay証券株式会社ですが、キャンペーンの主催はPayPay株式会社としています。

PayPay資産運用で投資信託を買い付けた場合の手数料は無料。毎年発生する信託報酬についても低コスト化が進んでおり、大きなポイント還元をしてしまう数年程度では取り戻せない計算になります。

他の金融機関の場合、NISAをきっかけに他の金融商品の販売につなげていくという狙いが見え隠れするものの、PayPay証券にはそうした商品があまり充実していません。PayPay経済圏の中でどういう役割を果たしていくのか、面白い存在といえます。

PayPayユーザーをどれくらい取り込めるか

かつてPayPayは2018年に「100億円」の還元キャンペーンを実施。「20%還元」で社会現象を巻き起こし、当時は無名だったPayPayが躍進するきっかけになりました。

NISAにおいてもPayPayは後発となったものの、iPhone無料アプリのダウンロード回数では年間5位、他社を上回る加盟店数、そこからくる利用回数の多さは強みといえます。

現金や電子マネーとは違い、コード決済ではなにかとアプリを開く機会が多いため、「資産運用」や「NISA」といった文字が毎日のように目に飛び込んでくることになります。

PayPay証券としての口座数は80万口座と、まだまだこれからといった段階ではあるものの、ポイント運用で投資を体験した人を1300万人抱えているのも興味深いところです。

PayPayの本人確認済みユーザーは2500万人を突破。現時点では証券口座の開設には別途、本人確認が必要となっているものの、思い立ったときすぐに新NISAを始められるような仕組みが実現すれば、まだまだ勢力図を塗り替える余地がありそうです。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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