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賭博場等へのATM設置の是非

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

さて、昨日のエントリにてカジノ、公営競技、パチンコの三つのギャンブル等産業において現在検討されている依存問題対策について総括をしたました。

【参照】IR整備推進本部が本格検討に着手、各業界の依存対策は?

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9524763.html

本日はその中でも、私が最も衝撃を受けたATM設置問題について改めて言及せざるを得ません。3月31日に行われたギャンブル等依存対策推進閣僚会議において、各公営競技を所管する省庁は競技場へのATM設置に関して以下のような現状を報告しています。

農水省:

一部の競馬場(中央競馬10カ所中5カ所、地方競馬15カ所中2カ所)及び場外馬券売場(中央競馬42カ所中2カ所、地方競馬82カ所中2カ所)には、競馬ファンの利便性の向上を図るとともに、現金を持ち歩かずに済むことによる防犯上の観点も考慮して、 ATM が設置されている。当該 ATM では、クレジットカードによるキャッシングサービス(以下「キャッシング」という。)が利用可能である。

経産省:

一部の競輪場(43 カ所中3カ所)及び場外車券売場(71 カ所中8カ所)には、競輪・オートレースファンの利便性の向上を図るとともに、現金を持ち歩かずに済むことによる防犯上の観点も考慮して、ATM が設置されており、いずれも引き出し上限額が設定されている(2台が上限額 50 万円、9台が上限額5万円)。当該 ATM では、キャッシングが利用可能である。

国交省:

一部の競走場(24カ所中、19カ所)及び場外舟券売場(73カ所中、9カ所)には、モーターボート競走のファンの利便性向上を図るとともに、現金を持ち歩かずに済むことによる防犯上の観点も考慮して、ATM が設置されている。当該 ATM では、キャッシングが利用可能である。

各公営競技の競技場、および場外投票所においてATMが設置されていることは私も認知していましたが、あれってキャッシング機能も普通について居たのですか!? 各所管が述べている「現金を持ち歩かずに済むことによる防犯上の観点」というのはATM設置の一つの正統性であるとは思うのですが、一方のキャッシング機能の提供はそれとは質が全く違うものなのではないでしょうか。

これと比較になるのがパチンコ店におけるATM設置です。現在、全国に1万店ほどあるパチンコ店の中でおよそ1000台程度のATMが稼動しています。このパチンコ店におけるATM設置に関しては、日本共産党が国会の委員会審議の中で度々取り上げ、糾弾してきた事案でもあります。

ただ、この共産党によるパチンコATM批判は彼らなりのポジショントークといいましょうか、公営競技側の実態を糾弾せずしてパチンコだけを糾弾するというのはいつもながらの共産党スタイルであり、私としてはナンダカナァと思いながら当時も眺めていた記憶があります。

【参考】共産党のカジノ反対論に関して

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/8815520.html

一方で実は、これらATMはパチンコ店向けに開発された特殊なATMでありまして、以下のような機能が事業者側の自主的な規制として付加されています。

パチンコ店設置ATMにおける各種自主規制

画像

出所)社内資料に基づく

事業者としては、金を外部金融に借りてまでギャンブルをさせることというのは、当然ながら憚られるわけでキャッシング機能なんぞは当然のように設けていない上に、銀行からの引き出しに関しても一日3万円、月間累計で8万円という上限を設け、同時に各段階ごとに様々な「使いすぎ注意」の警告を行う機能を付加するなど、様々な規制があるわけです。

一方、今、公営競技側が今後のATM規制に対してどのような依存対策措置を行うかといっているかというと、そろいもそろって以下の文言でほぼ統一した回答を寄せている状況。

キャッシングで調達した資金で馬券の購入が可能であるため、競馬場及び場外馬券売場に設置されている ATM のキャッシング機能の廃止について検討の上、取扱方針を決定する必要がある。

おそらく会議前に、公営競技を所管する各省庁同士で意見調整をした結果なのでしょうが、そろいもそろってキャッシング機能を廃止するという、今パチンコ店に入っているATM規制なんかよりも圧倒的にユルユルの制限措置を表明しているのみであります。さて、それで本当に十分であると思っているのでしょうか?

そもそも、法律上「賭博」として位置づけられてている公営競技は、一方で「遊技」として定義されえいるパチンコと比べ、「ゲームとしての射幸性が高い」というのは我が国の制度的な整理であります。だとするのならば、当然ながらパチンコより厳しい各種制限を受けるのは当たり前のこと。むしろ、制度上は同じく「賭博」として位置づけられながら営業をスタートするカジノに対するものと同等の規制が求められるわけです。一方で、現在行われているカジノ側の論議では、キャッシング機能の規制どころか「カジノ場内のATM設置は禁止すべき」とするのがこれまでの主流な論となっているわけで、公営競技業界はそのあたりの制度的な整合性に関してどのように説明をなすつもりなのでしょう。

この点に関しては最低でも現在のパチンコ店と同等の規制、ひょっとするとカジノと同等の規制が必要だという前提で、今後の論議を進めて頂く必要があろうかと思います。関連省庁の皆様は、改めて横同士の意見調整を図って頂きます様、よろしくお願い申し上げます(笑

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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