ペットショップの犬猫販売、NYで違法に。ペット好きな人に知ってほしい米国ペット流通業界の今
アメリカ・ニューヨーク州では今月15日より、ペットショップでの犬、猫、うさぎの販売が違法となった。
州議会でペットショップのペット販売を禁じる法案が可決されたのは2022年6月。同年12月にホークル州知事が署名し、あとは施行を待つのみとなっていた。
あれから2年、ペット販売にまつわる事情はついに大きく前進した。
長年、業者にとってドル箱だった犬や猫の命
ペット販売を禁じる法律施行に向け、市内のペットショップでは在庫処分のため、大バーゲンが行われた。
市内での子犬価格の相場は2000〜3500ドル(30万円~54万円)だったのがバーゲンにより半額以下、中には500~600ドル(7万7000~9万2000円)で取引された命もあった。
店にとって長年、犬や猫の命はまさにドル箱だった。
ある販売店のスタッフによると、子犬がもっとも売れる時期はクリスマス前のホリデーシーズン、まさに今だ。
人々はクリスマスのギフトとして犬や猫、うさぎをまるで「モノ」のように買っていく。
軽い気持ちで家族として迎え入れられたペットのその後は悲惨だ。
ホリデーが終わると、または春の引っ越しシーズンになると、衝動買いされたペットの多くは「お荷物」になり、再び「モノ」として捨てられる。
運良く動物シェルターに保護してもらえたとしても、受取手が見つからなければ最終的に殺処分の対象となる。
「売れ残った犬はシェルターに送られると聞いたので」と閉店間際に半額で子犬を購入した女性は、新たな法律によって犬の違法な繁殖がなくなることを期待していると言った。
なぜペット販売はいけないことなのか?
筆者はこれまで動物シェルターやパピーミルでの乱繁殖撤廃を目指す活動団体を取材し、ペットの悲惨な現実を目の当たりにしてきた。
業界にとってドル箱である子犬を乱繁殖させる「子犬生産場」のパピーミルの存在は、最近日本でも徐々に知られるようになってきただろう。
ペットショップのショーウィンドウなどに陳列されている可愛い子犬は大抵このパピーミルから来ている。
その子犬を生んだ母犬の人生は悲惨だ。狭いケージの中で多頭飼いされ、散歩もなく掃除もされない不潔極まりない劣悪な環境に置かれている。年を取ったり奇形児を産んだりした母犬は「お役目終了」となり殺処分される。ペットショップで売れなさそうな見た目が良くない子犬も殺処分の対象となる。
これらの悪循環は「買う人」がいる限り、ずっと続いていく。
そのような腐敗したペット流通業界の悪循環を断つため、ニューヨーク州が踏み切ったのが、ペットショップでの犬、猫、うさぎの販売を禁ずる法律(The Puppy Mill Pipeline Act)だ。
この法律の施行によって、パピーミルからニューヨーク州に流入するペットの数が抑制され、代わりに保護施設やシェルターからの譲渡が促進されることが期待されている。
このような動きは現代のペット流通業界の一つのトレンドとなっている。アメリカではカリフォルニア州を始めいくつかの州で、また海外だとフランスで同じ動きがある。
米メディアによると、この法律の違反者にはニューヨーク州では1件につき最大1,000ドル(約15万円)の罰金が科せられることになる。ペット販売ができなくなった店舗は州の支援のもと、アダプション(里親探し)の支援スペースとして再開したり、ほかのビジネスに転向したりして活路を見いだそうとしている。
ニューヨーク在住の松村京子さんは、ペット譲渡会で出合ったパピーミル出身の母犬を今年、家族として迎え入れた。彼女は不動産業の傍ら、ボランティアとしてパピーミル犬や捨て犬の里親探しも行なっている。
彼女のもとには現在、2匹目のパピーミル犬が保護されており、里親になってくれる人を探しているというが「ホリデーシーズンの時期はクリスマスプレゼント用にペットを衝動買いする人が絶えず、パピーミル犬は見向きもされないんです」と肩を落とす。
「犬猫の里親になると言っても無料ではないし、面接やペーパーワークなどがありプロセスも複雑ですから『だったら簡単に今日買ってしまおう』というのがこれまでのペット流通業界の現状でした。店での販売が禁止となったことはペットの命を無駄にしない世の中への第一歩になると信じています」
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(Text and photos by Kasumi Abe)無断転載禁止