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ペットショップでの犬猫販売が禁止に。ペット販売業界に異変が起きている米最新事情

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ペットショップの店頭に陳列された子犬。(c) Kasumi Abe

アメリカ、ニューヨーク州では今年からペットショップでの犬、猫、うさぎの販売が禁止となる。

ペットショップでそれらのペット販売を禁じる法案が州議会で可決されたのは2022年6月のこと。同年12月にはキャシー・ホークル州知事が法案に署名、あとは施行を待つのみとなっていた。

あれから2年、ペット販売にまつわる事情はようやく大きく前進しようとしている。

ペットショップでの犬猫販売がなぜ良くないことなのか?

このようなペット販売をなくす動きは全米で広がっており、カリフォルニア州、コロラド州、メイン州、メリーランド州、イリノイ州、ワシントンD.C.でも同様だ。また、フランスでも同じ動きが見られる。

ニューヨーク州がこのように大きく舵を切ったのは、長年問題となっている腐敗したペット流通業界(ペットの生体展示販売)にメスを入れるためだ。

皆さんは「パピーミル」という場所をご存知だろうか?

パピーミルとは子犬を乱繁殖させる「子犬生産場」だ。店で陳列されている可愛い子犬たちは大概このパピーミルから来ている。犬たちはパピーミルの狭くて不潔極まりないケージの中に何匹も一緒に入れられ、ろくな餌を与えられずに飼育されている。当然犬は精神を病むし身体も弱い。子犬を産ませるだけ産ませられた母犬は「お役目終了」となり、後は殺処分の対象となる。つまり子犬が大量に売れる(買う人がいる)限り、生産場所であるパピーミルがこの世からなくなることはない。

可愛い仔犬産業の「闇」。仔犬が量産されるパピーミルって?The Reality of Puppy Mills

ペットショップに可愛い子犬が並ぶ背景には、このような残酷な「現実」がある。一般のパピーミルは部外者にその劣悪な環境を公開することはないので、いかに非人道的な行いがなされているかは表に伝わりづらいが、興味があれば公開されている動画(上記)を見てほしい。「ペットビジネスの裏」を一度でも知ると、ペットショップで犬をまるでモノのように「買おう」なんて気持ちは失せるはず。

ニューヨーク市内のペットショップでは子犬が2000~3500ドル(29万円〜52万円)前後で販売されている。(c) Kasumi Abe
ニューヨーク市内のペットショップでは子犬が2000~3500ドル(29万円〜52万円)前後で販売されている。(c) Kasumi Abe

ペットショップ側からしたら、子犬は一匹売れるだけで30〜50万円の収入になるいわばドル箱だから、このビジネスから容易に手を引けないのだろう。よって行政が先頭に立ってこの悪しきパイプラインを遮断し、虐待的なブリーダーの活動と間違ったペットビジネスを阻止する目的で、新たな法律を作ったというわけだ。

どの子も痩せこけ覇気がない - パピーミル犬の譲渡会にて

重ねてだが、パピーミルで「用なし」と判断された親犬や売れそうにない奇形の仔犬は殺処分の対象となっている。

ASPCAによると、毎年アメリカでは630万匹(犬310万匹、猫320万匹)がシェルターに収容され、里親に引き取られるのは約410万匹。一方、殺処分されているのは92万匹(犬39万匹、猫53万匹)にも上る。

筆者は運良く殺処分の対象とならず、救出され里親のもとに引き取られた子の譲渡会に行った。

コネチカット州のある場所に今月、一台のマイクロバスが現れた。オクラホマ州のパピーミルとバックヤードブリーダー(裏庭で乱繁殖させる業者)から救出された犬を、新たなファミリー(保護先)と対面させるためだ。

救出団体のラビング・ポウズ・トランスポート、リンダ・テイラー-バッカルー(Linda Taylor-Buckaloo)さんは、SNSなどで募った犬の保護を名乗り出た人々のもとへこうして犬を届けている。オクラホマを今月11日に出発して各州を経由し、全部で44箇所回るそうだ。

パピーミルから救出した犬が、新たな保護先のファミリーに譲渡された。青いTシャツを着ているのが犬の救出を手伝っているリンダさん。(c) Kasumi Abe
パピーミルから救出した犬が、新たな保護先のファミリーに譲渡された。青いTシャツを着ているのが犬の救出を手伝っているリンダさん。(c) Kasumi Abe

引き渡し場所のファストフード店駐車場には5組のファミリーが「新たな家族」の到着を今か今かと待っていた。リンダさんはバスから一匹ずつ犬を下ろし、書類と共に家族に手渡した。

しかしどの犬も怯えている。身体からは糞尿の匂いがし、痩せこけて見窄らしい印象だ。背中を撫でると体の硬直が伝わってくる。人間に触られて緊張しているのだ。これまでこの子たちがいかに悲惨な状態で飼育されてきたのかを物語っていた。これからは新たな家族の下で、幸せに過ごしてほしいと願うばかりだ。

NYでペット販売禁止。いつから?

ニューヨーク州内でのペット販売禁止法の施行は2024年からとすでに決まっている。発効日は12月15日だ。

この法律はペットショップ業界のエコシステムをすでに変えようとしている。ニューヨークタイムズによると、この法律が適用されるのは州内の約80店舗に上る。多くのペットショップは現在も通常通り営業する中、廃業する店も出始めている。

同法の施行への道筋は一筋縄ではいかなかった。動物愛護活動家など多くの支持を集める一方、大きな財源を失うとして店の経営者との間で激しい衝突を引き起こし、法律に反対するロビー活動が湧き起こった。

州はそれらのペットショップが路頭に迷わぬよう、店に対して、12月15日以降はアダプション(里親探し)支援のスペースとして利用すること、またその場合に賃料を動物シェルターや救済団体に請求することを許可するなど、寄り添う姿勢も見せている。

早速閉店するペット店も。16年間の営業を経て昨年大晦日に閉店を告げる州内のペットショップ。(c) Kasumi Abe
早速閉店するペット店も。16年間の営業を経て昨年大晦日に閉店を告げる州内のペットショップ。(c) Kasumi Abe

しかしこの法律により、人々が今後ペットを飼いにくくなること、さらにペット販売の闇市場につながる可能性を指摘する専門家もいる。

筆者は、今年の暮れ以降の行く末について店の経営者に話を聞こうとしたが、期日ギリギリの12月14日までは店の運営を続ける意向とし、それから後は「未定」と口を噤み、多くを語らなかった。

ペットショップでの販売がなくなるまでもう少しだ。当地でのペット流通業界は今後大きく変わっていく。

ホリデーシーズンは子犬も大量に取引された。人間の身勝手で犬が取引され、さらに最終的にシェルターに捨てられる犬もいる。(c) Kasumi Abe
ホリデーシーズンは子犬も大量に取引された。人間の身勝手で犬が取引され、さらに最終的にシェルターに捨てられる犬もいる。(c) Kasumi Abe

(Text and photos by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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