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Netflixに新作を見捨てられたハリー王子とメーガン妃、ハリウッドのキャリアはいよいよ窮地?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 ハリー王子とメーガン妃のハリウッドでのキャリアが、またもや壁にぶち当たった。夫妻がプロデュースした最新のドキュメンタリーシリーズ「POLO/ポロ」が、世の中で完全スルー状態なのだ。

 製作配信したNetflixも最初から期待していないようで、宣伝活動もまるでやっていない。Netflixはロサンゼルスのサンセット通りにいくつもの看板広告スペースを確保しており、常にさまざまな自社作品の宣伝をしているのだが、「POLO/ポロ」の広告はどこにもない。Netflixのトップページに出てくる「New on Netflix」のコーナーにはかろうじて並んでいるものの、この作品の存在すら知らない人がほとんどだろう。

 批評家に見てもらおうともしなかったようで、批評家の評を集めるレビューサイト「Rottentomatoes」にも、何も上がっていない(一般観客の評価は出ており、なんとも残念な20%)。イギリスの新聞など、自分たちで注意を払っていたいくつかのメディアは批評を書いているが、好意的なものはなし。配信作品を紹介し、見るべきかパスするべきかを伝えるサイト「Decider」も、「ポロというスポーツを詳しく知りたい人には面白いかもしれない。そうでないなら、特権階級の人たちが金持ちのためにエリートのスポーツをするのを見せられるだけ」、「とくに第1話は入っていきづらい。ほとんどの人には共感しにくい世界だし、退屈なのだ」と酷評。この作品は「パスするべき」だと書いている。

「POLO/ポロ」は全5話のドキュメンタリーシリーズ(Netflix)
「POLO/ポロ」は全5話のドキュメンタリーシリーズ(Netflix)

 そもそも、この企画が通ったこと自体がありえないのだ。Netflixが1億ドルといわれる大型契約を結んだハリー王子とメーガン妃が出してきた企画だからという以外に、理由はない。

 2022年末のドキュメンタリーシリーズ「ハリー&メーガン」と2023年1月に出版されたハリー王子の回顧録「Spare」以来、何のヒットも生み出していない夫妻は、今年、ハリー王子が中心になって進める「POLO/ポロ」と、メーガン妃が中心のタイトル未定のライフスタイルについてのドキュメンタリーシリーズをNetflixで手がけることを発表した。これらの企画が苦し紛れなのは見え見えで、この時点でもゴーサインを出したNetflixに対する疑問の声は聞かれていた。

 ハリー王子が個人的に愛しているとはいえ、一般人の興味が薄いスポーツについてのドキュメンタリーを5話にわたって語る企画など、普通であれば通らない。それなりに製作費もかかるのに、そうまでしてこの夫妻との関係を大事にしたかったのか。しかも、Netflixは、やはりハリー王子が中心になってプロデュースした「ハート・オブ・インビクタスー負傷戦士と不屈の魂」の失敗から学んでいるはずなのだ。あのドキュメンタリーシリーズも、意図するところは良かったにしろ、5話にする必要はなく、作るにしても1本の映画で十分だった。

 5話にするほうがNetflixから入ってくるお金が多いからそうしたのかもしれないが、であれば見る人のことを考えていない。その結果、たとえ見ようと思ってくれた人がいたとしても、1話で挫折されてしまい、作品のためにも、出演してくれた人のためにもならなかった。こういうところにも、この夫妻にエンタメ界の作り手としての基本的な頭脳が欠けているのが見える。

Netflixと契約を結んだときと今はハリウッドの状況が違う

 しかし、この数年でハリウッドは大きく変わってきた。かつては損得考えず、ひたすらコンテンツを製作していた配信各社も、今では財布の紐を固くし、完成している、あるいは撮影が終わっているものまでお蔵入りさせている状況だ。ハリー王子とメーガン妃の知名度に惹かれてNetflixやSpotifyが大型契約を結んだ時代とは違う。

 Spotifyは、ぱっとしないポッドキャストしか届けられなかったメーガン妃にすぐ愛想をつかし、昨年、契約を打ち切った。Netflixの契約は2025年末までで、更新はないだろうと多くが予想している。来年初めに配信開始予定だというメーガン妃のライフスタイルについてのシリーズが最後になるのかもしれない。ハリー王子とメーガン妃は、恋愛小説「Meet Me at the Lake」の映画化権を買っているが、今のところ具体的な動きはなく、契約終了する前にNetflixで製作を始められるのかどうかはかなり疑問だ。

 今年、夫妻が世の中に送り出したのは「POLO/ポロ」だけ。Spotifyから切られた後にメーガン妃が契約を結んだポッドキャストの会社レモネーダでは、まだ何も動き出していない。メーガン妃にはハリウッドのトップタレントエージェンシー、ウィリアム・モリス・エンデヴァー(WME)がついており、彼らも全力を尽くしているはずだが、驚くほど何も持ってくることができていない。

 イギリス王室の悪口ネタで世界を注目させた夫妻だが、もはやこのネタはNG。これを引っ張り出してくるとイメージが悪化することは、本人たちにもわかってきている。だが、それ以外に提供できるものがないことは、この4年ほどで明らかになった。そんな夫妻のハリウッドでの将来はあるのか。

 Netflixとの最後の年である来年は、まさに勝負どきだ。今年撮影を終えているメーガン妃のライフスタイルのシリーズは、ジャムやテーブルウェアなどを販売するブランド「American Riviera Orchard」のローンチと合わせて配信開始されるとのこと。料理、友情、おもてなしなどにフォーカスするシリーズだそうだが、料理についての優れたコンテンツがたくさんある中、その分野のエキスパートでもないメーガン妃は、どう差別化し、視聴者にアピールするのか。また、世間は彼女が展開する商品に飛びつくのだろうか。

 この夫妻のキャリアは、いよいよ分岐点に直面している。

 

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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