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少人数学級にする必要性と優先順位は高いのか?(1)コロナ対策としての有効性への疑問

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:ミラタス/アフロイメージマート)

 少人数学級の実現を求める声が大きくなっています。大きな背景のひとつが、今回の新型コロナウイルスです。1クラス40人の、いわば、"すし詰め"状態なのは、密につながるとして、「一刻も早く少人数クラスにするべきだ」という声が、教育関係者や保護者、有識者らから上がっています。

 もうひとつの背景は、大勢の先生たち(+子どもたちも、かもしれません)が、少人数のよさを実感したことです。休校明けの5月、6月に分散登校を実施した学校も多くありました。たとえば、ひとクラスを二分割して、午前と午後で20人ずつで授業した例などです。やはり、アタマだけで考えるのと、実際やってみるのとでは、ちがう部分もありますよね。

 ある小学校教諭は「個々の子供に目が行き届き、つまずきの把握や声掛けの量なども全然違った」、「子どもたちが落ち着いていた」と述べていて(教育新聞2020年8月18日)、同様の感想は多くの先生からも聞くことができます。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

 教育新聞社の最近の調査によると、実に96.6%の公立学校の教員が少人数学級に「賛成」と述べています(同紙8月13日、ただし回答者は147人なので、多くはない点には注意)。わたしが6月に実施した教員向けアンケート調査でも、公立小中高の教員(回答者数679)の96.9%が少人数学級について「必要性が高い」と回答しています(「とても高い」と「やや高い」の合計)。

 先日25日に開催された政府の教育再生実行会議でも、「少人数学級を進め、30人未満の学級にしてほしい」との意見が出され、これに対する異論や反対意見は出なかったとのことです(教育新聞8月25日)。

 このままいくと、少人数学級の実現に向けて、本格的に動き出しそうです(※1)。さて、本当にそれでいいのでしょうか?

 本稿(+次回以降の記事)では、少人数学級が必要とされる理由、論拠を点検(確認)します。そのうえで少人数学級は本当に必要性は高いと言えるのかどうか。仮に必要性が高いとしても、他の政策の選択肢と比べて、重要性、優先度は高いのかどうかについて、考えたいと思います。

(※1)

 「少人数学級」の定義、程度にもよりますが、大きな財政負担を伴うものとなる可能性も高いので、このまますんなりと進むとも思えません。ここ10年、20年をざっと振り返っても、文科省は何度も少人数学級の実現に向けて働きかけましたが、財務省の強い反対に押し切られてきた経緯もあります。

 現在、日本の制度では、1クラス40人学級が国の定める標準です(小1のみ35人学級)。たとえば、1学年41人の場合は、20人と21人の2クラスになりますが、40人の場合は40人1クラスになります。ただし、国が定めるのは標準であり、自治体独自に少人数学級にしている例も多数あります。

■なぜ、少人数学級が必要なのか?3つの理由

 少人数学級の定義は論者によってまちまちではありますが、1クラスの児童生徒数を30人以下や25人以下といったクラス編成にしていこうという主張は、以前からたくさんありました。最近のものでは、乾彰夫・東京都立大学名誉教授ら、教育研究者有志が「早急に30人学級、その後すみやかに20人程度の学級への移行」を政府に求める署名活動を展開しています(図)。この記事を執筆時点で約25,000人の賛同する署名が集まっています。

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出所)change.orgのサイトより抜粋

 全国知事会をはじめとする首長の組織、また、全国都道府県教育委員会連合会ら教育長の組織なども、少人数学級の実現を先日、文科相に要望しています。加えて、前述のとおり教育再生実行会議でも検討されています。

 さまざまな主張、アイデアはありますが、こうした動きを大づかみすると、おおむね、少人数学級の推進には3つの理由があると考えられます。

1)コロナ対策として、感染予防(または感染拡大防止)のため。

2)少人数学級になると、教師はより丁寧に一人ひとりの子のことを見られるようになるため。それにより、学力や心のケアなどの点でメリットが大きい。

3)教師の負担軽減のため。

 以下では、一つ一つについて、点検しましょう。

■1)コロナ対策として、少人数学級は必要か?有効か?

 次の資料をご覧ください。先日8月25日の教育再生実行会議で三幣貞夫委員(南房総市教育委員会教育長)が提出された資料です。この図以外にも多くの問題提起(大人数のクラスの弊害など)をお話しされています。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/dai47/yusikisha.pdf

三幣委員資料より一部抜粋
三幣委員資料より一部抜粋

 一般的な教室の広さでは、6×6で36人入ると、かなりキツキツということを示しています。文科省は衛生管理マニュアルで「児童生徒の間隔を可能な限り2メートル(最低1メートル)確保するように」と呼び掛けています。36人でギリギリ1m間隔になるかどうかということで、ソーシャル・ディスタンスを取りやすくするためには、少人数学級のほうがよい、という主張です。

 なるほど、と思いますし、児童生徒の安全は第一です。ですが、いくつか気になることがあります。2点申し上げます。

 第一に、これまでの知見では、学校の教室でコロナの感染拡大はそう起きていません。6月~7月の各地の情報(小中高特支)を文科省がまとめたところ、学校内感染は4件、11人です(次の図)。その4件のうち2件は部活動です。

文科省通知(8/6)「小学校、中学校及び高等学校等にかかる感染事例等を踏まえて今後求められる対策等について」
文科省通知(8/6)「小学校、中学校及び高等学校等にかかる感染事例等を踏まえて今後求められる対策等について」

 少子化しているとはいえ、現在も全国には約3万6千校あり、約1,300万人の児童生徒がいます。そのうちの2件や4件です。感染経路不明もありますし、今後はどうなるか未知のところもあります。油断できるウイルスではないことは確かですが、とはいえ、教室のなかでの感染事例はこれまでのところ極めて少ない、ということは事実です。

 第二に、仮に少人数学級になっても、ほかにも感染リスクは残ります。これまでの事例を見ると、部活動や寄宿舎は特に気を付けないといけないでしょう。憲法学者の木村草太教授(東京都立大学)はこう述べています。

学校生活では、休み時間や登下校中のおしゃべり・遊びなど、飛沫(ひまつ)感染の危険がより高い活動が無数にある。授業程度の交流で感染拡大するほど危険な状況なのなら、少人数教育ではなく、休校やオンライン授業にする必要があろう。ウイルスを理由にした20人学級推進論は火事場泥棒的ではないか。

出典:沖縄タイムス2020年8月9日

 わたしは、木村教授の見立てのほうに共感します。今回のコロナは幸い、児童生徒同士でうつすことは稀なようですが、仮に、新型コロナが変異したり、または新たな感染症が襲ってきたときに、児童生徒への感染力が強く、かつ重篤化するリスクが高い場合、少人数学級だろうが、40人学級だろうが関係なく、休校や学級閉鎖になると思います。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

 しかも、コロナを理由として、少人数学級にするとしても、30人以下、20人以下などの大きな変革には、時間を要します。教員の養成も必要ですし、教室の増加なども必要だからです。本当に感染リスクが高いのなら、少人数学級という政策で、果たして間に合うのでしょうか?

 さて、基本的な情報を確認しておきたいと思います。現在の学級規模の状況です。次の資料は、先ほどの教育再生実行会議での参考資料として事務局が出したもののなかにありますが、OECDの統計です。日本は他の先進国と比べても、1学級あたりの児童生徒数はとても多いです。中学校ではワースト1位です。

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 たしかに、日本の最大40人がひと学級にひしめくというのは、感染症には脆弱と言えると思います。ですが、先ほど、疑問を投げかけたように、だからといって、少人数学級の必要性と有効性が高いと言えるかどうかは、感染症や建築、公共政策等の専門家を交えつつ、慎重に考える必要があると思います。コロナの感染状況にもよるので、一概に言える話ではありませんが、日本よりもはるかに少人数学級である欧米諸国などは、休校にして、オンラインでの授業などに取り組んできていることも思い出してください。

■大人数の学級が多いかどうか、都道府県ごとの差が大きい

 しかも、先ほどのOECD統計は、あくまでもオールジャパンの平均値です。1学年41人になると、20人と21人の2クラスになるように、学校ごと、地域ごとに、学級規模の状況にはかなり差はあります。

 次は都道府県別の状況を図示しました。まずは小学校。

学校基本調査(令和元年度)をもとに筆者作成
学校基本調査(令和元年度)をもとに筆者作成

※特別支援学級も含むデータ(本当は除いて普通学級のみで比べたいが、文科省の統計上、区別できない)。

 赤色の折れ線グラフは、31人~40人学級の数の割合ですが、この割合が5割近い都道府県もあれば(つまり、その県等の半数近くのクラスでは1教室に30人以上いる。)、10%にいかない県もあります。非常に都道府県ごとの差が大きいことがわかります。次の表はこの割合が高いところをピックアップしておきました。

学校基本調査(令和元年度)をもとに筆者作成
学校基本調査(令和元年度)をもとに筆者作成

 次は中学校の学級規模の分布です。中学校のほうが小学校よりも規模は大きい(複数の小学校から集まってくることが多い)ので、31人~40人学級は多くなる傾向があります。とはいえ、赤色の折れ線グラフを見てもわかるように、都道府県間の差は大きいです。

前掲と同じ
前掲と同じ
前掲と同じ
前掲と同じ

 

 

 なぜ、こんなに都道府県ごとの差が大きくなるかと言えば、ひとつは、少子化の影響や地理的な問題もあると思います。たとえば、1学年全体で20人しかいない地方では、20人学級になります。もうひとつは、各地域独自の政策の影響です。秋田県、福島県、徳島県などは早くから、少人数学級を進めてきましたから、31人以上の学級割合が少なめになります。

 さて、注目したいのは、31人~40人学級の割合が多い地域は、首都圏や愛知、福岡、大阪など、都市部が多いのですが、これはほぼ、コロナの感染拡大地域と重なります。

 つまり、仮にぎゅうぎゅう詰めの教室では、感染リスクが高い、心配だというのならば、都市部ほど、学級規模も大きい傾向があるし、感染状況も悪いので、政策を打つ必要性は高いと言えます。逆に言えば、都市部の学校で教室での感染が頻発していないこれまでの状況に鑑みれば、それは学級規模が大きい割には、感染力は高いとは言えない、という推定が働きます。もちろん、各学校でのコロナ対策に尽力いただいていることが功を奏している可能性も高いですが、その影響を考慮しても、上記の仮説が成り立つ可能性は残ると思います。

 わたしは感染症や医療の専門家でもありませんし、30人も40人もいる学級では危ない、または危なくないと断言することなどできません。ですが、「コロナが心配だから、いまこそ少人数学級を」という主張には、一見、とてもわかりやすいし、賛同を集めやすいのですが、少し疑ってみるところ、慎重に捉えるべき点もあるのではないか、ということは申し上げたいのです。

 思ったより長くなりましたので、(2)、(3)の根拠の点検については、次回に続きます。

⇒つづき:少人数学級にする必要性と優先順位は高いのか?(2)”きめ細かな指導ができる”って、本当?

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●妹尾の記事一覧

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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