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大反響の高校生による「大食い競技」批判は正しいか? 考察するべき5つのこと

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

高校生の意見

先日、ある高校生の記者が高校生新聞オンラインに投稿した記事が話題になりました。

テレビ番組の大食いチャレンジ企画に違和感「食材の無駄では?」/高校生新聞オンライン

記事の主旨は、テレビ番組の大食いチャレンジ企画に対する、批判に近い問いかけ。記者は食べることが大好きで大食い競技の番組をよく見ていましたが、違和感を覚えるようになったといいます。

違和感の理由は3つ。「苦しそうに食べる姿は見ていて気持ちよくないから」「食材を無駄にしているように見えるから」「SDGsを推進する世界的な流れに逆行する価値観を子どもたちに植え付けるのは良くないと思うから」ということでした。

記事が大反響

この記事はYahoo!ニュースにも転載されています。

テレビ番組の大食いチャレンジ企画に違和感「食材の無駄では?」高校生の主張(高校生新聞オンライン)/Yahoo!ニュース

大きな反響を呼び、約2000件のコメントが投稿。読んでみると、主旨に賛同したり、好意的だったりする意見が多いです。

私も記者と同様に、以前までは興味をもって、大食い競技や早食い競技の番組を観ていましたが、10年くらい前から違和感を覚えるようになりました。

そして、こういった競技に疑義を唱える記事を書いてきた経緯がありますが、当記事では改めて、大食い競技や早食い競技に対する私の意見を述べておきましょう。

念のため断っておきますが、当記事は、普通の人よりもたくさん食べる大食いの方を否定するものではありません。あくまでも、大食い競技や早食い競技という、コンテンツに対する考えを述べています。

摂食障害を助長していないか

大食い競技や早食い競技の大きな問題は、摂食障害を助長することです。

常軌を逸した量を食べていながらも、肥満ではなく、むしろ、痩せている競技者がいます。太らない体質の方もいると思いますが、本当に競技者の全てがそうでしょうか。競技者の中には摂食障害を患っている方もいます。そういった方が大食い競技や早食い競技の番組に出演していると、摂食障害を助長することにつながりかねません。

関係者からも話を聞いたことがありますが、収録の合間や後に嘔吐しています。何キロという並外れた量を食べていれば、嘔吐につながることは容易に想像できるでしょう。収録現場の様子を想像してみれば、まともなコンテンツであるとは思えません。

大食い競技や早食い競技はインパクトがあって視聴率が稼げるので、制作者はこういった都合の悪いことに蓋をしています。イメージを向上させるためにフードファイターと呼んでヒーロー化してみたところで、問題は変わりません。

摂食障害や嘔吐から目をつぶり、大食い競技や早食い競技をコンテンツ化するのは極めて不健全であり、非常に不誠実です。

つくり手をリスペクトしているか

大食い競技や早食い競技に欠けている視点があります。それは、つくり手の立場を考慮していないことです。

視聴者の中には「たくさん食べている様子を見ているのが気持ちいい」「あれだけたくさん食べられるのはすごい」といったポジティブな意見も聞かれます。

しかし、料理ができるまでの背景を鑑みれば、とてもそう感じられません。食材の生産者がいて、調理する料理人がいて、料理がはじめてでき上がります。

通常の何十倍という尋常ではない量をひたすら胃に流し込む様子を見て、料理人や生産者が喜ぶでしょうか。この様子を見て喜ぶ料理人や生産者を、私は知りません。節度をもって味わって食べることこそが、生産者や料理人、食材や料理に敬意を表することになるのではないでしょうか。

スポーツなのか

大食い競技や早食い競技はスポーツである、もしくは、大食い競技者や早食い競技者はフードファイター=アスリートであるといった主張も聞かれますが、これには疑問が付されます。

スポーツ庁のスポーツ基本法によれば、スポーツとは「心身の健全な発達や健康及び体力の保持増進のために行われる身体活動」です。

参考1 スポーツ基本法/スポーツ庁

必要以上の量を食べることが、心身の健全な発達を促したり、健康や体力を保持増進させたりすることがあるのでしょうか。摂食障害につながることも鑑みれば、なおさら相応しいように思えません。

スポーツ基本法に記載されている「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営む」という主旨からも外れているように感じられます。

どうしても競技にしたいのであれば、大食いや早食いではなく、いかにおいしそうに食べるか、いかにきれいに食べるかを競うようにすればよいのではないでしょうか。

食文化なのか

大食い競技や早食い競技は食文化であるという意見も見受けられます。

特に挙げられるのが、岩手県の名物であるわんこそば。お椀に入った一口大の温かいそばを、スタッフの掛け声とともに食べ、蓋を閉めるまで食べ続けるという仕組みになっています。

わんこそば/岩手県生めん協同組合

しかし、わんこそばには本来、大食いや早食いの要素はありません。茹でたてのそばを心ゆくまで食べるためのおもてなしの料理です。スタッフとコミュニケーションを取りながら食べるのが、わんこそばの醍醐味となっています。

海外でいえば、アメリカのホットドッグ早食い競争を食文化と主張する人もいるでしょう。しかし、パンを水に浸して食べることが、果たしてホットドッグの文化といえるのか、疑問です。

食育に則っているか

大食い競技や早食い競技は食育にも反しています。食育は、2005年に成立した食育基本法で「生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるもの」です。

食育/Wikipedia

食育の推進/農林水産省

食育って何?/文部科学省

食育基本法の中では「ゆっくりよく噛んで食べる」ことにも言及しています。食事する際には、たくさん食べることを意識するのではなく、しっかりと味わって食べることが重要となっているのです。

小さい頃に「食べ物を粗末にしない」「食べ物で遊ばない」と親から教えられた人は多いと思います。「無理をして必要以上に食べること」「道具のように扱って競争すること」が、こういった教えに反することはいうまでもありません。

是非を論じる時期にある

2021年4月29日に、中国の全国人民代表大会の常務委員会は、食品の浪費を禁じる法律を可決しました。

中国「食べ残し禁止」法可決 浪費ならごみ処理費負担も/日本経済新聞

飲食店などでの食べ残しが問題となっている中で、飲食店が料理を注文しすぎた客に食べ残しの処分費用を請求できるようになる法律「反食品浪費法」が成立したのです。

これに関連して、中国でも人気を集めている大食い映像の配信も禁止。大食い番組にかかわったテレビ局や動画配信業者などには最高で約160万円の罰金が科されます。

中国のやり方がよいかどうかはさておき、現代はもはや大量生産と大量消費の時代でないことは明白です。少なくとも、大食い競技や早食い競技を称賛したり、推進したりする時代ではないでしょう。

日本でも大食い競技や早食い競技の是非を論じる時期が訪れているように思います。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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