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時差ボケ「フクロウ型」学生に成績悪化の危険が

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 夜更かしが続いたり、昼夜逆転の生活をしたりすると、サーカディアン・リズム(概日リズム、体内時計)に変調をきたす。生理的なリズムがおかしくなるなどし、健康面に様々な影響を及ぼすことになる(※1)。フクロウのような夜更かし型の児童や学生の学業成績が落ちる、という研究も多く出されるようになってきた。

「社会的な時差ボケ」とは

 昨年2017年のノーベル医学・生理学賞は、サーカディアン・リズムのメカニズムとその遺伝子を発見した研究者に贈られた。サーカディアン・リズムについて簡単に説明すると、人間を含めた生物には、太陽が昇って朝になり日が沈んで夜になる、という1日のリズムに合わせた生理的な反応がある、ということになる。

 サーカディアン・リズムの変調や崩れでよく知られているのが時差ボケ(ジェットラグ、Jetlag)だろう。航空機の発達により多くの人が時差のある場所へ高速移動し、それまで過ごしていた時間帯に合わせたサーカディアン・リズムが一時的にズレてしまう。その結果、昼間に強い眠気を感じたり夜に眠れなくなったりする。

 こうした時差のある場所への高速移動ではなく、日常生活を送る中でサーカディアン・リズムが崩れてしまうことも起きるようになってきた。最近の研究では、これを「社会的な時差ボケ(ソーシャルジェットラグ、social jetlag、SJL)」などと呼んでいる(※2)。

 人類が火を扱い、夜の闇を恐れなくなってから、それほど長い時間が経っているわけではない。夜行性ではない人類は、火を手に入れてからも基本的には日が昇ってから活動を始め、日が沈んで暗くなると寝てしまうという生活を送ってきた。

 人類が夜間に活動できるほど恒常的な強い光源を手に入れたのはごく最近のことだ。それとともに夜更かししたり夜間も活動するようになり、サーカディアン・リズムが狂って時差ボケのような生理的変調を起こす。

 サーカディアン・リズムが崩れると生理的な影響が出て、例えば心血管疾患のリスクが高くなったり、血糖値のコントロールができにくくなるなどする。また、社会的な時差ボケに結果、睡眠不足が続けば、うつ病にかかりやすくなるなど精神的にも悪い影響が出ると警告する研究者もいる。

時差ボケ状態の「フクロウ型」学生

 こうした社会的な時差ボケによる影響が、児童や学生の学業成績に表れるという指摘も多い。米国のカリフォルニア大学バークレー校とノースイースタン・イリノイ大学の研究者が英国の科学雑誌『nature』系の「Scientific Reports」オンライン版に出した論文(※3)によれば、特に朝早い授業や講義を受ける学生に影響が顕著に表れたという。

 研究者は、ノースイースタン・イリノイ大学の大学生1万4894人を対象に、2014年の秋の新学期から夏休みを除く2016年の春までの同大の学習プログラムへのオンラインアクセス状況をデータベース化した。その結果、男性のほうが深夜から午前6時に女性よりも活動的で、女性は19時から24時に活発になる傾向があり、季節的には春で朝と夕方に学生が活動的になったという。

 米国の学生は年齢の幅が広く、対象者のうちわけは、10〜19歳が2323人、20〜29歳が8770人、30〜39歳が2337人、40〜49歳が910人、50歳〜が509人となっている。その結果、年齢が低いほど夜更かしの傾向があった。

 夜更かしする学生は自ずから朝が苦手で遅く起きる。逆の学生は朝型になるだろう。カリキュラムがそれぞれのタイプに合わせて取れればいいが、普通は朝の決まった時間から講義が始まるので、朝の苦手なタイプの学生は不利になる。

 サーカディアン・リズムはおおよそ24時間の周期になるが、研究者は学生を講義のない日の活動時間帯によって大きく3つの時差タイプに分けた。活動の中央時間が12時46分のヒバリ(larks、3857人)型、中央時間が16時22分のフィンチ(finches、日本でいえばスズメ、1万1261人)型、中央時間が20時20分のフクロウ(owls、3419人)型で、ヒバリは朝型、フィンチは中間、フクロウは夜型となる。

 サーカディアン・リズムではフィンチ型の学生が多数派だが、ここを中央値にするとヒバリ型の学生は約30分ほど前にズレ、そのピーク値が高いわりに幅は狭い。フクロウ型の学生は中央値より2〜3時間遅くなりピーク値は低く幅が広くなった。講義時間帯のパフォーマンスで比べると、フクロウ型は1日を通じてヒバリ型やフィンチ型よりも成績が悪い傾向だったという。

 これを学生ごとの受講カリキュラムでみると、サーカディアン・リズムが講義のスケジュールに合っている学生は全体の40.4%であり、講義が始まる朝の早い時間に自分のサーカディアン・リズムを合わせなければならない学生は49.2%もいた。逆に早める必要のある学生は10.4%で、これは朝型のヒバリ型の学生に多かった。

 研究者は、全体の60%の学生が1日の中で30分以上の時差ボケを経験し、夜型で後ろへズレているフクロウ型の学生の学力低下と時差ボケの間に大きな相関関係が認められたと主張する。そして、こうした傾向は講義のない日に時差ボケを生じさせた学生でより顕著であり、フクロウ型の中にヒバリ型やフィンチ型の学生よりも優れた成績の学生はいなかったという。

 十分な睡眠時間と同時に良好な睡眠の質を得るためにも、サーカディアン・リズムに合った生活が大事ということになる。もちろん、いつどんな時間帯にどんなふうに過ごすのかは個々人の自由だが、講義の選択や開始時間の調整にも限度がある。限られた資源の中で教育効果を上げたいのなら、学生に対して時間管理の意識を喚起することが必要なのはいうまでもない。

※1:「なぜ『夜に爪』を切ってはいけないのか」Yahoo!ニュース個人:2017/12/26

※2:Marc Wittmann, et al., "Social Jetlag: Misalignment of Biological and Social Time." Chronobiology International, Vol.23, Issue1-2, 2006

※3:Benjamin L. Smarr, et al., "3.4 million real-world learning management system logins reveal the majority of students experience social jetlag correlated with decreased performance." Scientific Reports, DOI:10.1038/s41598-018-23044-8, 2018

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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