よい黒トリュフの見分け方は? 帝国ホテル 東京が高級食材の黒トリュフにこだわる理由
黒トリュフの季節
寒さも一段と厳しい季節になってきました。この寒い時期にはおいしいものがたくさん増えていきます。
高級食材を挙げてみれば、フグ、カキ、アンコウ、ズワイガニ、タラバガニ、キンメダイなど海産物がすぐ思い浮かべられるでしょう。
しかし、海産物ではない、ある高級食材もこの時期に旬を迎えるのです。
それは、キャビア、フォアグラと並んで世界三大高級食材と称されている黒トリュフ。
グラムあたりの単価でいえば最も高級な食材といってもいい白トリュフが旬を終え、その後に黒トリュフの時季となります。
夏は色合いが薄く香りも弱いサマートリュフ、秋には少し色も香りも深まってきたオータムトリュフ、そして旬である冬を迎えれば、色も香りも濃厚な黒トリュフ(冬トリュフ)と、トリュフは季節によってがらりと表情を変えます。
ホテル挙げての黒トリュフメニュー
黒トリュフの中で、最良とされるフランス・ペリゴール産ともなれば、100グラム3万円程度はする超高級品。その黒トリュフをふんだんに使い、色々なレストランに取り入れているホテルがあります。
それは、帝国ホテル 東京です。
2019年のクリスマスケーキには東京料理長である杉本雄氏が130周年を記念して「Truffe『S』(トリュフ エス)2019」を手掛けました。ダコワーズ生地に黒トリュフを加えたり、黒トリュフのムースを閉じ込めたチョコレート製のトリュフを飾ったり、黒トリュフのスライスを添えたりするなど、他にはない豪華なクリスマスケーキに仕上げたのです。
同じく杉本氏が手掛け、「インペリアルラウンジ アクア」で1月1日から31日まで提供されている「BENTO ~新春寿(ことほ)ぎの巻~」にも黒トリュフが使われています。黒トリュフがブリア・サヴァランと共にサンドされたフォカッチャも楽しめるのです。
「BENTO」はフランス料理を野点弁当仕立てで堪能できるメニューとして2017年から販売されていますが、130周年を記念してさらなる進化を遂げています。杉本氏が料理を作るうえで日頃から大切にしている「お客さまに非日常の体験をしていただくこと。また料理で驚きを表現すること」を今回のメニューにも取り入れました。
鉄板焼「嘉門」でも「冬の特撰メニュー」コースの中で「たらば蟹と聖護院蕪のブラン・マンジェ オシェトラキャヴィア 黒トリュフのブイヨン」が組み込まれており、黒トリュフの妖艶な香りを体験できるようになっています。
「レ セゾン」では黒トリュフのコース料理
帝国ホテル 東京ではクリスマスケーキに始まり、パンと組み合わせたり、鉄板焼で提供されたりと、黒トリュフを用いた興味深い食の体験ができます。
こういった希少な黒トリュフの味わい方もいいですが、王道的な使い方といえば何といってもフランス料理。そしてもちろん、帝国ホテル 東京のフランス料理「レ セゾン」でも、この時季だけの特別な黒トリュフ尽くしの豪華なコースが用意されています。
その特別コースとはシェフのティエリー・ヴォワザン氏が自信をもって紡ぎ出した「シェフ ティエリー・ヴォワザンが贈る トリュフメニュー」。
「レ セゾン」はミシュランガイドで星を獲得し続けているフランス料理店で、ヴォワザン氏はフランス・シャンパーニュ地方を代表する名門レストラン「ボワイエ レ クレイエール」(現「レ クレイエール」)でもシェフを担った料理人です。
本場の黒トリュフを知るヴォワザン氏が生み出す料理は、一体どのようなものでしょうか。
コース内容
「シェフ ティエリー・ヴォワザンが贈る トリュフメニュー」の内容は次の通りです。
シェフ ティエリー・ヴォワザンが贈る トリュフメニュー
- 黒トリュフとじゃがいものサラダ
- 黒トリュフを羽織ったウフムーレット 塩味あるラールと一緒に
- フォワグラと黒トリュフ香るアーティチョークポワヴラードのファルシ
- 季節の野菜のポトフ 黒米とトリュフを散りばめて
- ジェラール・ボワイエ氏 直伝の黒トリュフのパイ包み焼き
- ブリヤ・サヴァラン トリュフ
- トリュフのガナッシュとベニエ
- カフェとショコラ
メニューを見てみると、前菜からデザートまで、黒トリュフが使われていることがわかるでしょう。
ヴォワザン氏が16年間師事したフランスの三つ星シェフ、ジェラール・ボワイエ氏から伝授された「黒トリュフのパイ包み焼き」も日本にいながらにして体験できます。
では、注目メニューを紹介していきましょう。
黒トリュフとじゃがいものサラダ
インカのめざめに黒トリュフ合わせた贅沢なサラダ。黒トリュフはブロックのような形状になっているので、百合根のような食感も楽しめます。ルッコラやアンディーブ、トレビスが周りに配されており、軽やかな歯触りと心地よい苦味。
黒トリュフを羽織ったウフムーレット 塩味あるラールと一緒に
今年からの新メニューです。半熟にしたポーチドエッグには黒トリュフのピューレをかぶせて、香りを豊かに。黄身の濃厚さと黒トリュフの香りがよく合います。黒トリュフはスタッフが目の前でスライスし、周りには香味が豊かな根セロリのムースとたっぷりのスプラウト。
フォワグラと黒トリュフ香るアーティチョークポワヴラードのファルシ
形のいいアーティチョークの中にフォワグラとトリュフのデュクセルを包み込んだ一品。アーティチョークは黒トリュフと共にガラス製のクロッシュに載せて運ばれ来て、スタッフが目の前でデクパージュして(取り分けて)くれます。アーティチョークのチップスやペーストも添えられ、アーティチョーク尽くしのところに、相性のよい黒トリュフが惜しげもなく散らされています。
季節の野菜のポトフ 黒米とトリュフを散りばめて
昨年のポトフからアレンジされています。野菜はあやめカブや京人参、底には鶏のエッセンスで煮た黒米や根セロリ。贅沢にも厚切りされた黒トリュフが、品のあるポトフに躍動感を与えています。黒米はトリュフと共に密閉保存されているので、トリュフの香りをまとっています。
ジェラール・ボワイエ氏 直伝の黒トリュフのパイ包み焼き
日本ではここだけでしか食べられない極みの逸品。ボワイエ氏のスペシャリテであり、ヴォワザン氏のシグネチャーディッシュです。
丸ごとひとつの黒トリュフをパイ包みにしているので、パイをカットすると鮮烈な黒トリュフの香りが溢れ出ます。フォアグラも包まれているので味わいが濃厚で、ソースにもたっぷりの黒トリュフ。
ソムリエのセレクトによるフランス・ボルドー地方・メドック地区・サン・ジュリアン村の赤ワイン「シャトー ラグランジュ」はふくよかで力強いので、黒トリュフの風味をさらに高めます。
ブリヤ・サヴァラン トリュフ
昨年から新しくなった一皿。フレッシュタイプのチーズであるブリア・サヴァランをエンダイブに取り合わせてサラダに。ブリア・サヴァランの爽やかな酸味に、黒トリュフの妖艶な香りが重なり、印象に残る一品となっています。
トリュフのガナッシュとベニエ
黒トリュフを練り込んだガナッシュをココア風味の生地で包み込んだ温かいベニエに、冷たい黒トリュフのアイスクリーム。精緻に配された幾何学的なプレゼンテーションも目を引きます。チョコレートと黒トリュフの相性のよさを改めて感じさせてくれるデザートです。
黒トリュフは黒いダイヤモンド
帝国ホテル 東京では、どうしてホテルを挙げて黒トリュフを用いた料理やデザートを提供しているのでしょうか。
東京料理長である杉本雄氏は「フランスでは、黒トリュフは『黒いダイヤモンド』を意味する『ディアモン ノワール』と呼ばれており、希少価値のある食材として大切にされている。この季節だけの貴重な食材を提供し、ゲストに非日常な特別感を味わっていただきたいという思いから、黒トリュフをメニューに取り入れた」とフランスでの経験を交えながら説明します。
黒トリュフの選定や仕入れで何か工夫はあるのでしょうか。
ヴォワザン氏は次のように語ります。「形と香りが大切で、ゴルフボールのようなものが好ましい。帝国ホテル 東京では、最初に黒トリュフが入荷する時に、レ セゾンで使用する黒トリュフについては必ず形や香りを確認してから入荷を決めている」と厳しい選定があるということです。
最後に杉本氏は「黒トリュフは宝石のように丁寧に取り扱っている。色々なメニューに用いて、黒トリュフの魅力を味わっていただけるようにしているので、是非とも召し上がっていただきたい」と力を込めます。
「黒トリュフのパイ包み焼き」は贈り物
ヴォワザン氏にも話を聞きました。
今年の黒トリュフについて尋ねると「フランス産を使用している。今年の質は上々で、毎年のようにやはり高価な食材」と答えます。
昨年と比べて、今年のコースは何が違うのでしょうか。
「今年は2つの料理を昨年から新しくした。『黒トリュフを羽織ったウフムーレット 塩味あるラールと一緒に』は新メニューで、『季節の野菜のポトフ 黒米とトリュフを散りばめて』は昨年のポトフからの変更。毎年のようにリピートくださるゲストが、今年もさらにお楽しみいただけるように工夫を凝らしながらも、クラシックな料理は伝統をしっかりと守っている」と、料理によって変化を加えているといいます。
オススメのメニューを尋ねると「黒トリュフの香りが豊かで味も素晴らしい『ジェラール・ボワイエ氏 直伝の黒トリュフのパイ包み焼き』はボワイエ師匠からの贈り物だと思っている。大切な料理なので、みなさまにも体験していただきたい」と自信を持ちます。
日本の黒トリュフ料理
ヴォワザン氏は「レ クレイエール」というフランスの名門店で腕をふるってきただけに、黒トリュフを知り尽くしています。
日本で本格的な黒トリュフの料理が食べられるのも、黒トリュフに造詣の深いヴォワザン氏のような料理人が、日本で本物の黒トリュフ料理の手本を示してきたからではないでしょうか。
来年も黒トリュフ尽くしのコースを提供するのかと訊くと「毎年楽しみにされているゲストがたくさんいらっしゃるので、是非ともそれに応えたい」ということなので、来年の冬も黒いダイヤモンドの香りを楽しむことができそうです。