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ベストメンバーの呪縛に取り憑かれる日本人代表監督

杉山茂樹スポーツライター
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 1998年フランスW杯予選に臨む少し前だったと記憶する。時の代表監督、加茂周氏はメンバー選考の考え方についてこう話した。

「14人目までは順当に決まる。スタメンの11人と交代の出場の3人は実力で選んでいけばいい。だがそれ以降は実力だけで選ばない。試合に出ない可能性が高くなるので、ベンチを温め続けても大丈夫な選手か、チームにマイナスな行動を取らない選手であるかが選考の基準になる」

 だが、フランスW杯本大会ではそれとは真反対の考え方が注目を集めることになった。この大会から3人に増えた交代枠をフル活用する戦術的交代である。ベスト4に入ったオランダ代表を率いたフース・ヒディンク監督が披露した、ベンチに下げる選手と異なるポジションの選手を投入し、ピッチ上の選手を玉突きで移動させる交代術だ。

 ヒディンクは本大会直前の最終合宿に入る前、すべての選手にFAXを送った。採用する布陣とそれぞれの選手がプレーするポジションの可能性を示した何十通りもの布陣図を、だ。最終合宿でこのすべてを試すのでそのつもりでいてくれ、とのメッセージを添えて。大会後、ヒディンクにインタビューした際、直に聞かされたエピソードなので間違いない。メンバー全員が高いモチベーションでW杯本大会に臨むことになったのだ。

 選手の多機能性をベースにした戦術的交代はこれを機に急速に浸透。選手のローテーションをそれに絡めるやり方が、短期集中トーナメントの主流になっていった。

 当時の概念を後で振り返ったとき、酷く前時代的だったと痛感させられる事例が、長くこの仕事に就いているといくつかある。ベストメンバー論はそのひとつになる。交代枠5人制に移行して数年経過したいま、26〜27年前に加茂さんが口にした選手起用法を振り返ると隔世の感に襲われる。

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スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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