Yahoo!ニュース

日米首脳会談は成功なのか? もしや安倍首相はポンペオ訪朝を知らされていなかったのでは?

山田順作家、ジャーナリスト
ネクタイが同じ柄になったのは偶然とか?(写真:ロイター/アフロ)

 もう聞き飽きた「日米同盟は強固」というアピールが繰り返されただけで、日米首脳会談はあっけなく終わった。いったい、安倍晋三首相はなんのために、フロリダまで出向いたのだろうか?

 結局、トランプ大統領は一緒にゴルフをしたかっただけだったのではないか。どう見ても今回の会談は、日本にとってはなんの成果も得られていない。

 ところが、メディアは予定通りに、拉致問題を米朝会談でトランプが取り上げてくれると明言してくれたことが成果だと伝えている。しかし、これは、会談などしなくても、すでにアメリカ政府から伝えられていたので、成果とはとても言えない。

 アメリカにとっては、拘束中のアメリカ人3人の解放が先で、それと合わせて「同じ人権問題」として議案に載せるということに過ぎない。なにも、特別に日本に配慮してくれたわけでない。

 さらに、焦点の貿易問題となると、これは日本側の明らかな譲歩だ。まず、鉄鋼・アルミ関税の適用除外とTPP復帰は、まったく相手にされなかった。そればかりか、FTA交渉に入ることを呑まされ、ライトハイザーUSTR代表と茂木敏充経済財政相の下部交渉(協議開始)に同意させられた。

 ともかく、2日目の会談の冒頭でトランプは「われわれはとてつもない対日貿易赤字を抱えている。できれば均衡を達成したい」と言ってきたのだから、日本の譲歩は初めから決められていたようなものだ。TPPについても「異議を唱えられないような提案が行われない限り戻らない」と述べたので、先のTPP復帰発言はただの“引っ掛け”(hook)だったことがわかった。

 そして、こうしたこと以上にインパクトがあったのが、「われわれは極めて高いレベルで北朝鮮と直接話している」と語り、『ワシントンポスト』紙の報道を受けるかたちで、ツイッターで18日、ポンペオCIA長官(次の国務長官)を極秘で北朝鮮に派遣し、金正恩と会談させたことを明らかにしたことだ。それは、なんと、この前のイースターウイークのことだから、もう1週間以上前のことだ。

  以下が、18日のトランプのツイッターである。

 "Mike Pompeo met with Kim Jong Un in North Korea last week. Meeting went very smoothly and a good relationship was formed. Details of Summit are being worked out now. Denuclearization will be a great thing for World, but also for North Korea! "(マイク・ポンペオが先週、北朝鮮で金正恩と会った。会談はとてもなめらかに進んで、いい関係が築けた。首脳会談の詳細はいま調整中だ。非核化は世界にとっても、もちろん北朝鮮にとっても最高なことになるだろう)

 そこで、問いたい。この事実をはたして日本政府は、事前に知らされていたのか? まさか、首脳会談になるまで知らされていなかったとは信じたくないが、そうだったのか?

 もし安倍首相が、ポンペオ訪朝を『ワシントンポスト』紙の報道で初めて知り、トランプのツイッターで確認したとしたら、日米同盟とはいったいなんなのか?

 解任されたティラーソン前国務長官ですら、自分の解任をトランプのツイッターで初めて知ったのだから、その可能性はないとは言えないだろう。

 さらに、トランプは、次のようにも述べた。

 "If the meeting when I'm there isn't fruitful, I will respectfully leave the meeting."(もし出席した会談で成果がなかったら、オレは丁重に立ち去る)

 だから、さらに聞きたい。安倍首相は、このトランプの言葉「fruitful」(成果=実りがある)の具体的な中身を確認したのだろうか? トランプにとってなにが成果なのか? それは本当に「完全で検証可能かつ不可逆的な核放棄」(CVID: complete, verifiable and irreversible disarmament)を指すのか? そして、その成果が得られなかったら、本当に会談から立ち去るのか? 立ち去れば、次のオプションは「予防戦争」(preventive war)となるが、それをはたしてアメリカは本当に実行するのか?

 こうしたことを、安倍首相はきちんと確認したのだろうか。これらが、本当に確認できていなければ、いくら日米同盟の強固さを強調しても虚しいだけだ。

 現在、「アメリカ史上最低の大統領」という評価が定着しつつあるトランプは、ポルノ女優ストーミー・ダニエルズとの下半身スキャンダルとロシアゲートで追い詰められつつある。このままの状態が続けば、11月の中間選挙で共和党が負ける可能性が高い。そうなると、トランプは「弾劾」されるかもしれない

 なのに、こんな大統領と同じ柄のネクタイをして、それが話題になるぐらいしか目立たなかった首脳会談をしてしまった安倍首相。成果が本物かどうかは、米朝会談後にならないとわからない。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

山田順の最近の記事